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凶星の導き

「鉱石を……食べた……?」


 エリスさんが顔色を悪くさせる。ムバータの行動は僕らの理解を超えたものだった。

 ムバータは僕とエリスさんに詰め寄るように大きく一歩を踏み出した。


「ガノヴァスの欠片には、意思が宿っていた。その真紅の輝きを見つめることで、石はワシの頭にこう語りかけてきたのだ。『取り込め』――と。人智を超えた力の存在を感じたワシは、迷うことなくガノヴァスの欠片を食った。するとガノヴァスの意思をより強く、より直接的に受け取ることができるようになったのだ」


 興奮するようにムバータの息が荒くなる。


「ガノヴァスはワシにこう言った。アムルアを集めよ、と。ガノヴァスはこの星と長い間同化することで、様々な知識を得ていた。そしてこの世で最も強いのは人間が生み出す感情的エネルギー『アムルア』であると知り、それを吸収すれば意識体である自分を実体化させることができると分かったのだ。実体化したあとのガノヴァスの目的は、この世の支配。そう、邪神ガノヴァスの降臨だ。だからワシは踊り子を管理し、アムルアの蓄積を図った。全ては『凶星の導き』のままに」


 徐々に危険な気配を放ち始めるムバータ。エリスさんは僕を庇うように片腕を掲げ、警戒心を強める。僕はエリスさんに守られっぱなしだが、敵意だけはムバータに突き刺していた。


「つまり、あんたはガノヴァスの望みを叶えるために動いていたってわけか……!」


「ガノヴァスだけの望みではない。ワシ自身の望みでもある。ガノヴァスの欠片を取り込むと、ガノヴァスと意思疎通ができるだけでなく、ガノヴァスの配下として石を通してアムルアの何割かを分け与えてもらえるようになる。ワシはそれを条件にガノヴァスに協力することにした。つまり、アムルアが生まれれば生まれるほど、ガノヴァスの実体化だけでなく、ワシの力も増幅するというわけだ」


 「こんなふうにな!」と叫び、ムバータは突然拳を握って中央にある大きな作業台に叩きつけた。

 轟音を響かせながら、鉄製の頑丈な机が真ん中から陥没する。僕とエリスさんは驚愕に竦み上がった。


「な、なんて力だ……!」


 僕に向けて、ムバータは口の端を上げてみせる。


「礼を言うぞ、若造よ。全ては貴様のおかげだ。貴様が癒掌術とかいう力で踊り子たちのアムルアを一気に高めてくれたおかげで、ワシの力も急激に増強された。このペースなら邪神ガノヴァスの降臨も遠くはないだろう。これからも励んでもらうぞ」


「じょ、冗談じゃない! 誰がお前なんかのために!」


「では癒掌術を使うのをやめるのか? 踊り子を助けるのではなかったのか?」


「くっ……!」


 言葉に詰まる僕を置き去りにし、ムバータは今度はエリスさんに目を向ける。


「エリスよ、貴様もそうだ。このことを知ったところで、モンスター討伐をやめるのか? 人々を怪物の手から救うギルドの活動はもうしないと言うのか?」


 エリスさんも悔しそうに拳を握るだけだった。エリスさんたちは純粋に人助けのためにクエストを行なっていた。それがアムルアを生み出すことに繋がると知っても、じゃあもうモンスター退治はしない、とはならないだろう。


 人助けのためにモンスターと戦えば戦うほど、今度はムバータやガノヴァスというさらに強大なモンスターを生み出すことになる――このジレンマは、エリスさんにとって辛い状況を作り上げていた。


「結局のところ、貴様らもガノヴァスの実体化に加担するしかないのだ。……というよりも、むしろ踊り子はそのために用意された『供給器』なのだ。全ては凶星の導き。思い返せば辻褄が合うだろう?」


 「エリスよ」と言ってムバータはエリスさんに気味の悪い笑みを向けた。


 供給器とかいう残酷な言葉をエリスさんに突きつけたムバータに怒りを覚えたが――ムバータの今の言い回しを聞いて僕の胸に一つの疑問が生じた。

 

 エリスさんの後ろ姿に、僕は恐る恐る問いかける。


「エリスさん……君たちはどうやって踊り子になったの……?」

 

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