07
街に行ったその日のうちに集落を訪ね、街で聞いた話と、そこから考えられる展開について説明をした。
「まさか、そんなことが狙いだったとは・・・・!」
「我らを何だと思っているんだ!」
「エマ様、どうにかなりませんか?
この土地の領主の貴族様に、何とか今の生活を続けさせていただけるようにお願いすることはできませんか?」
「残念だけど、今のわたくしにはそういった力はないの」
「そんな・・・では、どうしたらいいのでしょう?」
「あなた方が選べる選択肢は2つ。
1つは、このまま彼らの思惑通りに動く。
もう1つは、わたくしの、ダンジョンマスターの部下になること。
とはいっても、わたくしの庇護下の民になるという意味です。」
「あなたの元に行けば、今の生活を続けられるのですか?」
「おおよそは。
少なくとも今の生活よりは楽な暮らしができると思います。
わたくしはあなた方に兵役を課すことも高い税を納めさせることもいたしません。
わたくしは先ほども申したとおり、ダンジョンマスターです。
あの洞窟がダンジョン。
あのダンジョンを利用して皆様をお守りします。
守ると言っても、わたくしのダンジョンは侵入者に対して、追い払うことを主軸とするスタンスです。
ダンジョンを血で染めるつもりはないわ。
あくまでも、平和的にダンジョン経営を行なっていくつもりよ。
だけど、わたくしがあなた方を庇護下に置いたら、今後はこの国の兵が武力行使を仕掛けてくるでしょう。
だからしばらくは、ダンジョンが騒がしくはなると思う。」
「我々が最前線で戦うことはない、と。
お約束していただけるのですね?」
「約束しましょう。」
人間を信じていいのか?
嘘では?
何度も甘い言葉で騙されてきた、信じるな!
疑心に満ちた声が聞こえてくる。
当たり前だ。
彼らは人間に今まで酷い仕打ちを受けてきたのだ。
そう簡単に信じられるわけはない。
集落の長は悩んでいた。
集落の今後、彼ら全員の命に関わる選択だ。
どうするのが、最善か?
最善?
どちらの選択にしても、我々は人間の支配下に置かれることに違いはない。
我々に自由はない。
だから、どちらがまだマシか、という選択だ。
どちらがより自分達の尊厳を守れるか、だ。
この場で答えを出さない方がいいか?
今この場で答えなければ、より悪い方へ傾かないか?
もし彼女につかなければ、彼女が腹いせにダンジョンからモンスターをやり、集落を襲わせるかも知れない。
だが、もし彼女についたとしても、彼女が本当に自分達を守れるとも限らない。
どうしたら…
ツンツン
長の服をひっぱるものがいた。
イワンだ。
「僕は、エマ様が良いと思います。」
イワンは、クリクリした澄んだ目で長の目をまっすぐ見つめ、そう伝えた。
決断した。
「なりましょう。あなたの配下に。」
「素晴らしいご決断です。
あなた方の命、そして暮らしはわたくしがお守りいたします。」
この日、ドラゴン・テイル国の国民が奪取された。
△▲△▲△▲
ワイズは、新たに動き出したエマのダンジョンの記録を眺めていた。
自分が上司に掛け合ったおかげて手に入れた特別経験値とキールのお陰であっという間にレベル10まで上がったのは良かった。
だが、その後はレベルが伸び悩んでいる。
たいていのダンジョンマスターは、もっと積極的にレベル上げをしてくれるものだ。
早い者では、一月もすればレベル20代までいくというのに!
なのに、エマときたら雀の涙(この場合は、ハヤブサの涙か?)ほどの経験値をチマチマ手に入れて満足しているのだ。
困ったものだ。
人選をミスッたか?
ワイズは、ダンジョンマスター候補者リストを眺めた。
このリストは、別部署が作ったものだ。
世の中に対して復讐をしたい、鬱憤が溜まっている等何かしらダンジョンを利用してでも己の欲を満たそうとする可能性が高い人間をリストアップしたものだ。
そして、そのリストからワイズの部署が人物を選定し、また別の部署がその人物の経歴を調べ上げる。
ワイズの部署が経歴を確認して、ダンジョンマスターになる可能性が高いと判断したら、上司からの許可を得て、ようやく勧誘となるのだ。
かなり時間をかけているのだ。
だからこそ、運営協力は惜しまないし、簡単にダンジョン攻略されたら、たまったものではない。
エマはなかなか、世の中に対して鬱憤が溜まっていると思ったのだが。
違うのだろうか?
男爵令嬢という自分より遥かに位の低い者に婚約者を取られ、さらに王子が大衆の面前で婚約破棄し大恥をかかせた。
追い打ちをかけるように冤罪で貴族位を取り上げ、貧民地の洞窟に流罪とされる非道な扱い。
ここまでされれば、世の中に対して復讐の一つもしたくなるだろう。
そこに付け込んでの勧誘だったのだが、
「当てが外れたかなー」
ワイズは、頭をガシガシかいた。
ぶっちゃけて言うと、運営当初から不安があった。
せっかく3階層までダンジョンを作れるようになったというのに、作ったのは自分達の部屋。
しかも、ワイズは基本的に魔界にいるため自分の部屋は要らないと丁重に断ったにも関わらず作ったのだ。
そのスペースを次のレベルアップのために活用して欲しい!とワイズは、言いたかった。
言いたかったが、自由にダンジョン運営してもらっていいと言ったのはこちらなのだ。
言えるわけがない。
「貴族様の考えることは、わからないなー。
他のダンジョンマスターは、嬉々としてトラップ置いたり、宝置いたり、モンスター置いたりするのに。
余裕があるというか、なんというか・・・」
エマは、困っているものに手を貸すと言った。
だが、あまり悠長にされると、こちらとしては困るのだ。
「貴族様のペースに付き合ってなんていられない」
このペースでは、
「早々に見切りをつけて、次の人間を勧誘した方がいいかも知れないな。」
ワイズも慈善事業でやっているわけではない。
仕事なのだ。
結果が必要だ。
次の候補者を選定しつつ、『間接的』にエマに発破をかけよう。
「そのためには、あの部署に協力要請、かな」
ワイズがその要請書を提出したのは、エマがダンジョン運営を開始した1月半後のことだった。
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