04
キールのおかげで、ダンジョンのレベルが上がり、できることが増えた。
まず、ダンジョンの階層が3階層まで作成できるようになった。
その上、1階層当たりの広さも格段に上がった。
その他、マナタンクが増え、一日生産量も上がり、三人で生活する上で困ることはないだろう。
ちなみに1階がただの洞穴。
地下2階がキール、ワイズの部屋。
地下3階がエマの部屋となった。
また、ダンジョンの中であっても草原や砂漠など本当の外界のような空間を作り出すことが可能だ。
気温、天候、季節も自由自在。
何とも都合の良い空間だ。
もちろん、それを行うには相応のマナが必要になるのだが。
それに、ワイズから貰ったマナと交換出来るもののカタログは、実に面白い。
エマは、モンスター討伐で知り合った兵士から様々なダンジョン冒険譚を聞いていた。
突然のトラップに強力なモンスター、そのモンスターの先にある素晴らしい宝!
ドキドキわくわく、それらの話はエマの好む話だった。
世間一般で言うのならば、エマくらいの年頃は、恋愛ものを好む傾向が強いが、エマにとっては冒険譚の方がよほど魅力的だった。
今、その冒険譚に出てくるダンジョンの自分は運営側にいるのだから、人生何が起こるか分からないものだ。
それに、このカタログを見ると、マナで交換出来るものの中には、お宝アイテムが沢山掲載されていた。
なるほど、このカタログからチョイスしたアイテムをダンジョンの色々なところに置いたのか。
だが、攻略されるわけにはいかないから、強いモンスターをアイテムの前に設置していたのだろう。
アイテムを餌に冒険者達を釣るのが、ダンジョンのセオリーなのだ。
だが、強すぎる冒険者を釣り上げるとダンジョンは攻略されてしまうし、弱すぎれば経験値が少ない。
その見極めが大切なのだろう。
さて、今後のダンジョン運営だが、まずはダンジョンのレベル上げが最優先である。
そのためには、経験値が必要。
すでにキールを使人として迎えたために、経験値を与えてくれる新たな侵入者が必要だ。
高い経験値を期待するならば、相応のレベルの相手をダンジョンに招き入れることになる。
つまり、冒険者や兵士だ。
冒険者ならばギルドに依頼をすれば来てくれるだろうが、そのままダンジョンを攻略されるリスクが高い。
その上、エマがダンジョンマスターだと王子が知ったならば嬉々として討伐に来るだろう。
だからレベルが低くてもいい、コツコツ地道に経験値を積み上げる方が良さそうだ。
それに、エマは殺しをするつもりはない。
侵入したら、ダンジョンから快くご退場してくれる者でなければならないのだ。
それで考えたのが、ダンジョンの近くで生活している鳥の獣人達に依頼をすることだった。
彼らに毎日、洞窟の中まで新聞配達をしてもらう。
それならば、ダンジョンに入って出る、というのを自然にやってもらえるだろう。
本当は新聞でなくても何でもいいのだが、一番怪しまれなさそうと思ったのが、それだった。
「明日から来てくれるそうだ。
子供のイワンという子が毎日くる」
「ありがとう」
キールに集落まで行って交渉をしてもらった。
多分人間である自分が行っても彼らはいい顔をしないだろう。
こんな砂漠の奥地に集落を置いているのは、人間に住む場所を追いやられたからに違いない。
「キール、新聞の受け取りもあなたに任せるわ。
わたくしは姿を現さない方がいいだろうから。
毎日3テールずつ、支払ってあげてね」
「随分と羽振りが良すぎないか?」
新聞は1テールで買える上に、数日前のものだ。
3テールも出す価値はない。
「そこの集落とはうまくやっていきたいの。
それにね、そのうち他の仕事を頼みたいから。」
「他の仕事?」
そう、仕事だ。
ワイズからもらったカタログに面白い商品があった。
『エリアの苗木』
これは、ダンジョンの外もこの苗木を植えた周辺は、ダンジョン内部同様に支配下におけるというものだ。
木が成長すればするほど、支配エリアの範囲が拡大する。
この木はどんな荒地でも、同じくマナで買える『成長の水』を与えれば育つらしい。
なので、この苗木を植え、水やりをする人材がほしいのだ。
それに、苗木の受け取りや賃金の受け渡しをダンジョン内にすれば、経験値も獲得できる。
木々があれば、この砂漠地帯も少しは住みやすくなる上に、ダンジョンの外までも支配下におけ、かつ経験値も獲得できるのは美味しい。
この木が育つ頃には、ダンジョンとしての防衛力もかなり強化されているはずだ。
ちなみに、ダンジョンレベル50くらいが上位冒険者が攻略できるかどうかというレベル。
現在のダンジョンレベルは、子ども相手なら問題なく対処できるだろう。
つまり、大人ならば簡単に攻略されるレベルなのだ。
平穏に生活するには、まだ危険と隣り合わせだ。
キールに今後のプランを手短に説明し、やれやれと言いたげに彼は肩をすくめ
「なるほど。
なかなか面白い考えだが、そんなにダンジョンを目立つようにしていいのか?
侵入者が増えるぞ。」
「防衛対策も今後はしっかりとするつもりよ。
でもね、少しダンジョンエリアを増やして、この国の領土を侵略した方がよさそうな情勢なの」
そうなのだ。
つい先日、エマの父から手紙が届いた。
父はエマの無罪を信じていること。
現在、エマの不貞によって婚約破棄となったことの賠償から公爵家の領地を明け渡すことを要求されていること。
王の命がもう残りわずかなこと。
さらに過激派の動きが王子を中心に活発化していることが書いてあった。
今しばらくは、穏健派が一丸となって抵抗するが、
王子が王位を継いだ場合、隣国との戦争がはじまるだろう・・・・もはやこの国は終わる、と書いてあった。
父は決して楽観主義者ではなかったが、悲観的でもない。
現実をしっかりと見据える父にここまで言わせるのだ。
今後、王子が即位した後の未来。
穏健派の領地や資産が没収され、過激派の一派が懐を潤す。
そして領土拡大のための戦争が始まり、民は徴兵されることになるだろう。
さらに戦争のために税金を上げる。
怒れる民は反乱。
国は崩壊。
あの時、どうにかこうにかして王子を止めるべきだったのだろうか。
王子に縋りつき、捨てないで!と、心にもないことを言ったほうが良かったか。
はたまた、理路整然と起こりうる未来についてプレゼンすべきだったか。
それとも、刺し違えるべきだったか。
そんなこと、考えても仕方ないこと。
エマはこれからのことを考えた。
このダンジョンを活用することを。
もしエマの想像通りの未来がくるとすると、民は徴兵されない地、また税の安い地に移住したいと思うはず。
その受け入れ先をこのダンジョンとするのだ。
だが、今のダンジョンレベルからすると、全ての移民を受け入れるのはエリアの広さから難しい。
ならば。
外に土地を求めに行くだけだ。
ダンジョンエリアの拡大、領土の侵略。
そのうち、王子も侵略されていることに気がつくだろうが、ダンジョンの防衛機能を上げて迎撃する。
できる限り、平和的に。
この国から国民と領地を奪い取る。
領地も国民もいなくなれば、戦争ができないどころか、お金もない、世話をしてくれる人もいない、何一つできなくなる。
国民がいない王と王妃。
それは国と言えるのだろうか?
この国のために、叛逆する。
・・・と、カッコつけたが、ただ王子にギャフンと言わせたい。
次に王子に会ったら、何と言おうか?
そうだ、ここは優雅に「ごきげんよう」と言ってやろう。
貴族位を取り上げられた平民エマは、ダンジョンマスターとして叛逆の狼煙を静かに上げた。
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とある部隊からの報告書
エマ・ブリンドルの到着を本日確認。
予定より3日遅い到着だったが、外見から道中に問題があったようには見受けられない。
翌日、街まで出かけ、狼と思われる獣人の奴隷を連れ帰ってきた。
狼の鼻を警戒し、今後遠くから様子を伺うこととする。
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