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そこはこの世の楽園か

 街道の上を、ぺたぺたと裸足の足音を立てて歩きながらエリスさんは続ける。


「あ、もちろん酒場の支配人が許してくれなきゃだめだけどね。エリスが勝手に決められることじゃないんだけどさ。でももしお兄さんが望むなら、エリスから支配人に掛け合ってみてもいいかな~って」


「ももももちろん望むよ! 望みます!」


 家が見つかった、ラッキー――という意味では決してない。

 エリスさんと一緒の場所で暮らせるということにこの上ない幸運を感じていた。


 そう――エリスさんと一緒にいられるならどこでもいい。それこそ森で雑魚寝でも。


「本当に何から何までありがとう、エリスさん」


「ううん、エリスとしても、お兄さんにいてもらった方が安心するもん」


 「癒掌術もあるしね」と付け加えるエリスさん。本気なのか冗談なのか定かではなかったが、どことなく照れ隠しにも見えたのは自惚れが過ぎるか。


 吹いてきたそよ風がエリスさんの腰布を撫でていった。さり気なく片手で前の布を押さえながら、エリスさんは言葉をつなげた。


「でも実際、その酒場にとっても、お兄さんがいてくれた方が助かると思うんだよね」


「雑用なら何でもします」


「ふふっ……それもあるかもだけど、その酒場――『ディラメル館』っていうんだけど、酒場自体がそのまま『踊り子ギルド』になってるんだよ」


「踊り子ギルド?」


 『クエスト』という言葉がエリスさんの口から出て久しいが、今度は『ギルド』。

 いよいよ本格的にゲームっぽくなってきたぞ。

 

 と思ったが……待てよ?

 踊り子の……ギルド?


「え、てことは……その酒場――ええと、ディラメル館? には、エリスさんの他にも踊り子がいるの?」


「もちろんいるよ。エリス一人じゃ回らないよさすがに」


 本来の意味の踊り子じゃなくてですね……。


「あの、その……ディラメル館にいる他の踊り子さんたちも、エリスさんのように、()()()()()()でモンスターと戦うってこと?」


「あ、そうそう。そうだよ。エリスと同じように、素肌を晒せば晒すほど強くなる『身肌集中』でモンスターをやっつける踊り子たちね。みんなエリスと同じ格好でクエストに出かけてるよ。踊り子だけが集まっているギルドだから、文字通り『踊り子ギルド』ね」


「へ、へぇ~」


 僕はめまいがした。


 嘘……だろ……!?

 胸元を細い布で隠し、腰の下に二枚の布をぶら下げて、化け物と格闘する半裸の踊り子が、エリスさんの他にも複数人いる、だと……!?

 しかもギルドとして一箇所に集まっていて、そこに僕は今から住もうとしている、だと……!?


 エリスさん一人がそこに立っているだけでも破壊力が凄まじいのに……!

 何人もいる……!


 ――この世の楽園か、そこは。


 想像しただけで脳が沸騰しそうになりながらも、僕はなんとか歩行を維持した。

 しかしエリスさんの無自覚の追撃は止まらなかった。


「だからさ。他の踊り子たちにも、お兄さんが癒掌術を使ってサポートしてあげれば、みんな助かるんじゃないかな~って。ギルド的に、すごい強力な支援役になれると思うよ、お兄さん」


(つ、つまり――同意の上で、むしろありがたがられながら、僕は踊り子さんたちの体に触れていいってことですかい!?)


 くらぁ……と、もう一度視界が傾いた。

 言葉では言い表せない高揚感。不謹慎だが、想像せずにはいられない。


 半裸の踊り子たちに触れて、悶えさせている光景を。


(……い、いいや! 何考えてるんだ! 僕はエリスさん一筋だ! 他の踊り子さんはあくまでもビジネスだ! ビジネスタッチだ!)


 その考えも十分不謹慎だったが、まずはそのディラメル館という酒場兼踊り子ギルドに入れてもらえなければ元も子もない。妄想だけ先走り過ぎである。


「と、とにかく、その支配人っていう人にお許しをもらわなきゃいけないね」


「そう。まずはそこから。そして支配人は結構気難しい人だからさ。ちょっと説得するのが大変かもしれないけど、そこはもうお兄さんの癒掌術を全面に出していこう」


「そうだね! 全力でアピるよ!」


 就活全滅した僕が何を言っているのか……。

 しかし全てはディラメル入りを果たすためだ。

 

 僕は異世界で、一世一代の大面接に臨むこととなった。

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