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ドロワーズ  作者: 佐藤途羽
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私は今日、足をいれる。

脳を焼かれるような衝撃に私はまだ、酔ったままだ。


燃えている輪の中を軽々と飛ぶライオン。今にも天に向かって翼を広げて羽ばたきそうなフラミンゴ。

この世界には自分しかいない。というように飛び跳ねるシャチ。


私が動物園で窮屈そうに脚を伸ばす動物たちとは真反対の姿を映し出している絵たちは私の心を強く焼いた。その日から私は絵を描いて生きていくこと決めた。

なーんてね。

みんなは現実を見つめているのに私はそんな自分の妄想をしてばかり。自分の頭の中では私は主人公だけど現実はそう簡単では無い。

今まで私はそんなに心を揺さぶられたことは無かった。なかったのに、自分がレッドカーペットの上を歩く妄想ばかりしている。

何回も芸能事務所のオーディションや劇団のオーディションを受けたり、絵をサイトに出品しようとしたが、最後の決心がつかずそのまま時だけが進んで今。

「本当は何も無い癖に。」

そんなことはわかってる。だけど一丁前に意味が無い自信だけがあって、その自信が私をギャンブルの世界から脱出させてくれようとしない。


でも今日で終わりにするんだ。

私は今日、この家を出ていく。


そう言ってもただの日帰り旅行みたいなもんだけど。

だけど私は主人公になりたい。たくさん登場人物が出てくるこの物語で一番輝く、シリウスのような人になるんだ。という思いが私の背中を押してくれている。

帰ったら私はもう、芸術の世界に足を入れることを辞めるつもり。だからこの旅は私の人生にけじめをつけるものになるはず。


とりあえずなにをしようかな。

歌も上手いか微妙だし、顔も…まあ察してほしいぐらいだしダンスは体育の授業でしかやった事がない。音楽は常に3。

…となると絵しかない。美術は5だったから、と自分を励ます。

隣の県まで行って友達に合わないよう願いながら繁華街の一角でキャンバスとスケッチブックを開いて絵を描いてみる。


「よし、1枚かけた!このままもう1枚!」

顔をあげると日は沈みかけていた。思っていたよりも集中して描き続けていたみたい。

私の目に浮かぶシリウスは街の風景ではなく、天からほほ笑みかける天使だ。我ながらいい出来だと思って満足なので帰る準備をしていたら…

「できた?」

思わず肩を震わした。

「え?誰、」

「ただの通りすがりだよ。あ!付け足すならお嬢さんの絵に惚れた通りすがりかな。」

自分の絵を褒めてもらうのは初めての経験だ。しかも知らない人だしお世辞はないと思いたい。

「お嬢さん、絵の世界に入ってみない?私が応援するよ。」

「え?…あ、是非!」

つい勢いで言ってしまった…でも絵で稼いで行く事は私の夢だ。

でもこの人怪しいし…絵を褒められることは嬉しいがプロにならないかと急に言われると正直、疑ってしまう。知らない人だし。その人は私の心を見透かして言った。

「あ、私は笠野ね。画家をやっててたまに雑誌にも載ってるんだよー。見る?」

そう言って渡されたのは絵に関する雑誌。私も図書館で軽く見たことがあるほど有名な雑誌だ。10月号だから今日辺りに発売された分だろう。

その中の見開き2ページに笠野未弥という人が特集されていた。

顔を上げる。そしてまた雑誌へと目を下げる。

3回ぐらい繰り返した時に理解した。

この人、まじの人だ。

私は一気に信憑性が高くなった話に手放せなくなっていた。

有名チェーン店でご飯を食べながら笠野さんが私の絵に対して思ったこと、私への支援とはどうゆうものなのか、笠野さんはどういった人なのか、などいろいろな話をした。

話が終わって家に帰ろうとした時には日は完全に沈んでいて、学生には危ないから。と私の最寄り駅まで見送ってくれた。

お風呂に入って、改めて今日の出来事について考える。

笠野さんは私への支援として予備校に行くなら予備校へのお金を出してくれるんだっけ。芸大の学費も親が出さないのなら自分が半分だそうとも言っていた。

「1回親に今日のこと言ってみるかー」

とは言ったものの初めての賞賛で胸がいっぱいなので、とりあえず今日はこの気分のままでいたかった。

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