10
メアリーは、一人宮殿の広大な庭をボーッと眺めていた。
「私、何してるんだろう」
実はメアリーは、転生者と呼ばれる人間だった。
前世の名前は芽亜里。
平々凡々な女子大学生だった。
所謂トラ転とよばれるものに遭って、気がついたらメアリー・クラーとなっていた。
芽亜里はこの世界を知っていた。
ここは、『この世界は君のもの』というタイトルの乙女ゲームの世界である。
芽亜里はこのゲームをプレイ済だった。
内容はともかく、好きな声優が多かったので何度も何度もプレイしていた。
だから、おおよそのセリフは覚えている。
それが功を奏し、此度は見事王子エンドへと導くことが出来た。
このゲームの唯一といっていい特徴は、ライバル役の悪役令嬢が最後の最後まで姿を現さないことだった。
断罪される場面のみ登場し、他は影で糸を引いていることを匂わせるのみ。
実際にメアリーという役割を演じるに当たって、少し違和感を感じることが多々あった。
だが、乙女ゲームのご都合主義により生じた違和感だと思って芽亜里は、流していた。
しかし、今となってその違和感に薄気味悪さを感じ始めている。
自分は、王子エンドが一番、主人公が幸せそうだと思ったから、このルートを選んだ。
王子ルートに行くように行動すればいい。
そのことを馬鹿馬鹿しいと思った。
だって、彼はメアリーに恋をしたはずなのに、メアリーを演じていればその中身がメアリーとかけ離れた性格だとしても恋をするのだから。
自分は、メアリーのような性格ではない。
自分という人間の内面も知らず表面上のメアリーの姿だけで、一国の王子が婚約者を変えるなんて、本当に馬鹿馬鹿しいことだと婚約破棄の場面で冷めた思いでいた。
だが、今、自分はこのエンドを選んだことを後悔し始めている。
ゲームのシナリオはもう終わっている。
今後どんな展開になるのかわからない。
ゲームでは、「幸せに暮らしました」とあっただけ。
本物のメアリーだったら、幸せだったのかもしれない。
だけど、自分は・・・?
今まではメアリーとしてどう行動すれば良いかわかっていた。
だが、これからは芽亜里が考えていかなければならないのだ。
このままメアリーを演じきれる自信がない。
芽亜里の人生さえまともに決断してきた経験がない。
だって芽亜里の時は大学までエスカレーター式で上がってきたし、就職を考えるのはまだ先だった。
自分の人生の選択を真剣に考える必要がなかった。
それが、今はどうだ。
国の行方を決める王の妻である。
親しい人間など宮殿にはいないし、誰に悩みを相談すればいいのかもわからない。
メイソンもなんだか変だ。
彼は本当にメアリーに恋をしていたのか?
今となってはよく分からない。
彼は今も昔も、紳士的で優しいが、素っ気ないような冷たい感じもするのだ。
自分はこのままで良いのか?
どんな行動をとればいいのか?
ため息混じりにじっと花を見つめていると、何やら慌ただしく何人かの文官が走っていた。
その中には、ゲームの攻略対象の一人、セルヴェがいた。
(彼のルートには入らなかったが、好感度はかなり高めていた。)
「セルヴェ!」
「メアリー、久しぶり!」
「どうしたの、そんなに急いで?」
「あぁ、実は・・・」
セルヴェは、言いづらそうに一度言葉をきった。
「実は、最南端砂漠の街が何者かに占領された」
「最南端砂漠って・・・」
とある人物が頭がよぎった。
セルヴェは頷く。
「エマの流刑地だ」
血の気が引いた。
とても嫌な予感がする。
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