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エマによって領地を奪われている伯爵家の長男ホセは、焦りもせず優雅にお茶を楽しんでいた。
今日は、メアリーからのお茶のお誘いがあり、宮殿までやってきた。
自分の領地から、遠路はるばるやってきたのではない。
王都の屋敷からやってきたのだ。
ホセだけではない、伯爵すらも王都にいる。
奪われたといっても、末端の末端の街と集落。
対した防衛力も持ち合わせていない場所だったから奪われたのだろう。
今、中心街から選りすぐりの兵士を向かわせた。
すぐに取り戻せると伯爵もホセもそう腹をくくっていた。
さらに、
もし、自分達の力だけでは無理でも、王の力を借りればいい。
何と言ってもホセは王の側近の一人になったのだから。
学生の間、ホセはほとんどの時間、メイソン王と面識がなかった。
それが変わったのは、メアリーが学園に来てからだ。
クラー男爵という名をホセは知らなかった。
ホセにとって、男爵は平民とさほど変わりがなかったから。
しかし、そんな男爵家のメアリーとお近づきになったのは、メアリーという少女が何故か魅力的に感じられたからだ。
メイソン王にカリスマ性を感じるようにメアリーにも言いようのない魅力があった。
それで、花の蜜につられる虫のようにメアリーと多くの時間を過ごすようになった。
そしていつの間にかに王子ともお近づきになれ、この度見事側近の座を手にした。
ホセは、王都から一度も出たことのないお坊ちゃまであり(つまり己の領地でさえ行ったことがない)、能力も平凡であった。
それなのに、今は側近の一人だ。
いや、側近の一人と思っているにすぎない。
本当は王の周りに過激派の人間を増やすためのサクラとしての役割なのだ。
しかし、本人はそんなことも知らずにいる。
本当は、王都でのんびり等してられないのに。
「ねぇ、ホセ。あなた、領地に戻らなくて大丈夫なの?
領地の一部を何者かに奪われたって」
メアリーは、心配そうにホセに尋ねた。
「あぁ、大丈夫だよ。
メアリーは、心配性だな。
モンスターが発生しただけさ。
大量っていっても、実際はそんな数は多くないと思うよ。
砂漠地帯の連中は、まともにモンスターなんて見た事ないから、大げさに言っただけさ。
モンスターが押し寄せたから、裏で手を引くヤツがいるって妄想したんだよ。」
「でも、砂漠地帯が森になったって聞いたわ」
「蜃気楼だよ。砂漠じゃあよくある事さ」
メアリーは、ホセの楽観さに呆れ果てた。
部下からの情報をまともに聞いていないのか。
これじゃあ、まずい。
メアリーは最近、エマが自分と同じ転生者なのでは?と、思い始めた。
きっとエマは、よく読む悪役令嬢の逆転劇のように、婚約破棄の時に前世を思い出し、前世の知識を活用して、自分達に報復するつもりなのだ。
だいたいの悪役令嬢の前世の人間は、知識量が豊富だったり、コミュ力が高かったり、優しさに溢れた人間性高めの場合が多い。
一方的の芽亜里は、本当に平々凡々なのだ。
普通の知識量の大学生だった。
日本社会の政治の知識なんてない。
特別コミュ力が高いわけでもなければ、優しいわけでもない。
自分本位な身勝手さがあるとも自覚している。
それに何より、このゲームの世界観に詳しいわけでもない。
どうしよう。
メアリーの頭の中には、王都までモンスターを従えたエマがやってくる姿が想像できてしまった。
このままでは、私がざまぁされる。
怖い。
ホセは、あてにならない。
だから、私が動くしかない。