祭り2
日が傾き、西の空が真っ赤に染まる頃。蝉の合唱団が1匹また1匹と歌うのをやめ、歌声に自信のある数匹の蝉だけが散発的に独唱を続ける中、お祭りの設営はあらかた完了し、来客を待つばかりになっていた。
「……なんか、いい感じだな」
鳥居の前から神社の境内を1人覗いていた俺は、独り言でポツリとそう呟いた。
石畳を照らす提灯の灯り、賽銭箱に続く道の両側に立ち並ぶ屋台。普段は朴訥とした侘び寂びの境内が極彩色に彩られて、ハレの日を見事に演出している。
こういう地域のお祭りの喧騒というのも、なかなか趣があってバカにできないなどと、柄にもなく感嘆した。むしろ、せせこましいコミュニティの年に1度のお祭りだからこそ、その健気さと儚さが余計に、えもいわれぬ味わいを引き出しているのかもしれない。
「地元の小さい祭りってデカい祭りには無い良さがあるよなぁ。けど、地元の祭りがデカいヒトはどういう感覚なんだろう、リオデジャネイロのヒトとか。もし俺の地元がリオで、あんな露出度高い人達が踊ってたら、おっぱいをチラ見するくらいしか出来ないよ。結構楽しそうだなソレも」
「クソ変態野郎!死ねバカ!」
俺がいつもの調子で独りごちていると、不意に後ろから腰を蹴り上げられて思わずよろめいた。振り返ると、右膝を上げて臨戦体制を取っている安曇野が俺を睨みつけながら片足で立っている。
「おい、今この景色みて陶酔してたんだから、そっとしておいてくれよ」
「ウソ!お、おっぱいって聞こえたわよ!誰の見てたか知らないけど、アンタが他の人をふしだらな目で見てたら私が許さない!警察に突き出してやる!」
「誰の胸も見てねえよ!ここはリオのカーニバルじゃないんだから!」
仮にリオのカーニバルだとしても、こんな極東の島国の思春期少年が視姦目的で来てたら追い出されるかもしれないけど。
「意味わかんないこと言ってるんじゃないわよ!他の女の人を不埒な目で見るな!」
「だから見てないって!」
「おうおう!やってんねー!」
安曇野に手首を掴まれ、俺が冤罪で連行されそうになっていると、不意に後ろから肩をポンっと叩かれた。振り返ると、ニヤニヤとした表情を浮かべた姉の姿があった。ねじり鉢巻に水色の法被姿で、いかにもお祭り女という感じの格好をしている。
「手伝いお疲れさん!琴音ちゃんも弟の面倒みてくれてサンキュー!」
「あ、おい、アンタこの時間までどこにいたんだよ。俺たち2人とも手伝いに駆り出されるって話じゃなかったの?俺だけ無賃労働させられたんだが」
「お姉ちゃんはお神輿の方に行ってました!近所の小学生達と、わっしょいわっしょい近所を練り歩いてたのよ!」
「おい、そっちだけ随分楽しそうなことしてんな。こっちはパイプ椅子並べたり、ロープで鉄骨括ったり、地味な力仕事を散々させられたんだけど」
「ほら!適材適所っていうでしょ!雄太がコッチにいても、お神輿の数十メートル後ろでスマホ弄って、気付いたらいなくなってるのが目に見えてるもん!」
確かに、姉の言ったような姿の俺は想像に難くない。お神輿の雰囲気に馴染めずに居た堪れない様子の俺がありありと浮かぶ。
けど、だからと言ってこっちの手伝いも適材ではないだろ、クラス腕っぷしランキング最下位常連の細腕だぞこちとら。薄暗い部屋でゲームをするというのが、俺に最も適した身の振り方である。
「確かにソレはぐうの音も出ないけど、面倒な仕事を俺に丸投げするための方便にしか聞こえなくて釈然としないぞ」
「まぁまぁ!結局手伝ったんならソレで良いじゃんか!琴音ちゃん、雄太は役に立った?」
「は、はい!ゆうく……雄太くんのやっつけ仕事にはかなり手を焼きましたけど、私が面倒見てあげてなんとかって感じです!」
なんだそれ、俺結構マジメに仕事しただろ。炎天下の中のタダ働きで、やっつけ仕事などと評されてしまうのは些か以上に不服である。俺アンタの代わりに重いものとか結構持ってあげたよ?
「役に立ったなら良かった!ほーれ、案外ヒトのために働くのって楽しいだろ〜!」
姉がそう言って俺の髪をワシワシと撫で付けるので、俺は鬱陶しくて思わず払いのける。
「楽しくねえよ!むしろ、休日潰した割に労いが少なくて若干腹立ってるまである!」
「おーそうかそうか!いくら対価オバケの雄太でも、頑張った後はやっぱり褒めて欲しいのか!可愛いとこあんじゃん、ほれほれ〜!」
「おい頭をワシワシするな!それ犬に対しての褒め方だから!フリスビーを咥えて持って帰ってきた時の褒め方だから!」
いや、美少女に頭を撫でつけて褒められるというのは、炎天下の肉体労働の対価にさえ匹敵するほど素晴らしいものである。ただし、それが姉でなければ。
「ほれ〜!良い子でちゅね〜!」
「アンタ弟を舐めすぎだぞ!思春期の弟が姉に赤ちゃん言葉で褒められて嬉しいワケあるか!」
「ワガママだなぁ。じゃあ、琴音ちゃんも雄太のこと褒めてあげて!お姉ちゃんに褒められても嬉しくないんだって!幼馴染の可愛い女の子に褒められたら、きっとこの愚弟の疲れも吹っ飛んで、喜んでまた働いてくれるよ!」
「おいあからさまに労働力を搾取しようとするな。美少女からの褒めを対価にタダ働きさせるって、まだ裁く法律がないだけの悪だぞ、さっさと六法全書に記載しろその項目」
姉が俺の頭に手を乗せながら安曇野にそう問いかけると、彼女は少し困った表情を浮かべて頬を染め、モジモジと逡巡した後に歯切れ悪く口を開く。
「……ま、まぁ、全く役に立たなかったワケでもないっていうか?仕事としては全然ダメだったけど?今回はいちおう及第点あげようかな?温情で、あくまで温情で。感謝しなさいよ」
「……えっと、琴音ちゃん?雄太を褒めてあげて?あんまり活躍しなかったかもだけど、いちおう頑張ってくれたし、ね?」
「そ、そうですよね!その、だから、えっと、アンタは……」
姉の苦笑いに畏まったような表情を見せた安曇野は、再び俺に視線を戻して伏し目がちにモゴモゴと続ける。
「その、だから……だから!」
「お、おう」
「役立たずでバカでスケベで無能なアンタを!今日は特別に私が褒めてあげるって言ってんの!この役立たず!」
安曇野が目をギュッと瞑って意を決したように口から放った言葉は、この通りであった。役立たずって2回言われたぞ、どんだけ役に立たなかったんだよ俺。
俺と姉が口を開けて呆然とした表情を浮かべていると、その姿を見て彼女は慌てふためき、困ったように辺りをキョロキョロと見渡す。
「あ!あの、私、一旦家に帰ってから、お神輿の方にいる陸を迎えに行ってきます……」
安曇野はそう言うと、まるでその場から逃げ去るようにそそくさと駆け出していった。
ふと、俺が姉の表情を見やると、苦々しい表情を浮かべながら手で顔を押さえている。
「……どうした?顔でも痛いのか?」
「いや、どっちかっていうと胸の方が痛い」
「じゃあ胸押さえろよ」
俺がそうツッコむと、姉は腕を組みながらそこにある木に背中から寄りかかって、首を傾げつつ顰めっ面を浮かべた。
「琴音ちゃんってあんな子だった?」
「中学くらいからはずっとあんな感じだろ。あんま喋ってないからよく知らんけど」
「あー、そういう感じか……まぁ、前に見た時から分かってたけど、ちょっと重症だねアレは」
「重症というか、単に性格が悪いんだろ。アレを症状にするのは、病に伏しているヒトに失礼だ」
俺が呆れたように肩をすくめると、それを見た姉は表情をクシャッとさせて、小さくため息をついた。
「素直になるのってね、結構勇気がいることなのよ。それがたとえ好意的な感情だったとしても、正直に伝えるのは難しいの」
「はぁ、何が言いたいのか分からんが、アンタが言うと説得力ないな」
「どうして?」
「思ったことはすぐ言っちゃうアンタには似合わないセリフだってことだよ。素直さが服着て歩いてるようなもんだからなアンタ、今日は法被だけど」
俺がスカしたように笑うと、姉は刹那の間だけ真顔になって、その後吹き出すように肩を揺らした。
「そっかそっか!私そんなふうに見えてるんだ!」
「は?どういう意味だよ?」
「うーん、雄太が見てる景色が私からの見え方と違うように、私が見てる景色も雄太からの見え方と違うんだなって、そんな感じ?」
「そんなん当たり前だろ。ジョハリの窓じゃん」
「それは意味わかんないけど、どっちも意味わかんないままでよろしい!」
「なんだそれ」
俺が姉のその要領を得ない言葉に顰めっ面を浮かべた時、祭りの来客であろう家族連れが向こうから歩いてくるのが見えた。
「ほらほら!お祭りも本番突入だよ!カニバって行こう!」
「なんでお祭りに競合がいるんだよ、ちゃんとカに伸ばし棒付けろ」
俺のその言葉を無視して、姉は境内の中をスキップで駆けていった。こうやって意味わかんないこと言ってる扱いをされると、なんだかツッコミ甲斐が無いな。
俺が焼きそば屋の屋台の裏手で、おそらく鉄板を熱している動力源であろう大きな機械のエンジン音を煩わしく思いながらスマホを弄っていると、遠くから微かに声が聞こえてきた。
「あ!雄太だ!」
「ちょ、コラりっくん!そこ暗いから足元気をつけなさい!」
俺がパッと顔を上げると、浴衣を着た姉と弟と思しき2人が、こちらに駆けて来るのが見える。
「雄太普通の服なんだね!」
「男の場合、成長するとわざわざ着替えたりしなくなるんだよ。おめかしは女の子の特権だ、君は幼い今のうちに楽しんでおけよ」
「そうなの?こういうの着なくなるの?」
「男がそういうのやるのは親とかに用意してもらってるうちだけだよ。男はそういうの自分でやるほど興味ないからな。それで?君は着せて貰ったのか?」
「うん!お姉ちゃんに着せて貰ったよ!」
そう言って安曇野の弟が後ろを指差すので、俺が顔を上げてそちらに目線を向けると、俯き加減の安曇野が忙しなく体を揺らし、左の髪を耳にかけた。
その黒を基調とした浴衣には、白の花びらが舞い散る柄が施されていて、色味は決して多くないのに、あまりにも艶やかだった。あるいは、それを着ている少女の麗しさが、そう魅せているのかもしれない。
後ろで纏められた髪に刺さった簪の、そこに咲いたスミレの揺れを見て、息を呑む。
「……似合うな、やっぱり」
心の声が、思わず漏れた。柄にもなく感嘆してしまい、その心情が少しだけ口から溢れ出てしまった。
ふと、それを聞いた安曇野は自分の胸元を一瞥した後に、なぜだかジトっとした視線を俺に投げかけてきてボソッと言う。
「今、どこ見て言った?」
「え?」
「……死ね!」
何の説明の余地もなく、安曇野は呪詛を吐いてそっぽを向いた。なんかコイツ勘違いしてないか?思った通りの感想を述べた結果、ありもしない悪意を受け取られてしまうのは、実に難儀なものである。だから人付き合いって嫌なんだよ。
「ねーねーお姉ちゃん!早く焼きそば食べたい!」
「はいはい分かった分かった!作ってあげるから、ちゃんと屋台の列に並んでね!順番抜かししたらお姉ちゃん怒るよ?」
「うん!」
小さく屈んで弟と視線を合わせた安曇野は、その元気な返事にニコニコと頭を優しく撫でた。やっぱ弟の頭撫でる時ってアレくらい優しくやるよな、俺の姉ちゃん毎回俺の頭皮でもひったくろうとしてるんじゃないかって勢いなんだけど。ひったくり犯の中でもだいぶ悪質だぞ。
「さ!そろそろ焼きそば屋やるわよ!アンタもレジにつきなさい!」
「あ、はい」
俺は言われるがまま、シートを潜って屋台の中に入り、種類別に小銭が入ったケースだけが置かれている小さな会計代の前に覇気なく立った。その横で、安曇野はエプロンをつけてヘラを持ち、慣れた手つきで鉄板に油を引いていく。
「ほら!ソレ取って!」
「え、どれ?」
「ソレよソレ!あーもう良い!ちょっとどいて!」
俺がその不明瞭な指示に辺りをキョロキョロしていると、痺れを切らしたように安曇野が俺を押し退けて、ソースの入った容器をふんだくるように持っていった。
これされると本当に嫌な気分になるよな。ソレとかアレとか言われても分かんねーよ、とか思ってたら案外他の人はその意図を汲み取ってソレとかアレを渡せるんだよな。自分の動作性IQの低さを自覚させられるみたいで、かなりショックである。居酒屋でバイトするのだけはやめとこう、絶対無能だもん俺。
「焼きそば2つ!」
「ありがとうございます!ほら、早く容器用意して!」
「え、容器?」
「ソコにあるでしょ!なんで分かんないの!?」
俺は焦って周りを見渡し、体感30秒くらいかかってようやく容器を見つけて、急かす安曇野の横に並べた。
「早くしてよ!焦げたらどうすんの!?」
「あーごめんて!これに入れてくれ!」
安曇野はヘラを巧みに動かして、プラスチックの容器に焼きそばを入れた。なんでそんな慣れてんだよ、こちとら料理も久しくやってないんだから大目に見てくれよ。
俺が祭り客に焼きそばを手渡そうとすると、またも隣から安曇野の焦らすような怒号が飛んできて、ついビクッとなる。
「輪ゴムは!?」
「え、輪ゴム?」
「アンタそのまま渡す気!?輪ゴムしないと蓋開いちゃうでしょ!?ちょっとは考えなさいよ!」
「ご、ごめん」
「あとお箸は3膳付けて!お子さんも食べるだろうから!」
「あ、そっか箸もいるか」
「当たり前でしょ!アンタ焼きそば手で食べるの!?ほんっとうに使えないわね!」
その言葉に、俺は少しばかり萎縮してしまった。忘れてただけじゃん、そんなに言わなくても良いじゃん。ムカつくから、この際焼きそば手で食ってやろうか。インド人だって手で食うし、決して変なことではないだろ。アンタの当たり前を世界の当たり前だと思うなよ、バーカバーカ。
俺はそんなことを考えながら、慣れた手つきで焼きそばを焼く安曇野の横で、右往左往しながらお会計を続けた。
「琴音ちゃん焼きそば焼くの上手だね!様になってるよ!」
客として来ていた先の中年男性が、チャキチャキと動く安曇野の働きぶりを見て鉄板越しに声をかけてくる。
「そうですか?なら良かった!」
「あやめちゃんの弟くんも、頑張ってくれてるみたいじゃないか!」
そのおじさんが申し訳程度に俺のことも労うので、俺は張り付いたような愛想笑いを浮かべる。今日必死こいて働いて、褒めてくれたのアンタだけだよ。もうこのおじさんとラブストーリー紡ごうかな、なにその需要ゼロのBL展開。
などと考えていると、安曇野は呆れたような笑いを浮かべて首を横に振った。
「まぁ、多少慣れてきたから出来てるように見えてるだけで、最初なんて酷かったですからコイツ!」
俺が焼きそばの入った容器を輪ゴムで縛っていると、安曇野はおじさんに話を続ける。
「箸を渡すのすら忘れてたんですよ!あ、箸もいるか、とか言って!どうやって食べてもらうつもりなのって話ですよ!」
「は、はは……」
俺はおじさんに向かって、愛想笑いをし続けることしか出来なかった。もうその話は良いだろ、別に面白くもない。何度も擦るような鉄板トークじゃねえよ、焼きそばだけに。ほらね?面白くないでしょ?
「まぁ、仲良くやってるなら良かった!」
おじさんは俺から焼きそばを受け取りつつそう言った。どこをどう見たらそういう解釈になるんだよ。
俺が怪訝な表情を浮かべると、おじさんは腕時計を見て安曇野に声をかける。
「そろそろ交代の時間じゃないかな、別の係の人はおじさんが呼んでくるよ。おーい、あやめちゃーん!」
そう言っておじさんが別の人を呼びに行ってから少し経った後、後ろのシートを潜って姉が屋台の中に入って来た。焼きそばを焼く係であろうエプロンをした見知らぬオバサンもいる。
「おつかれーヒレカツカレー!」
「なんでちょっと豪華なんだよ。ヒレカツをカレーに入れるなもったいない」
「あとはお姉ちゃんと塚田さんに任せて、琴音ちゃんと雄太はお祭りを回ってきなさい!らっしゃーせー!今なら、超大盛りを食べ切った人は無料チャレンジやってますよー!」
姉が誰の了解も得ずに謎のチャレンジを開幕させたのを尻目に、俺と安曇野は屋台の裏側から抜け出した。久々に鉄板から離れて、夜風がひんやりと気持ちいい。
「さーて、ログインボーナスでも回収しますか」
俺がそう言ってポケットからおもむろにスマホを取り出すと、エプロンを畳んで置いた安曇野が不服そうに俺を睨みつけた。
「お祭りまで来てスマホいじるな!このスマホ依存症!」
「良いだろ別に、自由時間なんだから。アルバイトだったらバックヤードでみんなスマホいじってるだろ」
まぁ、俺はバイトやったことないから、想像で言ってるだけなんですけどね。
「お祭りの手伝いとバイトじゃ全然違うでしょ!こういう自由時間は、普通お祭りを回るものなの!」
「うーん、まぁそれもそうか」
確かに、お祭りなど面倒くさくてもう2度と来ないだろうからな、人生最後に味わっておくのも悪くないだろう。どんだけ外出する予定無いんだよ俺。
小さく伸びをして、俺が屋台の表側に向かって歩き出そうとすると、安曇野が声をかけてきた。
「アンタ、どうするつもりなの?」
「え?お祭りを回れって安曇野が言ったんだろ」
「そうじゃなくて!まさか、1人で回るつもりでも、ないんでしょ?」
「えっと、まぁ差し当たって1人で回ろうかなと」
「お祭りを1人で回るって、そんな寂しいこと、許されるワケないじゃない!」
おい、1人行動を愛する人間全員を敵に回したぞ今の発言。許されないってなんだよ、なんでお祭りを1人で回るのに誰かの許可が必要なんだよ。未だ、1人行動をさも人権のない行動であるかのように捉えている彼女のような人間がいて弱る。
「別に良いだろ」
「ダメ!アンタみたいな辛気臭いのが1人で歩いてたら、お祭りの雰囲気が悪くなる!」
「そんな呪物なの俺?そんな禍々しいオーラ出てる俺?もう能力者だろソレ、なんかカッコいいからそれで良いよ」
「うるさい!とにかく、アンタがお祭り1人で回るなんてこと、私が許さない!」
なんでアンタの許可が必要なんだよ。てか、今休憩時間なんだろ?なんで怒られてんの俺?
「わかった、じゃあ俺は大人しくログボを……」
「だからスマホはダメだって言ってるでしょ!」
「じゃあどうしろと?帰れと?まぁ帰っていいなら普通に帰りますけど」
俺が少し苛立ってしまって小さくため息をつくと、安曇野は巾着袋を両手で持って身を捩り、俺から目を逸らすように地面を見つめた。
「だ、だから……誰かと一緒にお祭り回れって、言ってるの」
「誰か?姉ちゃんとか?」
「あやめさんは、今屋台やってるでしょ……だから、アンタなんかとお祭り回ってくれる人、誰もいないってことね……」
「はぁ」
「あーあ!本当に面倒ね!アンタみたいな根暗とお祭り回ってくれる人なんて、誰1人いないわね!」
「まぁ、そうだな、誰か一緒に回ってくれる人がいたら良かったんだけどな」
俺がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに安曇野はこちらを指差し、見下すようにのけぞって自慢げに言い放った。
「そこまで言うなら!しょうがないから、私がアンタと一緒に回ってあげる!アンタみたいなバカと2人きりなんて本当は嫌なんだけど、他の人に迷惑かけるわけにもいかないから、我慢して一緒にいてあげる!感謝しなさいよね!」
「雄太くん!」
「雄太!」
安曇野が高慢に言い放った矢先、俺の両腕が後ろからひしと抱き寄せられた。その柔らかな感触に、つい一瞬力が抜ける。
俺の右手を抱くのは、上目遣いで満面の笑みを浮かべる、栗色の髪をした美少女。俺の左手を抱くのは、こちらも上目遣いでイタズラっぽい笑みを浮かべる、金髪の美少女。
はてさて、このハレの日は、まるで俺には似つかわしくない、2人の極彩色に彩られたのであった。




