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ペイン隊が中心街から出ていったと屋敷の者から報告を受け、応接室で待機していたエマ達は脱力した。
「ふぅ〜、上手くいったわね!」
「そうだな、上手く騙されてくれたようだ」
キールが、イタズラを成功させた少年のようにククッと笑った。
「この街が侵略されたと思い込ませることができたな。」
実はまだこの街は、エマのものではない。
いや、正確に言えば、この伯爵の屋敷のみがエマのダンジョンエリアだ。
エマは、この中心街を簡単にダンジョンエリアにすることはできないと考えていた。
まずは、住民の数が多い。
住民が一致団結すれば、侵略を阻止される。
もちろん、時間をかければ何とかなるかもしれないが、そんなに悠長にはしていられない。
そうこうしているうちに、他領からの援軍が来てしまう。
次に兵士の数とレベル。
現在のレベルでは、兵士と真っ向勝負が出来ない。
その上、殺してはならないのだ。
だから、すべての兵力を注ぎ込まれるとエマが押される可能性が高い。
さらに侵略を難しくするのは、塀の高さ。
王都ほどではないが、この中心街も塀は高く防衛力としては十分だ。
現在エマが召喚できるモンスターでは、この高い塀を攻略するには、かなりの時間がかかる。
正面突破は、兵士の数、力から難しい。
だからできれば、少しずつ兵力を削ぎ、かつ、街の住人自らエマを受け入れるように仕向けたかった。
すでに街と集落が侵略されたという情報は、王都にも届いていることだろう。
ならば、王都にいる伯爵が指揮しに領地に戻ってくるか、はたまた王の腰巾着となっているホセが王に頼みこみ、兵士を送り込むなりしてきそうである。
どちらにせよエマが半月かけて流刑地に到着したのだから、情報が届いて、急いで中心街までくるならば、もっと早く誰かしら王都から来る。
何をするにも、時間が足りない。
もし王が兵士を貸し出すにせよ、大人数は貸し出さないはず。
本来ならば、領主である伯爵が領内全部隊を指揮して、領地を取り戻すものだ。
だからエマは、まずは伯爵かまたは少数の王都の兵士が中心街にやってくると踏んだ。
そこでエマが中心街を侵略済と相手に思わせ帰らせることが、この中心街攻略の鍵となる。
そして、見事成功した。
ちなみに、『アリジゴク』で領地を取り戻そうとする兵士のレベルを下げたのは、エマの想定通りに事が運ばなかったときの保険である。
だが、保険としての効果はあまり期待していなかった。
それ以上に期待していたのが、この領地を管理している執事長の精神的影響だった。
侵略に成功するかは、執事長を味方につけられるかどうかだった。