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夏休み3


 俺たち3人は直射日光に当たらないように出来るだけ日陰になっているところを通りながら、渡り廊下を抜けて体育館までたどり着いた。


 「ほら、ここのコンクリートのとこ涼しいだろ?1日中日が当たらないから、夏の間はバスケ部みんなここで休んでんだよ」


 「へー、1級学校徘徊士の俺も、こんなとこがあるとは知らなかった。まぁ、バスケ部に占領されているとなると大して利用できそうにないけど……」


 「なに意味わかんないこと言ってんのよ」


 俺が感心したように顎に手を当てていると、安曇野はため息混じりに俺をシラっと見た。

 友達が少ない俺は、学校生活においてやることがなかったり、手持ち無沙汰になることが少なくない。とはいえ教室はすこぶる居心地が悪いので、差し当たって安息の地を求めて、あるいは暇を持て余して校舎内を徘徊することが日課となってしまっているのだ。学校に馴染めていない人間が、誰よりも校舎の構造を把握しているというのはなんとも皮肉な話である。


 「ほら琴音!とりあえずココ座っとけって!はいこれスポドリ!」


 石造りの階段に安曇野を座らせた伊那は、大きなクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して彼女に手渡す。俺がその様子を見ていると、伊那はコチラに近づいてきて同じようにドリンクを差し出した。


 「ほら!雄太も飲めって!」


 「え、俺はいいよ熱中症じゃないし」


 「そういうこと言ってるとなるんだよ!夏はこまめに水分補給しないとヤバいぞ!ほら!」


 「あ、ありがとう……」


 まぁ、熱中症の類はなる前こそ予防しておくのが肝心なのは確かだ。俺はヘラヘラと似合わない笑みを浮かべてそれを受け取ると、安曇野の隣に腰掛けて彼女と一緒にスポーツドリンクをチビチビと飲んだ。


 「どうだ!?琴音具合は大丈夫か!?」


 「あ、うん、もう全然平気というか、むしろ最初から熱中症じゃなかったというか……」


 「本当か!?よかったー!けど、もしまた具合悪くなってきたらすぐ俺に言えよ!」


 「いや、伊那に言ってどうするんだよ」


 俺がボソッとそう言うと、伊那は両手を前に差し出し、お姫様抱っこのジェスチャーをして俺を真っ直ぐ見た。


 「俺が琴音を担いで病院まで連れてく!」


 主人公すぎるだろコイツ、しかも本当にやりかねないから余計に。

 しかし、もし安曇野が本当に具合が悪くなって、伊那がお姫様抱っこで彼女を病院まで連れて行くような展開になれば、そこでフラグが立ってドキドキラブコメが幕を開けることになるだろう。良いなぁ、2人は美男美女でお似合いだし。俺はまたも居合わせただけの引き立て役モブキャラになってしまうのですね。

 俺がその青春戦闘力の差に苦笑いを浮かべていると、伊那はコチラを見ながらニコッと笑った。


 「もちろん、雄太が倒れたら、俺が担いで病院まで連れてくぞ!」


 え、なにこのイケメン、惚れちゃいそうなんですけどヤダ。

 ちょ、これ俺がヒロインになる分岐もあるってこと?いらねぇよ流石に、見てらんねぇよそのBLは。それだったら2人の恋を見守るモブキャラで良いよ。


 「いや、俺はヤバくなる前に1人で帰るよ」


 「なんでだよ!俺雄太のことくらい担いで運べるぞ!」


 「その男前な腕っぷしと心意気がむしろ問題なんだよ」


 「は?どういう意味だよ?」


 「いや、その……俺ノンケだから……」


 俺が何故か照れ笑いを浮かべながらよそ見してそう言うと、伊那は全く理解できないといった表情で首を大きく傾げた。


 「ん?なんだそれ?」


 「……バカじゃないのアンタら」


 俺と伊那のやり取りを見て、安曇野は呆れたように顰めっ面を浮かべた。


 「ノンケ?ノンケってなんだ?」


 「あー聡は知らなくて良い!くだらないことよ!」


 「くだらなくないだろ全然、セクシャリティが多様化するこの時代において、自認としても対外的にもある程度スタンスを定めることは重要なことだろ」


 「話をややこしくするな!ほら、聡は全然気にしなくて良いから!」


 「ほーん、まぁ良いや!」


 カラッと笑う伊那の様子を見て、安曇野はため息混じりに胸を撫で下ろした。てか、この子ノンケ知ってるんですね。絶対BL見てるじゃん我が校の生徒会長、だってノンケって対義語を前提とした概念だもん。


 「んじゃ、とりあえず2人はここで休んでてくれ、俺は練習に戻るわ!」


 伊那はそう言うと、颯爽と体育館に入っていってカゴに入ったバスケットボールを取り出してつきはじめた。

 

 「……アイツ凄いなやっぱ」


 体育館の中を覗き込んで伊那の様子を見ながら、俺は思わずそう漏らす。


 「へー、雄太でもそう思うんだ」


 「誰だってアイツ見たら思うだろ。なにあの少年漫画の主人公みたいなヤツ、俺にすら優しかったぞ」


 「そうね、聡は誰にでも優しいし、明るくて元気で、どこにいっても中心にいる人気者ね。アンタと違って」


 「おい余計な一言が引っ付いてたぞ今」


 言われなくても分かっとるわ、アイツはまさに俺とは真逆の存在である。分け隔てなく優しく、活発に笑い、スポーツに精を出す。月並みな表現だが、彼はまるで太陽のように眩しかった。

 俺は俺の湿っぽい性格がそんなに嫌いではないが、とはいえふと思うことがある。もし彼のような性格だったら、彼のような人生だったら、どんな景色が見えるのだろうかと。


 「アンタも少しは聡のこと見習ったらどうなの?」


 「アレはもう先天的なレベルだろ。俺が何したってあんな風にはなれねぇよ」


 「なんで町内会の人を敵に回すことは出来るくせに、もうちょっと明るく振る舞うことが出来ないのよ、意味わからない」


 「そりゃ俺の根本が主人公じゃなくて小物のヒール役だからなぁ。友情努力勝利の主人公が伊那だとしたら、孤独怠惰敗北の逆主人公が俺だ」


 俺が胸を張って得意げにニヤつくと、安曇野は苛立ったように嘆息して、俺の首根っこを掴んだ。


 「やっぱりアンタは少し聡を見習いなさい!ほら、そんなくだらないこと言ってる暇があるなら、練習手伝ってくる!」


 彼女はそう言って、俺の半袖ワイシャツの襟をグイッと引っ張って体育館の中に引きずり込み、練習している伊那に声をかける。


 「聡!コイツ練習相手に使ってあげて!あんまり役には立たないと思うけど、障害物くらいにはなるわよ!」


 「おい、勝手に人を物体として使用するな!」


 俺が安曇野の手を振り解いて立ち上がると、シュート練習をしていた伊那がコチラに駆け寄ってきた。


 「本当か!?練習付き合ってくれんの!?」


 「え、いや、別に良いけど……俺運動経験ほぼゼロだから、あんま役に立たんぞ?」


 「いや良いよそれでも!邪魔なとこに立っててもらうだけでも全然助かる!」


 おい完全に障害物としてしか期待されてねぇじゃねえか俺。それだったら材木の方がまだ役に立つぞ、アレ加工できるし。


 「今日14時まで1人で練習しなきゃいけなかったから、それまでだけでもマジ助かる!」


 「あー、あと1時間で誰か来んのか。じゃあそれまでだったらなんか手伝うぞ」


 「やったありがとな!やっぱ雄太優しいな!」


 伊那はそう言って、俺の背中をバシバシ叩く。なんか、陽キャって男女問わずパーソナルスペース狭いというか、ボディタッチ多いですよね。異性からやられるとドキドキしちゃうけど、同性でも普通にビックリするんだよなコレ。


 「じゃあ、スリーの練習したいから、そこのカゴからボール取って投げてくれ!」


 ハーフコートの真ん中に置かれたカゴを指差しながら、伊那はスリーポイントラインまで後ろに下がって、俺にパスをするようにジェスチャーした。

 俺はカゴから覚束ない手捌きでボールを取り出すと、伊那を目掛けてとりあえず放り投げる。


 「……あ!すまん!」


 ありえないほどの大暴投である、どこ投げてんだ俺。

 運動神経に自信のない俺は、球技の機会を出来る限り避けてきた。テニスの時間で誰もやりたがらないスコア係を自ら率先してやり続けた結果、一回もラケットを握ることなく半年間のテニスのカリキュラムが終了したことすらある。コレで俺がテニスの授業修了したことになるのバグだろ、良いのか文部科学省。

 とはいえ、玉扱いにおいて才覚も努力も伴っていない俺に、狙った場所に投げろという方が無理のあることなのだ。


 「ちょ、どこ投げてんのよ!」


 体育館の隅っこに体育座りした安曇野からヤジが飛ぶ。俺だってそう思ってるよ、頑張って投げたんだから大目に見てよ。

 しかして、伊那はその暴投を一目散に追いかけて、コートのセンターラインのはるか向こうからスリーポイントを放ち、そのボールは綺麗な弧を描きながらリングを掠めた。


 「あー!クソおっしー!」


 伊那は楽しそうに表情をクシャッとさせて、小走りでスリーポイントラインまで戻ってくる。


 「しゃあ!もう一本!」


 「え、良いの今ので?」


 「全然良いよ!むしろどこに来るか読めなくてサイコー!もう一本くれ!」


 伊那は汗を拭い、アンコントロールも甚だしいボールの軌道に文句一つ言わず、アドレナリンドバドバの笑みを浮かべた。

 なんだコイツ、どんだけ心優しきスポーツバカなんだよ、漫画以外にこんなヤツいんのかよマジで。


 「じゃ、じゃあ行くぞ……あ!す、すまん!」


 またも取らせる気のない大暴投をかましてしまったが、伊那はそれを全力で追いかけて、追いついた位置からシュートを放つ。


 「ワザとじゃないんだ!悪い!」


 「良いって良いって!けどその投げ方だと手首壊すぞ!」


 伊那は俺に駆け寄ってきて、ボールを一つカゴから取り出すと投げ方のレクチャーを始めた。


 「こうやって両手で持って、なんつーか、押し出すイメージで!」


 「こ、こうか?」


 「そうそう!で、手首に力入っちゃってるから、もうちょっと力抜いて……そうそうそんな感じ!」


 「こ、こんなんで良いのか?」


 「まぁ一回やってみろって!ワンバンで良いから!」


 伊那はレクチャーを終えると、またスリーポイントラインまで下がって俺にボールを投げるよう促した。


 「えっと、こう持って……ソイ!」


 俺が伊那に向けて放った玉は、ヨロヨロとワンバウンドして、それでも先ほどの暴投よりも明らかに伊那の近くに届いた。


 「おぉ!そうそう出来てんじゃん!」


 「ま、マジで?」


 「マジマジ!あとは慣れだ!」


 「な、なるほど……」


 そんなふうに何球か伊那にパスを出しているうちに、俺は少しずつコツを掴んでいき、ワンバウンドで伊那の正面にパスを出せるようになっていった。上達している感覚に高揚感を覚え、気づけば夢中になって伊那にパスを出す。


 「凄えじゃん!上達早いぞ!雄太素質あるな!」


 「え、そ、そうかなぁ……」


 「まだちょっと力んじゃってるから、出来るだけ柔らかいイメージでやってみ?」


 なるほど、もっとしなやかにボールを放てば、より鋭いパスが出来るということですね?よし、伊那のアドバイスを参考に、さらにパスの練習を……

 いや待て、これ伊那のシュート練習だよね?いつから俺のパス練習になってんの?


 「ほら!雄太どんどん上手くなるな!めっちゃ才能あるぞ!」


 ちょっとこの人煽てるの上手くない?球技を蛇蝎の如く嫌ってた俺が、いつのまにか向上心を芽生えさせてたぞおい。

 ふと我に返ってしまった俺は、その拍子にアドレナリンの分泌も途切れて、運動不足の体を急に酷使した反動による疲れがドッと押し寄せた。


 「……すまん、ちょっと休憩して良いか?夏休み中ほぼ引きこもり生活だった俺の体力は、こんなもんで限界だ」


 「あー悪い!俺もそろそろ休憩するわ!」


 俺のやつれた表情を見た伊那は、Tシャツの襟をパタパタと揺らして身体の熱を冷ましながら、休憩のために体育館の外へと俺と一緒に歩いていった。


 「聡お疲れさま!……アンタも」


 俺と伊那が石畳にダラっと座っていると、様子を見ていた安曇野が俺たちを覗き込んできた。


 「あー汗かいた!あっちー!」


 「水分補給した方が良いんじゃない?あのクーラーボックスの中に入ってるの?」


 「あー悪いありがとう琴音!」


 安曇野はクーラーボックスの蓋を開けて中身をゴソゴソと漁ったが、眉を顰めて首を傾げながらコチラを見た。


 「……飲み物入ってないわよ?」


 「マジ?さっき渡したのが最後だったかな」


 「え、マジかよすまん」


 「いや良いって良いって!どうしよう買ってきて貰おうかな……」


 汗だくになりながら腕を組んで何事かを思案する伊那に、安曇野は小首を傾げて提案する。


 「私、向こうの自販機で買ってこようか?」


 「え、良いのか?」


 「当たり前じゃない。じゃあ2人分買ってくるから、ちょっと待ってて」


 安曇野はそう言うと、制服のミニスカートをはためかせながら渡り廊下を走っていった。


 「サンキュー!」


 彼女の後ろ姿をあぐらをかいて眺めながら、伊那は大きく声をかける。


 「……あれ?琴音って熱中症だったんじゃねえの?元気に走ってったけど」


 「そういや確かに。まぁ、血色はだいぶ落ち着いてたし、いつも通りの白い肌に戻ってたから大丈夫だろ」


 「まぁそれもそっか!アイツほんと色白で美人だよな!いろんな男子からモテモテなんだぜ、バスケ部男子の中でもトップ3の人気だ!」


 「トップ3?なんだそりゃ」


 「だから、東高の可愛い女子ランキングだよ!バスケ部男子の中じゃ、不動のトップ3がいるんだ!」


 あー、出た出た典型的なホモソノリ。往々にして、体育会系の男子コミュニティというのは周囲の女性を勝手に寸評してランキングを作成する傾向にある。誰に頼まれたわけでもなく、ゴリラみたいな男たちは皆一様に「え!アイツだけはないわ!」などと談笑しながら女子を値踏みしていく。

 俺はそんな野蛮な男性的コミュニケーションに、若干の抵抗感があった。なんだよ彼女にしたい女子ランキングって、彼女になってくれるだけでその子女神だろ文句言うな、特に野球部。


 「てか、お前も知ってんだろ?東高の美少女って言ったら、どの男子も決まってあの3人のうちの誰かを出すだろ」


 「いや、俺はホモソーシャルから弾き出された流浪の民だから、男子が共有してるその美少女図鑑の情報は持ってないな。安曇野以外の2人は多分知らん」


 「は?知らないわけねぇだろ、だって双葉ちゃんと仲良いだろ雄太?」


 あー、あの子ランクインしてるんですね。そりゃそうかめちゃくちゃ可愛いもんな。しかし、ホモソ作成の美少女ランキングトップ3のうち2人が知り合いとは、陰キャの俺としては大健闘なのではないだろうか。


 「交友関係の狭い俺が3人中2人も知ってるなんて、世間は狭いもんだな。しかし、あの2人に匹敵するレベルの女の子がこの学校にいるのか、相当可愛いだろその子」


 「俺は直接喋ったことないけどな!でも遠目で見てもめちゃくちゃ可愛いぞその子、あのたまに廊下で見かける金髪で目立つ子!立科さんだっけ?」


 おい全員知り合いじゃねえか、どんだけ世間狭いんだよマジで。それとも、コミュ障の俺ですらまるで花に誘われる蝶のように引き寄せられてしまうのが美少女というモノなのだろうか。いやその場合俺が単にスケベなだけでは?


 「眼前の女の子が学校中の男子から歓心を向けられていると思うと、色々複雑な気分だな……」


 「てかお前!双葉ちゃんとも幼馴染だって言ってたよな!そのうえ琴音とも幼馴染って、どんだけ運良いんだよ!あんな美少女2人と仲良いなんて、羨ましいぞオイオイオイ!」


 伊那はニヤニヤと口角を上げながら、汗ばんだ腕で俺の肩を掴む。あーもう体育会系のダル絡みうぜぇ。


 「千曲と幼馴染?あーそんな設定あったな、アレは忘れてくれ、千曲と俺は別に仲良くないし親交もない」


 「え、そうなのか?本屋に2人で一緒にいたじゃん」


 「アレはその、色々あんだよ。千曲みたいな可愛い女の子が俺と仲良いワケねぇだろ、あの子に失礼だから勘違いしないでくれ」


 「ふーん、まぁ良いや」


 伊那は納得いってない様子だったが、次の瞬間には気を取り直したようにニコッと笑った。さすが運動部、切り替えが早い。

 そんな伊那とのやり取りで、俺は春頃のことを思い出していた。俺の心の中には確かにあるこのえもいわれぬ蟠りも、体育会系陽キャの彼は、切り替えて忘れてしまったのだろうか。


 「……俺のこと、嫌じゃないのか?」


 「え?」


 「いや、だからその、千曲のことで、あの時俺は伊那のコミュニティを口撃しただろ?お前の友達を泣かせて、1組のグループを分断した。そんなヤツのこと、嫌じゃないのかなって……」


 俺が苦笑いを浮かべながら恐る恐る尋ねると、伊那は少しだけ間を置いて、あっけらかんと言った。


 「確かに、アレは意味わかんなかったし、酷かったな」


 「だ、だよな……」


 「けど、双葉ちゃんのためにやったんだろ?紗奈に目の敵にされてる双葉ちゃんを守りたくて、あんなことしたんだろ?だったら、俺は雄太のこと、嫌いになったりしねぇよ」


 伊那は俺を真っ直ぐ見て、真剣な表情で頭を下げる。


 「むしろ、雄太に頼られた時、何も出来なくてごめん!俺がちゃんと紗奈と双葉ちゃんの間を取り持ってれば、雄太はあんなことしなくて済んだんだ、だからごめん!」


 「お、おいおい!顔を上げてくれ!」


 「いや、最初から雄太に頼まれた通りにすべきだった!気合いが足んなかった!一発殴ってくれ!」


 「なんでそうなる!殴らねえよ!」


 「いや、殴ってくれ!なんなら10発、いや100発でも!」


 「嫌だわ!そんな前時代的な暴力に加担するか!」


 なんで男性社会って痛みを落とし前にするんだよ、お前が痛くてもコッチにメリットないだろ、なんなんだこのヤクザ的不毛な暴力構造、だからホモソ好きじゃないんだよ。


 「……伊那は、よくやってくれたよ。大町紗奈の機嫌を取ってくれたのは結局お前だ。俺はただ小物のヘイト役をやっただけ、あの時のMVPはお前と、あの、アイツ、サッカー部の、なんだっけほらアイツだよ」


 「春樹な、確かにあの時に1番カッコよかったのは春樹だな」


 そう、俺はあの時何もしていない。悪役を成敗した主人公は、間違いなく彼らであった。憎まれる道理こそあれど、謝られる道理なんてないのだ。


 「春樹、あの後紗奈と付き合ったんだよ。今じゃラブラブで、そのおかげか紗奈も前より穏やかになってるぞ」


 「ほーん、そりゃ悪役冥利に尽きるね」


 「悪役じゃねえよ雄太は、恋のキューピッドだろ?」


 「あんな嫌味な恋のキューピッド居ねえよ」


 カラッと笑う伊那を見ながら、俺は顔を引き攣らせてため息混じりの笑みを浮かべた。しかして存外、嫌な気分でもなかった。


 「さって!そろそろ練習するか!」


 「え、早くない?俺もうちょっと休憩したいんだけど。なんなら自宅のベッドで」


 「帰ってんじゃねえかソレ!まぁ、雄太が疲れてるなら無理すんなよ、そろそろ別の練習相手が来るから大丈夫だ!」


 「ほーん、そういや確かに別のバスケ部員が見当たらな……」


 「聡ごめーん!おまたせー!」


 俺がキョロキョロと辺りを見渡して言葉を発しかけたところで、渡り廊下の向こうから足跡と共に快活な声が聞こえてきた。


 「ま、待ってよ芽衣ちゃん!」


 「早くきてよ双葉!ダッシュダッシュ!」


 声のする方を見ると、華奢な2つの影がコチラに向かって近づいてきていた。交友関係の狭い俺でも、よく見知ったシルエットが、2人。


 「あれ?聡1人じゃないんだ、誰?」


 俺たちの座っていた石畳まで辿り着いた2人の少女のうち、ショートカットのスポーティーな女の子が俺を一瞥して伊那に声をかけた。


 「ん?芽衣にも前に紹介しなかったっけ?」


 「え、してないよ!聡の勘違いじゃない?」


 「あれ、そうだっけ?まぁ良いや、コイツは俺のクラスの同級生の……」


 「ゆ、ゆゆ、雄太くん……!?」


 伊那が俺のことを紹介しようとした矢先、その台詞を先取りするかのように、もう1人の栗色の髪の少女が俺の名前を口にした。

 

 「な、なんでここにいるの……!?」


 驚愕したように、あるいは焦ったように眉を八の字にして口を開けるその少女は、語るまでもなく安曇野に匹敵するほどの美少女、つまりホモソーシャルプレゼンツ東高美少女ランキングのトップ3に君臨するその御方であった。


 「ち、千曲……」


 俺は苦笑いを浮かべながら、千曲は唖然とした表情を浮かべながら、夏休みには起きえなかった筈の邂逅に互いに立ち尽くすほか無かった。

 

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