触れただけ
「いやいやすごすぎるよエリスさん! もう完全にやられちゃったかと思ってたのに、どうなってるの!?」
間違いなく尋常じゃないダメージを負っていたのに、エリスさんはむしろダウンする前より強くなってオーガを圧倒していた。これが踊り子の力か。計り知れない。
「エリスもなんかよくわからないけど、急に全身の痛みがなくなって、パワーが漲ったって感じ。何が起きたのか、こっちが聞きたい気分だよ」
「お兄さん、エリスになにかした?」と冗談っぽく笑ってくるエリスさん。とても久しぶりに目にする彼女の笑顔に思わず見惚れてしまった。
ここは異世界なのだから、魔法とか奇跡とか起こるものなのだろう。踊り子も何やら特殊な職業っぽいし、ピンチのときにエリスさんの力が覚醒したとか、大方そういうパターンなのではないだろうか。
「……強いて言うなら」
もちろん僕に主人公覚醒パターンなど起きなかったので、あれはエリスさん自身の潜在能力の賜物かと思ったが、振り返ってみると僕は一つだけアクションを取っていた。
「倒れたエリスさんの体をさすった、ぐらいかな。お腹あたりを」
言い終わってから気付いた。それは完全にセクハラだ。
どんな反応をされるかと怖かったが、エリスさんはにこやかに答えた。
「うん、分かってるよ」
「ええっ!? 起きてたの!?」
「うん、意識は朦朧だったけど、覚えてるよ」
だったらかなり恥ずかしい。そして勝手に体に触れてしまって申し訳ない。
僕は顔を赤くしながら頭をかく。
「触っちゃってごめん……つ、つい……」
「いいよいいよ。だってなんか、その瞬間に元気が出た感じだったもん。もしかしてお兄さんが回復の魔法かなにかでエリスを助けてくれたんじゃないの?」
「そんな、ないない! ないよ!」
現実世界でも秀でた技能を持ち合わせなかった僕が、そんなミラクルな技を使えるわけない。しかも無自覚のうちに。
エリスさんも笑っていたが、少し遅れて自分の発言の信憑性を確かめたくなったのか、
「……え、あの、一応さ。もう一度エリスに触ってみて、お兄さん」
まさかとは思うけど……というような顔つきでエリスさんは言う。
「……え、マジすか」
僕も表情を固くし、エリスさんを見据える。彼女は短い腰布をそよ風に揺らしながら、少し真剣な目でそこに佇んでいる。僕に触れられるのを待っている。
はずい――!
さっきは無我夢中だったからエリスさんの体を抱き寄せることなど何とも思っていなかったが、いざ
面と向かって触ってほしいと言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
しかもこんな可愛い子に。しかもこんなセクシー衣装の。
(触れって……どこに……!?)
いやどこも何もないだろ!
肩あたりにしとけ肩に!
――肩も色っぽいけどな!
「じゃ、じゃあ軽くちょっとだけ……」
外に聞こえてしまいそうなほど大きく生唾を飲み込み、僕は右手をゆっくりエリスさんの肩に伸ばした。むき出しの白くて丸い肩。
「失礼しま~す……」
そっとエリスさんの肩に手の平を乗せる。戦いの直後ゆえに汗ばんでいて、少し熱い。こんな小さな肩の女の子が、巨大なオーガを一人で倒したとは、今でも信じられない。
できることなら僕の力で支えてあげたい。なんでもいいからサポートしてあげたい。
「んっ……!」
エリスさんがびくんと肩を震わせた。しまった、つい変な力でも入ってしまったのか。
「ご、ごめんっ」
慌てて手を離すと、エリスさんはすぐに僕の手首を掴み、もう一度自分の肩に押し付けた。
「待って……もう一回……! もういっか……んあぁんっ!」
「どどど、どうしたのエリスさん……!?」
なんか知らないがめちゃくちゃ悶えている。目を細め、頬を赤らめ、いやらしい声を漏らし、全身をビクビク震わせている。
「あぁっ……! いいっ……そこっ……! もっと……もっとぉ……! んんっ……あぁっ……あんっ……!」
「ちょちょちょっ!」
僕の手の平をぐいぐい肩とか首周りに押し当てて、エリスさんはなんか知らんが勝手に身悶えている。腰布の下の内股をすりすりと擦り合わせ、緩んだ口元から堪えることなく喘ぎ声を垂れ流している。
目をつぶって聞いたら明らかにいかがわしい行為をしているときの声だが、
断じて言う。
僕は肩周りを無理矢理撫でされられて突っ立っているだけだ!
「はぁっ……はぁっ……んくっ……ふぅ……」
熱い息を吐きながら、エリスさんはようやく僕の手を解放してくれた。手の平はエリスさんの汗ですっかり濡れそぼっていた。
「す、すごかった……! はぁはぁ……んっ……! すごかったよ……お兄さんの……それ……!」
……どれ!?