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ランバート子爵は、受け取った手紙を読み終え、ため息をつき天井を見上げた。
物事が悪い方へと流れている気がする。
なぜ皆、事を荒立てようとする。
変化がないのが一番ではないか。
だから、自分は穏健派に与しているのに。
コンコン
「旦那様、お客様です」
「急ぎでないなら、帰ってもらえ」
「クロウ様ですが、よろしいですか?」
クロウ殿!?
これぞ天の助け!
「クロウ殿ならば、通してくれ!」
「承知いたしました」
執務室に通されたのは、黒髪短髪の猫目で細身の青年だった。
恐ろしく顔が整っていて、独特の雰囲気を持っている。
「忙しい時に急に来てしまってすみません。
近くに来たものだったのでご挨拶を、と思いまして。
すぐに御暇しますよ。
顔色が悪そうですし。」
「いやいや、クロウ殿ならばいつでも大歓迎だ。
最近、情勢があまり良くなくね。
今後どう動くのがいいか、思案していたところだ。
君が来てくれて本当に良かった。
相談に乗って欲しい。」
「相談?」
「実は今しがた手紙が届いて、どう対処すればいいか悩んでいたところだ」
手紙は、エマからのものだった。
手紙には、
伯爵領は現在エマが支配していること。
過激派が他国へ戦争を仕掛けるのを止めたい。
そのために動いている。
また、公爵領付近で今後モンスターが大量発生する可能性が高い。
そうなれば、穏健派の中心である公爵家は、過激派に構っていられなくなる。
今、過激派を止めなくてはならない。
力を貸して欲しい。
そう書いてあった。
この手紙で子爵は、王都の部隊の亡骸の対処をどうするか、さらに悩んでしまった。
エマにつくなら、亡骸はなかったことにする。
人知れず処理をする方が良い。
そして、最南端から王都へ侵攻し、過激派を鎮圧する。
しかし、それはエマがそれだけの力がある場合だ。
現状、エマの力量がわからない。
リスクが高い。
一方、これを機に過激派につくという手もある。
他の過激派達も知らない情報を今自分は持っている。
これを手土産に穏健派から鞍替えする。
自分の考えも含めてクロウに話した。
クロウは目をつぶり考えている仕草をみせる。
子爵は、クロウの言葉をじっと待った。
「僕だったら、過激派につくな。
首謀者を捕まえ伯爵領を取り戻し、それを手土産に穏健派から鞍替えする。
ストーリーはこう。
王都の部隊の死体を確認した子爵は、何か伯爵領でおかしな事が起きていると考えた。
そこに、王都から帰らない部隊を不審に思い、新たな部隊と伯爵家の人間がこちらにやってくる。
そこで、子爵は死体の報告と彼女からの手紙を見せる。
君は、彼らと共に伯爵領を取り戻しに動く。
そこで見事に手柄を立てて、過激派に鞍替えする。
そんな感じかな。」
「王都の部隊と伯爵家の人間が来るだろうか?」
「来るよ。ホラ」
クロウは、1枚の紙を子爵に見せた。
「これは、電報と言ってね。
どんなに互いが遠くにいても、電気信号を送ることで紙にその信号、文字を転写することができる(メールのようなもの)。
まぁ、魔法で雷の力を持つ者同士しか出来ないものなんだけど。」
雷の力。
かなり特殊な魔法だ。
それが使える者をランバート子爵は一人知っていた。
「現国王、メイソン王からの電報・・・ということ、か?」
「確かな情報だよ」
鳥肌がたった。
クロウはそんな人物とも関係を持っていたなんて。
そうとなれば、ここはクロウの言う通りにした方がいいのかも知れない。
王がお望みなのかもしれない。
「クロウ殿の考えに従おう。
彼らが到着次第、すぐに伯爵領に出発できるよう準備を整える。」
「そうだね。その方が良い」
だって、その方が面白い。