戦いが終わって
「危なかったね。エリスがあと少し来るのが遅かったら、お兄さん大変なことになってたかも」
白い素肌についた土汚れを手で払いながらエリスがそばに寄ってきた。近くで見ると一層エリスさんのセクシーさが際立ち、僕は顔が熱くなった。
「あ、あの、助けてくれてありがとう。エリスさんの方こそ大丈夫? すんごい食らってたけど、体に……」
「うん、大丈夫。気合でなんとかしてるから」
笑って見せるその表情は、さっきまで戦っていた鬼気迫る姿とは別人みたいだった。
いや、気合でって……。
つまりそれだけダメージを負ってるってことだ。そうまでして守ってもらった自分が情けない。
労いのつもりで、思わずエリスさんの小さな肩に手を伸ばしかけた――が、咄嗟にやめた。
いやいや、いくらなんでも不用意に触れたらセクハラだ。変態扱いされかねない。
ぐっと堪え、代わりに僕は称賛の言葉をかけることにした。
「にしても……あんな大きなモンスターを素手で倒すなんて、凄すぎるよ。本当に信じられない。強すぎだよ、エリスさん」
「ふふっ、ありがと。でもまぁ、踊り子ってそういうものだし」
いたずらっぽく笑いながら、エリスは胸を張る。胸元の布がピタリと肌に張りつき、僕の心臓が跳ねた。
「えっと……踊り子?」
「うん、エリスは踊り子なの。踊り子はこんなふうに素肌をより多くさらすことで、集中力と運動神経、そして精神力を極限まで高めてるんだよ」
「へ、へぇ……」
両腕を軽く広げて体をアピールするエリスさん。
なるほど、踊り子か。言われてみれば確かにエリスさんの服装は、ファンタジー系のゲームとかアニメとかで登場する踊り子キャラが着ているものに似通っている。さすがにここまで露出度が高いのは見たことないが、エリスさんが過度に肌を出している理由はこれで判明した。
──いや、待て待て。
踊り子ってなんだ?
そしてさっきのオーガってなんだ?
そもそもここは一体どこなんだ?
後回しにしていた疑問が一気に追いついてきた。このエリスさんも、さっきの怪物も、現実離れしすぎている。
「……ところでさ、ここはどこなのかな?」
「どこって……森だけど?」
小首を傾げるエリスさん。
「ええと、地名的な意味で」
「リュシーラの街の東にある森ってことぐらいしか……ごめんね、この森の名前までは分からないかな」
な、なんだって? ル? リュ? リュシーラ?
僕が住んでいた地域名とはかけ離れた名前が耳を掠めた。
「え、なに? お兄さんもしかして迷子なの? エリスよりも大人なのに」
ツインテールを揺らしてエリスさんがクスクスと笑う。一瞬で見惚れてしまうほど可愛らしい。
いや、そうではなく──どうやら僕は湖に転げ落ちたのを境に、どこか別の場所に瞬間的に移動してしまったようだ。そしてそこは、戦う踊り子だの恐ろしいモンスターだのが存在する世界だったということ。
まさか自分がこの台詞を口にする日が来ようとは。
「これが……異世界転生か……!」