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「雨、すごいですね。」
「ああ、嵐のようだ。」
伯爵領奪還の任務についた兵士達は、大木の下で雨宿りをしながら世間話を始めた。
火をおこしたいところだが、嵐の中では無理だ。
皆、体を寄せ合い暖をとるしかなかった。
雨が降るなど想定していなかったため、雨用の装備は持っていない。
「さっきまで快晴だったのに、急に雨雲が出てきましたね。」
「この辺でこんな天気。
十数年に1回あるかないかじゃないか?
ツイてないな。」
「本当に。
鎧の中もずぶ濡れです。
そういえば、伯爵領を占領したモンスターは、どんな種類なんでしょうね?」
「伯爵領から逃げてきたヤツの話によると、木の形をしたモンスターだったそうだ。
それも燃えないらしい。」
「耐性があるんでしょうか?」
「さあな。
火力が足りなかっただけなのか、それとも他に種があるのか。
何にしろ、見てみないことには、な」
「ですね」
カタカタカタッ
「地震、でしょうか?」
地面が小刻みに揺れている。
「いや・・・何か来る」
森の奥で、草木の隙間から何かが飛び跳ねてこちらに向かってくる。
それもたくさん。
「あれは・・・石?岩?」
カタカタカタという音からゴロゴロゴロと変化し始めた頃に、兵士は姿を確認した。
岩だ。
丸い岩。
小さな石ころから兵士の身長を超える大岩まで大小様々。
それが軍に向かってゴロゴロ転がって向かってきている。
斜面でもないのに岩がものすごい勢いで兵士達に迫ってきた。
不思議なことに木々に、そして岩同士でぶつからないよう器用に方向を変えながら向かってくるのだ。
兵士達は何が何だかわからない。
土砂崩れを起こす山も転がるための勾配もない平地で何故同じ方向に岩が転がってくるのか。
気づけば岩は、兵士の目の前。
兵士達は目の前の岩を避けようとする。
が、
「っ!!?」
なんと、岩が兵士を避けた。
大きい岩は飛び跳ねて。
小さい岩は兵士の股をくぐり抜けて。
兵士には目もくれずゴロゴロ転がって去っていく。
岩が向かっている方向、
それは
「子爵領だ。
子爵領に向かってる!!」
「おい、あの岩モンスターだぞっ!!
手と足らしきもので木を避けたところをみた!」
「あの岩全部がモンスターなら・・・」
兵士達は、真っ青になった。
防衛のための兵士は残してはあるが、この奪還作戦のためにほとんどの子爵領の兵士が動員されている。
岩の数は、兵士の数よりもずっと多い。
攻撃してこないにしても、このまま放置すれば
「岩が村や街を呑み込む。」
土砂崩れのような惨状が起きる。
もし攻撃してくるモンスターだったら、なお悪い。
岩は、兵士達からどんどん遠ざかり子爵領に近づいていく。
「て、撤退だ!!
領地の防衛を!!
隊列を整えろ!!」
兵士達は号令に従い隊列を整えようとするが、
「っ!!?」
何かが足に絡まった。