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燻る憎悪

 ヒロクたちの目が離れている隙に、ムバータの傍らに小さな影が音もなく近づいていた。ローブ姿の小男、シュベリだ。


 シュベリが両手で虚空に円を描くと、金色に光る魔法陣がムバータの周囲の地面に広がった。そしてその魔法陣が空中へ浮かび上がったと同時に、シュベリとムバータの姿がその場から掻き消えた。


 次の瞬間に二人が現れたのは、ディラメル館とは別の、遠く離れた森の中だった。


「……ぐ……ぬぅ……」


 腹に大穴を開けられたムバータが、呻く。

 意識を取り戻した。死んではいなかったのだ。


「キシシシ……! ムバータ様、お気を確かに」


「シュベリか……魔術による転送術だな、助かったぞ」


「これもガノヴァスの力の賜物。それにしても手痛くやられたものですな」


「憎らしい踊り子どもめ……! しかしもはや奴らを直接管理する必要はあるまい。どのみち奴らから生じるアムルアによってガノヴァスが実体化するのは確実なのだから」


 「しかし……」と言いながらムバータは巨体をゆっくりと持ち上げる。


「あのヒロクという若造……あやつの癒掌術はガノヴァスの導きから外れたものだ。本来ならただの転送だけで済ませたはずが、よりによって転生――しかもその先が治癒の泉などとは……」


「癒掌術が踊り子たちのアムルアを増幅させるのは予想外の恩恵でしたが……先ほどのように我々の行動の大いなる障壁にもなりますな」


「ふん……まぁいい。ならばこちらもそれを超越する力を得ればいいだけのこと」


 ムバータの顔に不気味な笑みが滲む。

 その時、もう一つの重々しい足音が近づいてきた。


「……ムバータ様」


 低い声でムバータのそばに恭しく片膝をついたのは、筋骨隆々の大男、ガルデンだ。


「ガルデンか。よし、我々は我々の目的を進めるぞ。第一拠点――ディラメル館は放棄し、これから第二拠点『ダルバーザ』へ移る。アゼストと合流だ」


「キシシシ……! 了解でございます、ムバータ様……!」


 ムバータは拳を握り締め、憎々しげに歯噛みをした。


「踊り子どもめ……! 見ておれ……! 貴様らはガノヴァスにエネルギーを吸われ続ける供給器なのだ……! 死よりも辛い永遠の生き地獄を味あわせてやる……!」


 ムバータの憎悪に満ちた言葉が森の中へと広がっていった。

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