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やってしまった。
キールは、目に見えるほど落ち込んでいた。
先ほどユウタと呼ばれるダンジョンマスターとのやり取りの後、狼狽えていたエマを軽くではあるが、頭を叩いてしまった。
主でそれに女性に対して、することではない。
しかも自分は、奴隷だ。
主を叩くなど御法度だ。
気にはしていなさそうだが、ここは謝るべきだろう。
「あー・・・、その主。」
「何?」
「先ほどは頭を叩いてしまって、すまなかった。
己の身分を弁えず、女性にする行為ではなかった。」
「あぁ、その事。
気にしてないわ。
それに身分なんて。
あなたはわたくしの部下として、ただわたくしを諌めただけよ。
あなたは、間違っていないわ。」
「そう言って貰えると有り難い。
それにしても、先ほどのユウタという男。
余りにも身勝手な言動だったな。
不愉快の塊のようなヤツだった。」
「ええ、そうね。
でも、彼の言ったこと、当たってるわ」
「何が?」
「わたくしも侵略して、街の住人の意思を踏みにじってるって。
そのとおりだわ。
わたくしも、心のどこかでそう思っていた。
だから、胸にグサッときたわ。
わたくしも彼と同じ。
自分の都合に多くの人を巻き込んで、たくさんの人の平和な日常を蝕み、弱者の尊厳を踏みにじっている。」
「主、確かに君のしたことが、全て正しいとは言わない。
だが、君はハヤブサの獣人達の未来を守った。
少なくとも、それを俺は評価する。
それに、君のしたことが良かったことなのかどうかは、君がこれからする事によって変わる。
君はあんな男と同じでないし、俺がそうさせないさ」
「ふふっ、心強いわ。
もし間違っていると思ったら、また頭を叩いてね。」
「そうならない事を願うよ。」
エマは己の侵略行為が正しいと100%の自信はないし、最善策とも思っていない。
平穏な日常を壊したことに心も痛む。
今だって迷いがないと言ったら、嘘だ。
しかし、進むと決めたのだ。
だから、ユウタに言った通り、これから自分の民には今までの生活より良いものにする責務がある。
幸せにするなんて、傲慢な事は言わない。
彼らが自分の民になって良かったと思って貰えるよう努力し続ける。
それにしても、今思えば随分と過酷な道を選んだものだ。
ただ罪人として静かに暮らしていれば、このような事にはならなかった。
でも、何も罪に問われることはしていない。
泣き寝入りすることを我慢できない。
これが、自分なのだ。
あきらめよう、前向きに!
進むしかない。
いや、むしろ歩みを止めることは許されない。
もし、間違った道をすすんでいたならば、自分を諌めてくれる存在がいるのだ。
有り難い。
キールとは、信頼関係が生まれ始めている。
キールに恥じぬ主人でいよう。
それに今思えば、メイソンと婚約破棄になったのは、エマがモンスター退治のため学園を離れたのも要因の一つだ。
その原因がユウタなのだ。
ユウタがいなければ、エマは王妃だったかもしれない。
エマは、心の中でユウタにパンチをはなった。
みてなさい!
次に会う時には、圧倒的な力でコテンパンにして「ごきげんよう」って優雅に言ってやる!
「さあ、キール!前進あるのみよ!」