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ホセと王都の部隊はランバート子爵領まで辿りついた。
本当は伯爵領にその日のうちに入る予定であったが、ランバート子爵に大事な話があると止められ、現在は子爵の屋敷の応接室にいる。
「ホセ殿、わざわざお越し頂きありがとうございます。」
「それで、要件は何?」
「伯爵領の現状は、どの程度ご存じでしょうか?」
「そのことか。
モンスターが大量に発生した。
驚いた集落や街の住人がモンスターが怖くて住めなくなって、侵略されたって勘違いしてる。
モンスターだって大した数なわけない。
今まで伯爵領でモンスターが大量発生したなんて聞いたことがない。
モンスターを見たことがないヤツらが数体見ただけで大騒ぎしているだけさ。
まったく貴方もメアリーと一緒で大げさだな。」
ホセはそう言いきった。
ランバート子爵は表情を変えずに、心の中でげんなりした。
王妃を呼び捨てにする不敬、現状を正しく把握していない上に年上にタメ口な伯爵家嫡子にどう言えば伝わるだろうかと思案した。
「いいえ、侵略行為があったのは本当です。
ここに証拠が」
エマから送られてきた手紙を見せた。
ホセは一読し、これは好都合だと思った。
メアリーのお願いで首謀者を王都へ連れて行かなければいけなかった。
エマが首謀者ならば都合が良い。
メアリーは、エマが首謀者でないと納得しなさそうであった。
それでも当初は、適当な罪人を連れて王都に戻るつもりであったが。
ホセは、エマが気に入らなかった。
というか自分より位の高い者全てが気に入らなかった。
だから、エマをさらに断罪できることが嬉しかった。
「一月程前、王都の部隊が遺体で発見されました。
伯爵領と子爵領の境界で。
おそらく伯爵領が占領されたという情報を持ち帰ろうとして襲われたのでしょう。」
「こんな手紙、俺に見せていいのか?」
「もちろん。私は伯爵領奪還のお手伝いをしたいと思いお見せしました。」
「ふーん、穏健派から過激派に鞍替えして、王の側近である俺に貸しを作ろうってことか」
「端的に言うとそうなります」
子爵はニコリと笑った。
胡散臭い、ホセはそう感じた。
手を借りるのは癪だ。
だが、領地を取り戻す必要はある。
そうだ。
ランバート子爵に作戦等全てを任せ、報告は自分の都合の良いようにしよう。
失敗したら子爵の責任、成功すれば自分の功績にすればいい。
「それじゃあ、一つ借りを作ってやる」
「はい、では一つ貸しということで。
兵の準備は整っております。
いつでも伯爵領に向かえます。」