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「だっ、誰か!た、すけ」
「わぁああ!!」
「たっ、助けてくれ!」
「体がっ、どんどん沈んでっ」
兵士達が砂の中に呑み込まれていく様子をエマは、ダンジョン内のモニターで見ていた。
「今日で兵士達がこちらに来ようとしたのは、3回目だな」
「ええ、そうね。
集落の『監視花』を見ると、残りは2部隊。
もう1回来るのか、それとも帰るのか」
エマの予想通り、森と化したダンジョンエリアを取り戻そうと兵士達が進軍してきた。
そして、集落に拠点を置いたのも想定通りの行動だ。
残念なことに、彼ら兵士は一足遅かった。
拠点をおいた集落は、すでにダンジョンエリアに組み込まれていた。
集落だけではない。
砂漠地帯全域がダンジョンエリアとなっていたのだ。
砂漠地帯が森林に呑み込まれる様を見てきた残りの集落は、抵抗をみせなかった。
それはそうだ。
森林が上へ横へと急激に広がりをみせる姿は、不気味でならなかった。
小さな集落では、天変地異を起こす相手に勝てる見込みなどありはしない。
そのため、数日のうちに砂漠地帯すべてをダンジョンエリア化することができたのだ。
予定通りにサボテン型の『エリアの苗木』を植え砂漠地帯を残し、兵士達に侵略されていない地だと上手く思わせることができた。
エマは、兵士対策として2種類のダンジョントラップを設置した。
一つは、集落の中心に。
もう一つは、集落の外の砂漠地帯に。
集落の中心には井戸があり、井戸の上の屋根に風見鶏がある。
この風見鶏がトラップだ。
その名も『カザミドリ』。
これ単体では何も恐ろしくはないモニュメントである。
この『カザミドリ』は、侵入者を発見するとマーキングする機能がある。
そして集落の外、砂漠の中に設置したのが『アリジゴク』。
この『アリジゴク』は、『カザミドリ』にマーキングされた侵入者めがけて砂の中を動く仕組みとなっている。
侵入者をその名のとおり、蟻地獄のように砂の中へ引きずり込み、強制的にダンジョンエリアの外へ排出するというものだ。
そして、今回は『アリジゴク』に付加効果をエマは付けた。
それは、『レベル吸収』という効果だ。
『アリジゴク』に捕まった侵入者は、排出される際に1レベル下がり、さらに、そのレベルはダンジョンの経験値として吸収されるというもの。
つまり、何度も同じ侵入者が捕まれば、あっという間に残念なレベルとなるのだ。
今回やってくるのは、兵士。
もし、強行突破でエマ達の元にやってきたとしても、レベルはかなり下がっていることになる。
もしくは、兵士の数が少なくなっているはずだ。
つまり、エマにとって戦い易い状況となっているわけだ。
兵士達は想定通りの行動を起こし、一部隊、また一部隊と『アリジゴク』にハマり、あっという間にあと2部隊が集落に残るのみとなった。
モンスターならば、剣で戦えただろう。
盾で防げただろう。
だが、砂そのものがトラップ。
兵士の膂力は、役に立たない。
ズルズルと兵士達は『アリジゴク』に呑み込まれていく様は、もう見慣れたものだ。
部隊全員が呑み込まれ、兵士がいた場所には、武器のみが残されていた。
「さてと、武器は経験値と交換、だな?」
キールは、毎度同じことなので、掃除でもするような手軽さで言った。
そして、エマもコクリと頷く。
「まだ来るかもしれないけれど、同じ手でいきましょう。
この後、想定通りに事が動くなら、一月もすれば、中心街も簡単に手に入るわ。
まずは、あの方達と接触ね。
上手くいくと良いけれど。」