02
ドラゴン・テイル国、最大の貧民地の大砂漠。
つまり、エマのいた公爵領と真逆の位置にある場所が、エマの流刑地だ。
半月かけて乗り心地の悪い馬車でやってきた砂漠地帯は、本当に何もなかった。
見渡す限りの砂地に岩山がちらほら。
降ろされた場所は、草などまったく生えていない岩山の中腹にある洞穴付近。
ここから一番近くの人間の街は半日歩いていかなければならない場所にエマは一人置いていかれた。
「世話役はどこかしら?」
流刑地と言っても、世話役、監視役はいるはずだが見当たらない。
「あっ、エマ様でいらっしゃいますね!」
洞穴の中から人好きのする笑顔で青年が出て来た。
メガネ以外に特徴のない平々凡々とした顔の男だ。
「あなたが世話役かしら?
女性の世話役はいないのね。」
「いえいえ、僕は流刑地の世話役でも監視役でもありませんよ。
多分、そんな人いません。
この辺で一番近いのは鳥人の集落ですけど、ここにあなたが来ることさえ知りませんよ。」
実に手が込んだ嫌がらせだ。
多分、王子は砂漠地帯で干からびて死ねと言っているのだ。
人権侵害である、エマは心の中で王子の顔面に右ストレートをお見舞いした。
「では、あなたは何者なの?
なぜ、わたくしを知っているのです?」
「ああ、申し遅れました。
僕は、魔界から参りましたダンジョン経営部総合インフォメーション課第800番代ダンジョンサポート係のワイズと申します。
あなたがここに来るのは、少し前に王都にいる者から聞きまして、
是非ともダンジョンマスターとしてエマ様をヘッドハンティングしたく参上しました!」
「ダンジョンマスター?」
「はい!
この洞穴、実はダンジョンでして第801号ダンジョンです。
このダンジョンの主に是非なっていただきたいのです!」
ダンジョン、聞いたことはある。
ダンジョンの中にはモンスターが住んでいて、時には貴族でさえお目にかかれないような宝も見つかるという。
冒険者を名乗る者たちが、ダンジョンの攻略をしているというが
「ドラゴン・テイル国のダンジョンはすでにどこも攻略済みだったはず」
「さすがエマ様、博識でいらっしゃる!
ええ、たしかにそう言われております。
しかしそれは、侵略行為があったダンジョン全て、というだけです。
まだまだこの国には、知られていないダンジョンがたくさんあります。
ここもその一つです。
エマ様には、ここのダンジョンを経営していただきたいのです。
どんなダンジョンにされるかは自由。
ですが、ダンジョンマスターの務めとして、毎月税を納めて頂きます。
税はマナベリー。
レベル1につき1個、納品していただきます。
それ以外、ダンジョンに制約はありません。
今、エマ様はお住まいもありませんし、いかがです?」
「そのマナベリーとは、おいくらするの?
わたくし、今一文なしよ。」
「ダンジョンのマナでマナベリーは購入できます。
お金はかかりませんよ。
それに、ダンジョン経営に関しては、僕がサポートしますのでご安心を!」
「魔界からきたと言ったわね。」
魔界など初めて聞いた。
そんな危なそうなところからきた人の言うことは信じられない。
「魔界はこの国の裏世界です。
んー、鏡の国のような場所、とでも言いましょうか。
我々はマナを求めています。
マナは我々にとって重要なものです。
しかし、魔界ではマナを生成することができません。
そのため、我々はマナの塊であるマナベリーが必要なのです。
お願いします!
このドラゴン・テイル国ではダンジョンが発展しておらず、魔界はマナ不足の窮地に陥っております。
人助けだと思ってどうか!」
ワイズと名乗る魔界の男は懇願した。
人助け、それは貴族にとっては大事な務めである。
貴族位を剥奪されたとしても、その務めまで捨てたつもりはない。
「わかりました。やりましょう」
「ありがとうございます!」
こうして、エマはダンジョンマスターになったのだ。
○●○●○●
エマが洞窟に到着する少し前の誰かに宛てた、とある電報
“予定通り、エマ・ブリンドルを砂漠地へ流刑に処した。
この電報が届く頃に到着するだろう。”
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