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メアリーは、一人宮殿の広大な庭をボーッと眺めていた。


「私、何してるんだろう」


実はメアリーは、転生者と呼ばれる人間だった。

前世の名前は芽亜里。

平々凡々な女子大学生だった。


所謂トラ転とよばれるものに遭って、気がついたらメアリー・クラーとなっていた。

芽亜里はこの世界を知っていた。

ここは、『この世界は君のもの』というタイトルの乙女ゲームの世界である。

芽亜里はこのゲームをプレイ済だった。

内容はともかく、好きな声優が多かったので何度も何度もプレイしていた。

だから、おおよそのセリフは覚えている。

それが功を奏し、此度は見事王子エンドへと導くことが出来た。


このゲームの唯一といっていい特徴は、ライバル役の悪役令嬢が最後の最後まで姿を現さないことだった。

断罪される場面のみ登場し、他は影で糸を引いていることを匂わせるのみ。


実際にメアリーという役割を演じるに当たって、少し違和感を感じることが多々あった。

だが、乙女ゲームのご都合主義により生じた違和感だと思って芽亜里は、流していた。

しかし、今となってその違和感に薄気味悪さを感じ始めている。


自分は、王子エンドが一番、主人公が幸せそうだと思ったから、このルートを選んだ。


王子ルートに行くように行動すればいい。

そのことを馬鹿馬鹿しいと思った。

だって、彼はメアリーに恋をしたはずなのに、メアリーを演じていればその中身がメアリーとかけ離れた性格だとしても恋をするのだから。

自分は、メアリーのような性格ではない。

自分という人間の内面も知らず表面上のメアリーの姿だけで、一国の王子が婚約者を変えるなんて、本当に馬鹿馬鹿しいことだと婚約破棄の場面で冷めた思いでいた。


だが、今、自分はこのエンドを選んだことを後悔し始めている。

ゲームのシナリオはもう終わっている。

今後どんな展開になるのかわからない。

ゲームでは、「幸せに暮らしました」とあっただけ。

本物のメアリーだったら、幸せだったのかもしれない。

だけど、自分は・・・?

今まではメアリーとしてどう行動すれば良いかわかっていた。

だが、これからは芽亜里が考えていかなければならないのだ。


このままメアリーを演じきれる自信がない。

芽亜里の人生さえまともに決断してきた経験がない。

だって芽亜里の時は大学までエスカレーター式で上がってきたし、就職を考えるのはまだ先だった。

自分の人生の選択を真剣に考える必要がなかった。


それが、今はどうだ。

国の行方を決める王の妻である。

親しい人間など宮殿にはいないし、誰に悩みを相談すればいいのかもわからない。


メイソンもなんだか変だ。

彼は本当にメアリーに恋をしていたのか?

今となってはよく分からない。

彼は今も昔も、紳士的で優しいが、素っ気ないような冷たい感じもするのだ。


自分はこのままで良いのか?

どんな行動をとればいいのか?


ため息混じりにじっと花を見つめていると、何やら慌ただしく何人かの文官が走っていた。

その中には、ゲームの攻略対象の一人、セルヴェがいた。

(彼のルートには入らなかったが、好感度はかなり高めていた。)


「セルヴェ!」

「メアリー、久しぶり!」

「どうしたの、そんなに急いで?」

「あぁ、実は・・・」


セルヴェは、言いづらそうに一度言葉をきった。


「実は、最南端砂漠の街が何者かに占領された」


「最南端砂漠って・・・」


とある人物が頭がよぎった。

セルヴェは頷く。


「エマの流刑地だ」


血の気が引いた。

とても嫌な予感がする。



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