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木登り

 エリスさんはつらつらと話す。


「オーガ戦のすぐあとに、試しに肩を撫でてもらったじゃん? あの時にも、もしやと思ったんだけど、今ので確信したよ。お兄さんの癒掌術は、相手がダメージを負っていればいるほど、絶大な効果を発揮するんだよ」


「へー、なるほど!」


 自分の力なのに、他人事のように納得してしまった。


「病気でもないときに薬を飲んでも意味はないのと同じだ」


「そうそう。そんな感じ」


 エリスさんは笑い、僕も笑ってしまった。


 ――なんだか、楽しい。

 この謎の力のことを、二人で一緒に少しずつ解き明かしていっている。

 ワクワクするし、相手がエリスさんだから、ドキドキもする。

 今まで味わったことのない、新鮮な感情だ。


 ちなみに、元気なときに癒掌術をかけても効果がないのに、毎回エリスさんが()()()()反応を示すのは、微弱でも効果は出ているからだろう。人間、ただ突っ立っているだけでも体力は常に消耗する。HPが1だけ減っていても、回復魔法をかければ1回復するのと同じだ。


「でもそうなると、常にエリスさんを強くさせてあげれないってことか……。僕としては、戦う前にエリスさんに癒掌術をかけてあげて、苦戦しないようにしてあげたかったんだけど……」


 そう、事前にバフをかけてあげれば、オーガ戦のときのようにエリスさんが痛い思いをしないで済むと思ったのだが、どうやらそれはできないらしい。


「結局はエリスさんがピンチにならないと効果を発揮しない力ってことか。なんかごめんね、微妙な能力で……」


 一人で残念がっている僕を、エリスさんはぽかんとした顔で見つめていた。


「……どうしたのエリスさん?」


「あ、ううん。なんでもない。なんか……ううん、やっぱりなんでもない」


 エリスさんは珍しく困惑していたようだったが、すぐに気持ちを切り替えた。


「よし、じゃあ諦めて普通に登ろう。お兄さん、手を組んで踏み台を作ってもらっていい? エリスを一番下の枝まで登らせて」


「あ、うん。分かった」


 ――自然に同意してしまったが、なんだかんだエリスさんに木登りをさせてしまう流れになってしまった。エリスさんは腰布のチェーンをくいくいと直している。僕はなるべく意識しないよう努めながら、両手を組んで腰を構えた。


「は、はい。どうぞ……っ」


「じゃあ行くよ」


 エリスさんは膝を持ち上げ、片足を僕の手に下ろしてきた。腰布がするんと垂れて太ももの付け根が丸見えになり、エリスさんの足の裏が僕の手の内に乗っかってくる。


「んっ……!」


 軽く反動をつけ、エリスさんが足に体重を乗せながらぐいっと体を寄せてくる。間近に迫るエリスさんの大きな胸の膨らみ。その中心だけを隠している胸布は、今にもはち切れそうだ。


(や、やばい……近い……!)


「はいっ、押し上げて」


 エリスさんの合図で、僕は両腕を持ち上げてエリスさんの体を上昇させた。

 軽い。全然軽い。こんな身軽な少女がモンスターと真っ向から戦うなんて、この世界は一体どうなっているんだ。


「よいしょ……っと! オッケー!」


 エリスさんは無事一番下の枝によじ登った。彼女のつま先が手から離れたところで、僕は決して上を見ずにその場から後退した。


「が、頑張って、エリスさん!」


「任せて! 階段みたいに枝から枝を登っていけば実のところまで行けそう!」


 僕は首を九十度下に曲げて地面を凝視し続ける。今一瞬でも上を向いたら丸見えだ。


「よっ……ほっ……! あんっ……布が引っかかって……! んんっ……だめっ……!」


(一体上で何が起きているんだ……!?)


 頭上から聞こえてくるエリスさんの息遣いやら言葉遣いやらが、色々と妄想を掻き立ててくる。


「あんっ……布……取れちゃう……っ! やんっ……!」


(絶対上を見るな……! 見るんじゃないぞ……!)


 理性と欲望の葛藤。天使と悪魔が頭の中で決闘している。


「はぁっ……はぁっ……! きゃっ……!? 足に虫が……! んあぁっ……くすぐったい……はうぅっ……!」


 これ本当にただの木登りだよな……!?

 僕は何を聞かされているんだ……!?


「だ、大丈夫……エリスさん……!?」


「ふぅっ……ふぅっ……大丈夫! もう少し! ……きゃあっ!」


「エリスさん!?」


 悲鳴が聞こえて僕はつい見上げてしまった。

 視線の先には、木の枝に素足をかけながら、必死に手を伸ばすエリスさんの艶めかしい肢体と、翻る

腰布。その布のすき間――その奥まで視線が届きそうに鳴った瞬間、実が上から落ちてきて僕の額に当たった。


「いてっ」


「ごめん! 一個落ちちゃった!」


 いや逆に助かった。ありがとう、実。名前はわからないけど。


 足元に転がった果実を拾い上げて眺めていると、エリスさんが颯爽と着地してきた。


「ほら、結構取れたよ」


 両手に木の実を何個も抱えてエリスさんは微笑む。着地の瞬間を目の当たりにしていなくて良かった。腰布的な意味で。


「すごい。ありがとうエリスさん」


「あと、木の上から見えたんだけど、近くに川も流れていたよ。寝る前に水浴びしてこよっと」


「いいね。お風呂代わりだね」


 ……水浴びですと!?

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