マッサージ
「もう大丈夫だよお兄さん。入ってきて」
エリスさんに手招きされて僕はようやく貯蔵庫に入った。少しも息があがっていない二人の踊り子に僕は感服する。
「す、すごすぎだよ二人とも……! あんな頑丈そうたオークたちをバッタバッタと倒すなんて……!」
「まぁ不意打ちの急所狙いだから当然だけどね」
エリスさんが可愛らしくウィンクしてくる。
一方のリーナさんは僕を見てため息を吐いた。
「お兄さんの方がもう疲れてそうね。いいわ、ここは安全そうだし、ちょっと休憩させてあげる」
「あ、ありがとう……」
そう、慣れない冒険のせいで早くも僕の方が疲れてきていた。リーナさんたちのあとをついて行ってるだけなのに、情けない。しかもリーナさんとエリスさんはオークとの戦闘も交えているというのに。
貯蔵庫の真ん中で、僕たちは輪を作るように座った。エリスさんは正座で腰を下ろし、リーナさんは伸ばした足をクロスさせてリラックスする。
「さすがリーナちゃん。余裕だね」
「ふふっ……エリスこそ、頼りになるわ」
二人がにこやかに会話している裏で、僕は全く落ち着かない。
(そうだ……座っているときこそ……刺激度が増すんだった……)
正座しているエリスさんのつやつやの太ももが、むちっと膨らんで肉感を強調してきている。前の布が股に挟まらないように正されてはいたが、それでも短い布の下の暗黒エリアは今にも明るみに出そうだった。
布が巻き付いた胸には汗の玉が付着し、お腹の辺りまで雫が滴っている様は、非常にみずみずしくて色っぽい。
一方のリーナさんも――ラフな姿勢ゆえに腰布が大きく乱れていた。前の布が横にずれ、太ももの内側が大胆にさらけ出されている。両手を後ろについてくつろいでいるため、大きな胸がツンと上を向いて膨らみが一層際立っていた。
しかも両足を伸ばしてこちらに向けているため、僕からは足の裏が丸見えになっている。湿った岩の地面をずっと歩いているせいで足裏はしっとりと濡れており、妙に色気を感じさせた。
そんな僕の視線を知ってか知らずか、リーナさんが端と声を上げた。
「そうだわ。ちょうどいいタイミングだし、そろそろお願いしようかしら、お兄さん?」
「……え? なに?」
「癒掌術よ。あたしにやってみてちょうだい」
「あ、そうだね。それがいいかも」
ピンク色のツインテールを揺らしてエリスさんも賛成する。
「えっ……? ああ、そうか」
そうだ、当初の目的をすっかり忘れていた。
そもそも僕がリーナさんのクエストにこうして同行しているのは、道中リーナさんに癒掌術をかけてその効果を確かめてもらうためだった。で、リーナさんが納得すれば、ムバータも僕の力を認め、ディラメル館に住まわせてくれるという流れだ。
「いいけど……でも、リーナさん、全然疲れてなさそうだけど。今やっても、あんまり効果は実感できないかもよ?」
「だって、あたしが苦戦するわけないもの。このままだと癒掌術を使うことなくクエストが終わっちゃうわよ」
「ま、まぁ……確かに……」
「それに、回復の効果は普段でもそれなりにあるんでしょ? エリスから聞いているわ」
リーナさんの言うように、落ち着いている今だからこそ癒掌術を使うチャンスかもしれない。戦っている最中に癒掌術を使うタイミングがあるかも分からないし。
「……分かった。やってみるよ」
僕は正座してリーナさんに擦り寄り、言葉をつまらせた。
「ええっと……それで……どこに触ればよろしいでしょうか……?」
「そうねぇ……」
リーナさんは少し考えるそぶりを見せてから、すっと片足を僕の方に差し出した。
「足の裏でも揉んでちょうだい」
僕の顔の前に突きつけられた綺麗なつま先の向こう側で、リーナさんが小悪魔のように唇の端を上げている。
「えぇっ……!?」
「お兄さんが触っていい場所なんて、足裏くらいだわ。ほら、早くしなさいよ」
くいくい、と挑発するように足の指を動かすリーナさん。その一本一本が湿気と汗で艶めいており、僕はゴクリと生唾を飲み込んだ。
(いえ……! 十分なんですけど……!)
計り知れないリーナさんの行動に心底戸惑いつつ、僕は目の前に迫ったリーナさんの素足に恐る恐る両手を伸ばした。
「じゃあ……失礼しま~す……」
両サイドからそっと足を包み、僕は二本の親指でリーナさんの足の裏をマッサージし始めた。リーナさんのすべすべで柔らかい足の裏の感触が手の平から伝わってくる。普段絶対に触れることのできない箇所だからか、妙に心臓が高鳴っていた。
(ただ触ればいいだけなんだけど……なんなんだこの状況は……!?)
「……んあっ……!?」
途端にリーナさんが色っぽい声を上げた。
「えっ……いやっ……な、なにこれ……んんっ!」
き、来た――!
癒掌術の効果の現れ……!
やはりエリスさん以外の踊り子にも効くのだ。
リーナさんは片足を僕に預けた姿勢のまま、腰をくねらせ、頭を振り、悶える。
「ちょっ……ま……ひんっ! こ、これ……すごい……あぁんっ!」
「そう! すごいでしょ! これがお兄さんの力だよ」
なぜかどことなくエリスさんも顔を赤らめながら、テンション高めに言う。
毎度言わせてもらうが、この悶えは快楽から来るものではなく、回復ないしバフ効果による高揚感からくるものだ!
「う、うんっ……! これは……想像以上だわ……はうぅ!」
普段強気な性格のリーナさんが、僕の手によって完全に堕ちている……。
(な、なんだかすごい……!)
僕も無意識に同調するように、マッサージの手を巧みに動かしていた。
「……僕の力、認めてくれるかい? リーナさん……!」
足の裏だけでなく、足の指の裏側、そして指と指の間にまで親指を滑らせ、くまなく揉んでいく。リーナさんはたまらずポニーテールを振り乱し、腰布も大胆に崩してあられもない体勢になっていく。
「み、認める……! 認める認めるっ……! 認めますっ……! だから……あぁっ!」
「ちょっ……! リーナちゃん……! 声、ちょっと大きいかも……っ!」
エリスさんが慌て始めたのと重なって――
「そこにいるのは誰だ!?」
荒々しい足音を立てながら複数のオークが貯蔵庫に入ってきた。
(やばッ! 調子に乗ってやりすぎたーーーー!)