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答え

「――ユノンちゃん!?」


 どこからともなく現れたユノンちゃの強烈な飛び蹴りがムバータの頬を穿つ。裸足のキックでも、ありったけの助走と跳躍によってムバータの巨体をぐらつかせることに成功した。


「ぬぅ!? 貴様ァ!」


 ――強い。

 さすが、ユノンちゃんも踊り子だ。


 お尻側の腰布を浮かび上がらせて颯爽と着地したユノンちゃんは、肩越しに僕を見やった。


「全く……地下室の入口を見つけたのなら教えて下さいよ。いつまで私に探させるつもりだったんですか?」


「あ……ご、ごめん……」


 そうだった。すっかり忘れていた。

 地下室の入口を探すのをお願いしっぱなしで、完全にユノンちゃんのことをほったらかしにしていた。


「まぁ、そのおかげで難は逃れられたようですけど」


「小娘がッ! 邪魔しおって!」


 ムバータが岩のように盛り上がった双肩を震わせ、ユノンちゃんに敵意を突きつける。


「お兄様、事情は後で教えてもらいますから、とにかく今はエリスお姉様を頼みますよ。私たちでもあまり時間は稼げそうにありませんから」


「貴様もワシの供給器となれ!」


 空気を引き裂きながらムバータがユノンちゃんめがけて鉄拳を繰り出す。エリスさんでも受け止めるのがやっとだった攻撃だ、ユノンちゃんだって無事で済むはずが――


 ……ん? 今、私()()って――


「がら空きよ豚野郎!」


 視界の横から素早く滑り込んできた別の人影が、勢いのままにムバータの脇腹に拳をめり込ませた。


「ぐがッ!?」


 攻撃を中断されたムバータが再度大きくよろめく。二撃連続のクリティカルヒットはさすがのムバータにも効いたようだ。


 現れたのは、レモン色のポニーテールを揺らす踊り子――。


「リーナさん!」


「ユノンに呼ばれて来てみたけど、とりあえずこいつを倒せばいいんでしょ!? お兄さんはやることやってて!」


 リーナさんは早口でそうまくし立て、すぐに横へ跳んだ。空振りしたムバータのパンチが地面にめり込む。


「おのれ! 今まで飼ってやった恩を忘れおって!」


「あんたのことは前々から嫌いだったのよ!」


「エリスお姉様に手を出す者は誰だって許しません!」


 リーナさんとユノンちゃんはムバータを挑発するように攻撃を避け、意図的に僕とエリスさんから奴を離していく。攻撃の手は慎重に、あくまでムバータの注意を自分たちに向けるための動きだと、僕からも見て取れた。


 ――そうだ。僕は僕のやるべきことをやらなければ!


 リーナさんとユノンちゃんが身を挺して怪物を引き付けてくれている間に……!


「……よし! 今のうちに! エリスさん、すぐに癒掌術を――!」


「待って……お兄さん」


 弱々しくもはっきりと、エリスさんは僕の意思を止めた。予想外の反応に僕は顔をしかめる。


「ど、どうして……?」


 癒掌術をかけようと伸ばした手が、彼女のお腹の上で浮いたまま固まる。僕を見つめるエリスさんの瞳は震えていて、それと同じくらい震える声が唇から漏れる。


「お兄さんに……言っておきたいことがあるの……さっきの質問の、答え……」


 さっきの質問とは、


 ――エリスさんたちは、どうやって踊り子になったのか。

 

(なぜ今、このタイミングで……?)


 戸惑う僕にまっすぐ目を合わせ、エリスさんは言った。

 その瞳は決意に満ちており、同じくらい悲しみも溢れていた。


「それはね……この世界に来たときに、踊り子になったんだよ」


 ――心臓が跳ね上がった。

 それだけじゃない。

 頭がぐらつき、視界が歪んだ。


「エリスたちも、異世界(こっち)に飛ばされてきたの。元はお兄さんと同じ――地球にいたんだよ」


 ――まさしく、今までの常識が音を立てて崩れた瞬間だった。

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