06
その場で解決策を提示できるわけでもなかったので、とりあえず集落の者たちには一度帰っていただいた。
次に税を納めるのは、20日後。
つまり、20日間の猶予はある。
まずは、情報収集だ。
久しぶりに、エマとキールは街までやってきた。
「おかしいわ。」
「何がだ?」
「税が急激に上がったのに、街の人の様子に変化が見られない。
あれほどの税の上がり具合よ。
暴動の一つや二つ、起こってもおかしくない。」
「何か裏がありそうだな。」
「ええ。
キール、こういう時の情報収集は、あなただったらどこで行う?
わたくしは、いつも周りの者に指示を出していたばかりで、実際に己の手で収集するのは初めて。
あなたの意見が聞きたい。」
「ふむ、そうだな。
情報屋から情報を買うのが手っ取り早いが・・・君も俺もそんなツテはないしな。
ここは、買い物がてらの世間話、もしくは酒場で聞き耳を立てる、といったところか。」
「わかったわ。
ではまず、買い物に行きましょう。
ちょうど買い出しが必要な頃合いよね?」
「無駄な出費はしないからな。」
「わ、わかってるわよ!」
「ならば結構。」
キールがわざとらしく肩をすくめて見せ、本当にわかっているのだか、と言いたげな態度でエマをじーっと見る。
それに対して頬を膨らませ、そっぽを向くという子どもっぽい態度をエマはとった。
無駄な出費について、思い当たる節が多々あるため、何も言えない。
それに、わかってはいるが、無駄な出費をしない自信もなかった。
実は、家計はキールが握っている。
貴族であったエマにとっては、自分でお金を管理するという意識がない。
金銭管理は、使用人のすることだったからだ。
そのため、当然のようにキールに管理を任せたのだが、キールは任せると言われた時、怪訝そうな顔をした。
奴隷に財産を管理させるというのだから、何か裏があるとキールが考えるのもおかしくはないだろう。
しかし、今となってはキールも自身が管理した方が良いと思うようになった。
エマにとっては街で買い物をすること事態が滅多にないことだった(公爵令嬢の時は、商人が屋敷に来てくれていた)ので、
街で買い物をするという行為自体が楽しくて仕方がない。
それに庶民には見慣れた物でも、エマにとっては初めて見るものばかりで、物珍しさから何でもかんでも買ってしまうのだ。
そのため買ったあと、これは何に使うのか?といったものばかりを買ってしまうのだ。
言うなれば、修学旅行の木刀である。
(その場のノリで買ったが、家に帰って置き場に困るというあれだ。)
目についた物を何でもかんでも買ってしまうエマの姿を見て、キールはギョッとした。
これではすぐに財産を使い果たしてしまう。
つまり自分の生活も危うくなるということだ。
それは、困る。
だから、エマが買った物を
「これは一体何に使うんだ?・・・・ほぅ?」
と皮肉まじりに逐一指摘し、それに対して若干の居心地の悪さをエマが味わうことがしばしばあった。
その甲斐あってか、以前よりエマもおかしな買い物をすることは少なくなったものの、未だ一人で買い物をさせられるほどの信頼をキールは寄せていない。
さて話は逸れたが、街の商人から多くの情報を手に入れられた。
キールとしては、治安がいまいち良くない酒場に主人を連れていくのは憚られたので、
ここで情報を手に入れられて内心ホッとしている。
商人の話によると、税は5テイルから7テイルに上がった。
新たに即位した王が私腹を肥やしている貴族の財産を民に分配し、貴族の特権もなくすと宣言したという。
しかし、それに反発する一部の貴族がいて敵対行動をとっている。
今後、武力による制圧を行うため、そのための軍資金として税を一時的に上げる。
制圧後は、貴族たちの資産を分配することになるので、税は今までよりも低くなるとの話だ。
「ふむ。集落の者から聞いた税額とは、かけ離れているな。」
「ええ、暴動がなかったのも一時的な上昇で、しかもそのあとは今までよりも税を下げるというならば、我慢もするわね。
・・・・・そうすると、あの集落だけ過剰に税を上げたということ。
支払えないことを前提にして」
「何のために?」
キールの中で答えが出ているが、エマの考えを尋ねた。
「兵役とするのではないかしら。
税金が払えないなら、体で支払え!ということでしょう。」
「なるほど、獣人は人間よりも身体能力は上だ。
しかも、彼らはハヤブサ。
空からの襲撃が可能、兵として是非とも欲しい人材な訳だ。」
「ええ。思っていたよりも展開が早いわ。
まさかもう武力制圧を念頭に置いているなんて。」
「これからどうする?」
「まずは、彼らに報告を。
そして、選択を迫ることになるわ。
今の国の在り方に従うか、それともわたくしに従うか。」
「勝算はあるのか?」
「本当はもう少し力を蓄えたかったというのが本音だけれど、勝算はあると思ってていいわ。」
エマには考えがあった。
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