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「へぇ、ダンジョンでよく出てくるスライムってコスパがいいのね。
1マナで25体、ダンジョンレベル5で召喚可能。
だから、ダンジョンにはよくスライムが登場するのね」
「エマ様、気を抜きすぎでは?
そろそろ王都に伯爵領の状態について情報が届いるはずです。
それなのに、そんなまったりしていてよろしいのですか?
現在ダンジョンレベルは31。
王都から兵士が大勢やってきたら、太刀打ち出来ないどころか、ダンジョンも攻略されてしまいます!」
執務室に訪れたワイズは、気の抜けたエマと優雅に紅茶を淹れるキールの姿を見て、思わず語気を強めた。
「そうなのよねぇ」
ため息と共にエマは、さっきまで眺めていたカタログの上に突っ伏した。
「やる気がない、とかそういうことではないの。
どうしたものかなって悩んでいたのよ」
悩んでいた。
父へ、公爵領に今後モンスターが大量発生する可能性があること、
また伯爵領をとある方法で占領したこと、
過激派を抑えこむため力を貸してほしい、
穏健派にも呼びかけて欲しい旨の手紙を出した。
父からの返事は、ほとんどが叱りの言葉だった。
どんな理由であれ、他領を占拠するのは以ての外。
争いの火種を作ってはならない。
手助けはしない。
そんな内容だった。
エマは、ショックだった。
大好きな父に見放された気がした。
父の言っていることはもっともだ。
そして、争いを嫌う父らしい言葉だった。
自分は絶対に正しいとは思わない。
だが、間違っているとも思わない。
だから、正しいと思える道にしていかなければ。
「父からの協力が得られない。
それに、まだ隣の領地のランバート子爵へ送った手紙の返事もきていないの。
どう動いたものかと考えていたところよ」
「孤立無援。
ダンジョン運営とはそういうものです。
信じられるのは、ダンジョンの力のみですよ。
僕から助言できるのは、魔界からさらに武力に長けた者を雇用すること。
ダンジョンレベルを地道に上げることです。」
「そうよね。
ワイズ、また良さそうな人材をピックアップしてちょうだい。
だけど、人を殺さないっていうのを厳守できる者に絞って」
「かしこまりました」
「ダンジョンのレベル上げは、商人の出入りを増やして経験値を稼ぐわ。
そのためには、魅力的な商品がなければね。
さっ、スライムをたくさん召喚するわよ!」
エマはただカタログを眺めていたのでない。
スライムは、戦闘においては雑魚である。
しかし、『スキル』を与えることで戦闘以外にも使い道が出てくる。
ちなみに、スキルは買うことができる。
スライムは召喚時、何のスキルも持っていない。
だが、カタログにあるほとんどのスキルを付与することができる便利なモンスターだ。
エマは、その中で一つのスキルに目を付けた。
スキル『希少品生成』。
その名の通り、希少品を生成するものだ。
これをスライムに付与する。
スライムの特性は、ありとあらゆるモノを溶かすことができることだ。
溶かしたものは、すべて排出する。
ウ◯コである。
スライムのウ◯コは、土壌改良のための上質な肥料になるため、これだけでも商品になる。
しかし、商品がこれだけというわけにもいかない。
そこでスキル『希少品生成』の登場だ。
このスキルを使うとウ◯コが希少品となるのだ。
何が出るかはお楽しみ。
このスライム案を聞いたキールは、顔を引き攣らせた。
「そんな案が出てくるとは・・・君、元々貴族のご令嬢だったはずだよな?
ふむ。
なら、前世は野生の動物か、よっぽど品のない人物だったか。
君は猪突猛進する傾向があるから、イノシシだった可能性が・・・。
って、痛っ!!
物をこちらに投げるな!
ご令嬢は、そんなことをしないぞ!
あいたっ!!」
キールめがけて、エマは投げられるものを投げに投げまくった。