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宿屋にて

「なーーーんであんたもいるのよ……!?」


 唸るように絞り出されたリーナさんの怒り。


「なんでって言われても、この村に宿屋はここしかないんだから、そりゃ一緒になるだろって」


「そうじゃなくて……! なんであんたも夕食のテーブルに一緒にいるわけ!?」


 道端でジェドーさんと出会ったあと、宿泊先も一緒ということが判明し、そのまま僕たち四人はアシェ村の宿屋に入った。部屋は一部屋ずつ取れたので、各自一旦部屋に向かい、程なくして僕とエリスさんとリーナさんが食堂に集まったところで、ジェドーさんもちゃっかり同席してきたというわけだ。


「まぁいいんじゃない? ご飯は大勢で食べた方が楽しいよ?」


 エリスさんがやんわりと微笑みかけると、リーナさんは少し頬を赤くして「エリスがそう言うなら……」と俯いた。

 あの……二人って本当に友達同士なだけですよね……?(再確認)


「あ、でもジェドーさん。夕食代は別々だからね? エリスたちはディラメル支払いなので」


「ちっ……バレたか……。まぁいい、踊り子と飯を食えるなんてなかなかないからな。それとも、ディラメルの酒場でカネさえ払えばテーブルまで来てくれんの? てか部屋まで来て色々してくれんの?」


(うぉーい! デリカシーのなさー!)


 ディラメルをそういうお店だと勘違いしてるんじゃないだろうか……。

 いや、勘違いされてもおかしくない妖艶さがあそこにはあるが……。


 周りには他にも宿泊客がいて静かというわけではなかったが、公共の場では謹んでもらえると助かる。

 いや……エリスさんたちの格好の方が謹んでいないので、僕が言える立場ではないのだが。


「さ、こんなやつ無視してさっさと食べましょ」


 ちょうど料理が運ばれてきた。農村らしい魚と野菜中心の、とても健康的なメニューだ。

 各々が食事を摂り始めた中、ジェドーさんが再び口を開いた。


「それでよ、青年。何がきっかけでネルギス(こつち)に飛ばされてきたんだ?」


 今回は一応声音は潜められていた。

 僕がここにいる経緯は、宿屋に至るまでの道中でジェドーさんに簡単に教えていた。


(自殺を試みて……なんてことは言えないよなぁ。空気がめちゃくちゃ重くなるし……)


 それに僕自身、すでにあの夜の時のことは忘れかけていた。今更思い返すと気が滅入るため、


「あー……えっと……崖から転落して湖に落ちたら飛ばされていたんです」


 と、ぼやっとした言い方に留めた。


「それでこっちの世界の不思議な泉に落っこちて、例の癒掌術とかいう技を得たってことか。しかもその力は踊り子にしか効かず――更に偶然お前を助けたのが踊り子のエリスだったと……随分と都合の良い話だなおい」


 豪快に食事にがっつきながら、どこか含みのある言い方をするジェドーさん。


「僕も未だに信じられませんが……え、何を言いたいんですか?」


「いやね、便利屋なんてものをやっていると、色んな場所で色んなものを見聞きしたりするもんなのさ」


 なんか答えになっていない感じがするが……。


「――でね、全身バチバチってきて、咄嗟に思い浮かんだわけよ。帯電式! って」

「かっこいい~! そしてセンスあるよ、リーナちゃん」


 女子二人は仲良くお喋りしながら食事を進めている。なんて微笑ましい。見ているだけでほっこりする。


「俺が思うに――」


 エリスさんとリーナさんが話に夢中になっているのを見計らって、ジェドーさんが声を潜めて言う。


ディラメル館(あそこ)には何かがある。青年も気をつけることだな」


「何かってなんすか……!?」


「それが分かれば苦労しないさ」


 ニヒルな笑みを浮かべてジェドーさんは食事を再開させた。


 ふざけた態度ばかり取っているジェドーさんが、やけに意味深な言葉を残した。どこまで真面目なアドバイスなのか計り知れなかったが、一応頭の片隅には置いておくことにしよう。


「あー、ところで踊り子のお二人さん。この宿には温泉があって、混浴だそうだ。ここで会ったのも何かの縁だ、メシ食い終わったら後でみんなで入りに行こうぜ」


 リーナさんが驚いて咳き込む。


「ぶッ……!? 行くかーーーーッ!」


(ひぇ~~ごめんなさい僕は行きたいですーーーーッ!)

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