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夜の語らい

(近い……っ!)


 さて、寝るところまでスキップしたが……悩ましいのがエリスさんとの距離だ。


 僕らは今、至近距離で向かい合う形で地面に横になっている。

 焚き火でもあれば、それを挟んで寝そべれば距離は取れるのだが――今ここには二人を隔てるものはなにもない。


「寝心地、どう?」


 目の前のエリスさんが静かな声で問いかけてくる。吐息が掛かりそうなほど彼女の顔が近い。


「う、うん、思ったよりもいいよ。確かに土と草で天然のベッドみたいだ」

「良かった。寒くはない?」

「大丈夫。エリスさんの方こそ……」

「平気だよ。むしろちょっと暑いくらい」


 僕はゴクリと息を呑む。エリスさんはもちろん踊り子の服装のままだ。胸に巻き付いた細い布がたわみ、大きな柔らかい膨らみが地面に向かって垂れている。

 そして腰布も重力方向にずれており、太ももの上の限界ギリギリのところまであらわになっている。

 こんな姿の少女が目の前で寝そべっていて、正気を保てと言う方が無理な話だ。


「ねぇ、お兄さん……。もし、夜中にまたモンスターとか現れたら、その時もエリスを助けてくれる?」


「え……いや、それは僕が守られてる立場で……」


「ふふっ……違う違う。モンスターと戦うのはエリスだよ。でも……エリスが疲れたらまた撫でてね? お兄さんの手で、元気にして……?」


 そう言って、エリスさんはいたずらっぽくつま先で僕の脛の辺りを小突いてきた。


「は、はい何度でも……っ」


 「頼りにしてるね」と微笑み――エリスさんは一呼吸置いて続けた。


「――でも、癒掌術があるから、エリスはこうしてお兄さんと一緒にいるわけじゃないからね」


 エリスさんは優しく、それでいて真剣な眼差しで、僕を見つめてくる。


「お兄さんさ……エリスがオーガに倒された時、オーガの前に立ってエリスのことをかばってくれたでしょ?」


「あ……あれも知ってたんだ」

 

 倒されたエリスさんの体を撫でたときに意識はあったと言っていたが、その後のことも認識していたようだ。


「それにさっきも……癒掌術でエリスが苦戦しないようにしてあげたかったって言ってたじゃん?」

「え、あ、うん、まぁ……」

「なんかそういうの初めてでさ……。なんていうか……大事にしてもらってるな~っていう、気持ち……」


 エリスさんは頬を赤らめ、震える瞳を僕からわずかに逸らした。そうか、さっきの困惑した反応はそういうことだったのか。


「だから、その……嬉しかったから……こうしてるんだからね……」


 普段恥じらいが全く無いエリスさんが、照れていた。


 僕としては無意識の行動、何気ない言葉に過ぎなかったのだが、エリスさんはそんなふうに受け止めてくれていたとは。


「う、うん……」


 僕の方こそ嬉しかった。

 

 森の夜は静かで、虫の音がかすかに耳に届く。エリスさんはもう少しだけ距離を詰め、寄り添ってきた。裸足の足先が再び僕に触れて、首元にふわりとエリスさんの息がかかる。


「……お休み、お兄さん」


 小さな声でそう言って、彼女は目を閉じた。


 僕はただ黙ってその姿を見守った。

 癒掌術なんて力より、こうしてエリスさんの温もりを感じられることのほうが、ずっと不思議で、ずっと幸福だと思った。


 それからすぐにエリスさんは穏やかな寝息を立て始めた。

 目を閉じている顔はどこか幼くて、安心しきっていて、守ってあげたいと思わせる儚さに満ちている。


 ――けれど。


(……いーや眠れるかい!)


 当たり前だ。目の前でこんな可愛い子が、こんなあられもない姿で横たわっているのだ。冷静でいられるわけがない。


「んんっ……ふぅ……」


 エリスさんが身じろぎすると、腰布がわずかにずれて、むちっとした太ももが露わになった。滑らかな白い肌が、闇に浮かび上がるように見える。

 今度はくねるように少しだけ両足が動く。腰布の隙間から、付け根のあたりがちらりと見えて、僕の心臓は虫の音よりも大きく高鳴った。


(やばいって……! この距離やばいって……!)


 目を逸らしたくても、逸らせない。魔力のような魅力。

 エリスさんの胸元も緩くなっていて、寝息に合わせてふわり、ふわりと大きな膨らみが上下していた。

 胸は布から今にもこぼれそうになっており、横に流れるように色っぽく垂れていた。


 無防備すぎる。けど、美しすぎた。


 この体で、あの優しさで、戦って……僕を守ってくれて……。

 なのに、僕はこんな風に邪な目でエリスさんをこっそり見つめてる。

 欲望とも憧れともつかない、混じり合った感情が胸の中に渦巻いていた。


(……寝よう! 寝なきゃ!)


 ぎゅっと目を閉じる。

 でも、あの柔らかそうな太ももも、胸元の曲線も、湿った髪がこめかみに貼りつく寝顔も――

 何もかもが瞼の裏に焼きついて、眠気は当分来そうになかった。

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