買い物2
「よっし、とうちゃーく!」
スーパーの駐車場に着いた俺たちは各々車を出て、安曇野は助手席のドアを開けて弟の脇を持ち上げてゆっくりと地面に下ろした。常に世話をしているからか、こういう所作は様になっているほどに手慣れている。
「さ、行こう行こう!」
「うん!ねーねーお姉ちゃん!お菓子お菓子!」
「ちょ、りっくん走らないの!」
スーパーの入り口に向かって駐車場を走り出した弟を、慌てて安曇野が追いかける。その様子を後ろから見ながら、俺と姉は隣り合って歩いた。
「……雄太の言ってること、分かったよ」
ふと、姉が眉を下げて苦笑いを浮かべながらそう言ったので、俺は眉間に皺を寄せる。
「は?なんの話だ?」
「いや、琴音ちゃんが雄太のこと目の敵にしてるとかなんとか。何言ってんのか意味わかんなかったけど、理解しました」
「だろ?俺の解釈間違ってないよな?」
俺は理解者の出現に歓喜し、思わず身を乗り出す。やっぱ持つべきものは姉ですわ。
すると、姉はまたも困ったように微笑し、頬をポリポリとかいた。
「うーん、雄太の解釈も、それはそれで多分間違ってるんだけど……」
「いや、どう考えてもアレは俺を目の敵にしてるだろ、今理解したってアンタ言ったじゃん」
「いやー、理解したってのは、双方の目線というか、神視点というか……」
「は?どういう意味だよ」
俺が聞き返すと、姉は少しばかり上を見上げた後、小さくため息をついてあっけらかんと笑った。
「まぁ!そんなこと言っちゃうほどお姉ちゃん野暮じゃないからね!むしろ高校生してて良いね!うん!」
「いや意味わからん」
「わからんで良い!むしろわからん方が良いということですな!」
「なんだそれ」
俺が訝しげにそう言うと、姉は入り口にある買い物カゴを手に取って、俺の目の前に突き出した。
「はい!荷物持ちよろしく!」
「そういやそれ目的で連れてこられたんでしたね……」
ここまで男女平等が囁かれる昨今においても、やはり肉体労働は男の仕事なのですね。とほほ。
俺たち4人はスーパーに陳列された商品を物色しながらゆっくりと導線に沿って進んでいく。ふと、俺がお菓子コーナーでアニメとコラボした商品に吸い寄せられ、一団から少し外れた。
「うーん、白魔導転生のコラボか……しかしナースコスとかバニーコスとか、世界観崩れてないか?あの世界に現代的な看護師なんていないだろ」
俺は特典についてくるカードのラインナップに目を通して、独り言を呟いて吟味する。
「なんか、エロで釣るためにその作品の文脈を無視した格好をキャラクターにさせるの、違う気がするけどなぁ。青春群像劇のヒロインがランジェリー姿で寝そべってるタペストリーとか、作品へのリスペクトに欠けてるよなぁ。まぁ、これは可愛いから一個買ってくけど……」
「雄太はチョコが好きなの?」
不意に後ろから声がして、俺がギョッとして振り返ると、安曇野の弟が首を傾げて立っていた。
「え、いや、そんな好きじゃないけど……」
「じゃあなんでチョコ買ってるの?」
俺がオドオドと答えると、安曇野弟は俺が手に持っている、先のコラボ商品である小分けになったチョコが沢山入っている袋を指差した。
「……チョコ大好きだ」
「そうなんだ!僕も好きだよ!」
安曇野弟はそう言って無垢な笑顔を浮かべた。この少年が俺の本当の購買理由を知るには、まだ早い。まぁ、彼も人間ならそのうち気づくさ、己の業にな。
「僕もチョコ欲しい!」
「残念だが、これは我が家の取り分だからな。安曇野に……君のお姉ちゃんに頼むと良い」
「えー!だってお姉ちゃんお菓子あんまり買ってくんないもん!」
「まぁ、それは君のためを思ってのことなんじゃないか?知らんけど」
「チョコ欲しいよ僕も!」
安曇野弟はそう言ってその場で駄々をこねるように小さくジャンプする。うーん、どうやって宥めれば良いんでしょうかコレ。
「わ、わかった……車の中で何個かあげよう。お姉ちゃんには内緒な?」
「マジ!?やったやった!雄太すげぇ!」
「お、おう、よきにはからえ」
あれ、小さい子にこうして喜んで慕ってもらえるのも、存外悪い気分じゃないですねぇ。生まれてこの方慕われた経験が希薄な俺にとっては、こんな子供の直上的な打算による賞賛さえ、承認されている感覚があった。なっさけねぇ俺。
「お姉ちゃんにバレないように、ちゃんと隠しとくんだぞ?アイツ、怒ると面倒だからな」
「うん!なんか今日のお姉ちゃん、いつもより怒ってるし!」
「そうなのか?」
「うん!いつもは優しいんだけど、悪口言う時は急に怒り出すんだお姉ちゃん!」
安曇野弟は目を輝かせながら、俺の持つチョコレートを屈んで覗き込んでそう言った。
「優しい?アイツが?」
「うん!お姉ちゃんいっつもはカッコいいし、優しいよ!けど、なんか誰かの悪口言う時だけ、いつもと違うんだ!なんか、私が拾ってあげるんだって言ってるよ!」
「なんだそれ、廃品回収の話か?」
「はいひんかいしゅう?」
「ああ、ほら、あるだろ。地域の子どもたちが集まって、新聞紙とか本とか近所の家庭から回収するヤツ。君もやったことあるんじゃないか?」
ちなみに俺はやったことありません。なぜなら俺だけはそういう地域の活動に参加せずに家で寝てるからです。
「あ、前にやったよ!その時あやめ姉ちゃんもいたんだ!」
「おいあの人大学生なのに廃品回収出てんのかよ。どんだけ地元愛強いんだよ、県とか市とかならまだしも、そんな局所的過ぎる地元愛聞いたことねえよ」
「雄太はあやめ姉ちゃんの弟なのに、いっつもいないね!なんで?アレって近所の人みんな参加してるんじゃないの?」
ギクゥッ!おいこの小童的確に急所ついてきてんじゃねえか。将来スナイパーだろマジで。
「……あのな、休日というのは神が人間に与えた権利なんだ。それを何人たりとも侵害する道理はないんだよ。学校に行ってれば、いずれ憲法を学ぶ機会もあるだろうさ」
「……ズル休み?」
「ちょ、その無垢な表情で核心を突くな……」
おそらく、彼は俺のその言葉を理解したわけではなく、目の動きやら声色やら、捲し立てているその様子やらから、今の解を導き出したのだろう。まったく、子供というのは直感的に欺きを見抜くから油断ならない。
「じゃあさ、今度のお祭りも来ないの?」
「え……まぁ、そのつもりだな」
「えー!雄太も来てよ!楽しいよ!」
少年はそう言って、俺の袖口を掴んでグイグイと引っ張る。こんなまっすぐ遊びに誘われたのはいつぶりだろうか、俺にも小学生の頃はこんな屈託のない友達がいたなぁ。中学でみんな疎遠になっちゃいました、てへ。
「いやー、まぁ気が向いたらな」
俺がそんな行かない気満々の社交辞令でお茶を濁すと、安曇野弟はピョンピョン跳ねて喜んだ。
「やったー!絶対来てよ!」
「あー、そうだな、善処するわ」
「あとお菓子持ってきてね!絶対だよ!」
あ、それが目的なんだ。なるほどね。
どうやら、チョコをあげる約束をした結果、この子坊主の中で俺はお菓子をくれるおじさんとして認識されてしまったらしい。そりゃ純粋に誘ってるわけないか、子供って案外打算的なんだなぁ。
「交渉するときは、あんまり自己の利益を押し出さない方が良いぞ。仮に遺産目当てだったとしても、それをひた隠してお爺さんに優しくするのは鉄則だ。君も大人になれば分かるさ」
「君じゃないよ!」
「え?」
「君じゃなくて、陸!」
少年はそう言って、自分のことを指差す。確かに、幼児に対して君という呼び方は些か温かみに欠けるか。
「ヒトのことは、ちゃんと下の名前で呼んだ方が良いって、先生が言ってた!その方が仲良くなれるって!」
「何そのマイルドヤンキー的な価値基準。君の担任湘南出身?」
「だから、君じゃなくて陸!」
少年はそう言って不服そうにピョンピョン跳ねるが、とはいえファーストネーム呼びに慣れない俺にとっては、幼子相手ですら少々気恥ずかしいものがあった。
「……あのな、下の名前で呼んで良いよ!とか言ってくる、親しさの押し売りみたいなヤツいるけどな、俺アレ苦手なんだよ」
「なんで?」
「良いか?人称ってのは、距離感なんだ。まだ親しくない人とは、適切な心理的な距離を取っておきたいんだよコッチは。下の名前で良いという許諾は、心理的な距離は近い方が良いという前提に立脚してるけど、その前提自体がみんなに適用されるわけじゃないんだ。あの断れない圧のある有難迷惑は、コッチの防衛線を踏み荒らす行為なんだよ」
「……?」
「……君は学校に嫌いな人はいるか?」
「いる!ケンタくん!」
「個人名までは聞いてないけど……じゃあ、その子に急に肩組まれたらどうする?」
「うーん、なんかヤダ!」
「だろ?つまり苦手なタイプのヤツに、コッチの心理的な聖域に勝手に入ってこられるのは不愉快なんだよ。ハッキリ言って、初対面から下の名前で呼び合うタイプの連中は、往々にして俺の苦手なタイプなわけだ。つまり、下の名前で呼んで良いよ!という発言そのものが、ソイツを下の名前で呼びたくない理由を何よりも明示的に……」
「何話してんの2人で……」
俺が幼稚園児相手に人差し指を立てて社会学の講義よろしく説法を展開していると、しゃがんだ俺と安曇野弟を見下ろすように安曇野が引き攣った表情を浮かべながら立っていた。
「……これはアレだ、心理的パーソナルスペースという少し複雑な概念を、肉体的パーソナルスペースに置き換えて説明することによって、幼稚園児でも分かりやすく距離感という概念を理解することができる、入門的な社会学、あるいは文化人類学の講義で」
「ヒトの弟に変なこと教えないで!陸がアンタみたいなロクでなしになったらどう責任取ってくれんの!?」
安曇野は弟の体を引き寄せて、庇うように憤慨した。ロクでなしとは失礼な。ファーストネーム呼びなどという『私たちは親しいですよ!』と周囲に見せて回るような、言わば他人に担保してもらう必要のある友情の虚飾と欺瞞に、痛烈にメスを入れる俺のどこがロクでなしなのだ。あ、他人の友情を虚飾とか言っちゃうあたりですか?
「あー、すまんすまん」
「私の弟にアンタの捻くれを伝染させないで!りっくんも!このお兄ちゃんの話聞いちゃいけないからね!」
「えー、なんで?」
「なんでも!」
立科は弟に有無を言わさずそう忠告すると、俺の方をまたキッと睨みつけた。今日何回睨まれたんだろう俺、睨まれた分の500円玉貯金とか始めようかな、このペースだとすぐ貯まるぞ。
「ねーねーあやめ姉ちゃん!お姉ちゃんが雄太の言うことは聞いちゃいけないんだって!なんで?」
先の説明不足に納得いかなかったのか、安曇野弟は我が姉に駆け寄って行って首を傾げた。
「それはね、りっくん。冷笑ばっかりして斜に構えていると、他の人に嫌われちゃうからだよ」
「おい、サラッと俺が嫌われてる前提で話すな」
俺のツッコミを他所に、俺の姉は安曇野弟の手を引いて物色を再開する。俺がやれやれと立ち上がってチョコをカゴに入れていると、安曇野に睨まれ続けていることに気づいた。
「……な、なんでしょうか?」
「……ホント、アンタって中学の頃から、そういうところ全然変わってないよね」
「そういうところ?作品の世界観に沿わない表現に嫌悪感を持ちながらも、とはいえ俗物的な欲求が拭いきれなくて、結局こういうちょっと露出度高めなイラストのコラボ商品買っちゃうところ?」
「そういう意味わかんないことばっか言ってるところ!」
今の意味わかんなくないだろ。大概の人間は、神聖さと性的魅力のどちらもを併せ持った対象に対して、その認知的不協和を是正するためにエクスキューズを勝手に用意するものである。推しなんて言葉、完全にそれの権化だろ。そこに対して無自覚でありたくないという態度は、つまり推しという言葉で煙に巻き、あたかも性的には見ていないという誤魔化しにもどかしさを感じるというのは、決して世迷言などではないはずだ。
などと言うとさらにブチギレられそうなので、黙っておこう。
「あー、意味わかんないことばっか言ってすまん。治ると良いなぁ」
「なんで他人事なわけ!?それに、アンタのそれはもう治んないでしょ、不治の病よね」
なんでそんな痛烈に言われなきゃいけないんだよ。てか、仮に俺のこれが不治の病だとしたらもっと優しくしろ、病人なんだから。
「まぁ、そうかもな」
「そうよ、絶対治んない。私昔からアンタのこと知ってるから、それくらい分かるわよ」
「そうなんだ」
「それを治さないと、アンタは女の子から絶対相手にされないわよね。けど、それを治すには付き合ってくれる女の子が必要なわけ?だから絶対治んない、分かる?」
「ほう、なるほどなぁ」
「けど、けどよ?もしかしたら、アンタのそれに付き合ってくれる女の子が、偶然近くにいるかも知れないわよね?」
ふと、俺の頭に浮かんだのは、千曲と立科という2人の女の子。いかんいかん、何をハーレムラブコメ主人公のような都合の良いことを考えているのだろうか。俺はユナたそと生涯を添い遂げると決めたではないか。2次元への忠誠をそんな下卑た下心で崩してたまるか。
3次元の女の子は、俺に絶望するかも知れない。今の段階で好意的であれば、余計に。その点、2次元は俺に絶望することなどない。安心と信頼の2次元、マジ最高。
などと俺が1人で思考を巡らして返事を怠っていると、その様子を見た安曇野はムッとした表情で俺を見た。
「ねぇ、ちゃんと聞きなさいよ!」
「え?ねえちゃんと風呂入ってる?いや入ってない、お姉ちゃんと風呂に入ってないし、ちゃんと風呂に入ってない。残念だったな、俺はどちらにせよ風呂入ってないから、引っ掛けようとしても無駄だ」
「そんなこと聞いてないわよ!というか、ちゃんと風呂には入りなさい!不潔でしょ!」
「いや、実は欧米の人って結構風呂に入らなかったりするんだ。俺は世界に羽ばたくことを視野に入れて、今から文化的な適応を」
「英語が全く出来ないアンタが世界に羽ばたける訳ないでしょ!風呂にも入らず英語も喋れないって、タダの臭い置物じゃない!」
なんてこと言うんだ、ヒトを臭い置物呼ばわりはあんまりではなかろうか。あと、なんで俺が英語出来ないこと知ってんだよコイツ。
「アンタお風呂にもマトモに入れないわけ!?」
「いや、面倒な時だけな?風呂キャンセル界隈だからと言って、全く入らないわけではないぞ?」
「お風呂は毎日入りなさい!このバカ!」
お風呂に入ることと知性は関係ないだろ。まぁ、社不か否かという目線で見ればかなりの相関関係がありそうだけれども。
「やっぱ、アンタみたいな人間のお世話をしてくれる女の子なんて絶対いないわよ!どこをどう探してもいるわけがない!」
「……あの、ちょっと気になってたんだけど、なんでさっきから女の子に相手されないとか面倒みて貰えないとか、いちいち女性が出てくるんだ?」
「は?そんなの当たり前じゃない」
おいおい、こんな旧態依然とした思考の持ち主が生徒会長とは、随分我が校もダイバーシティの波に乗り遅れているらしい。
「あのな、アンタは男の人生の幸不幸が異性のパートナーの有無によって分かれると思ってんのかもしれないけどな、人によってはその限りじゃないんだよ」
「は?どういう意味よ」
「例えば、ここまで分業が進んだ現代社会においては、お金という共通価値での取引によって、何もかもアウトソーシング出来るだろ?」
「何が言いたいのか分かんないんだけど」
「つまり、別に奥さんに飯を作って貰わなくても、コンビニに行けば調理済みの美味しい料理が並んでいるし、性的な発散だって豊富なアダルトコンテンツがこの国にはある。原始的な家庭における奥さんの役割を金で買えるようになっちゃったんだよ現代日本では」
まぁ、俺の今の弁はあくまでポジショントークによる極端な意見だという自覚はありつつ、ともあれ経済的発展がパートナーの必要性を少しばかり薄めたというのは否定できまい。
俺が魚コーナーの冷蔵庫を覗き込みながらそう話すと、安曇野は何の返答もしてこなかった。なるほど論破してしまったか、などと自らのディベート力に改めて惚れ惚れしながら安曇野を見やると、握り拳を小刻みに震わし、まるで泣きそうなほどの表情で俺をこれでもかと睨みつけていた。
「何よそれ……何よそれ!じゃあ、アンタには女の子は必要ないって言うの!?」
「いや、もちろん俺だって好きになってくれる人がいたら満更でもないけど、それが生死を分つほどかと言うとそうでもないという話で……」
「うるさい!アンタみたいなバカには、絶対にそばにいてくれる人が必要なの!そうじゃないと、アンタはマトモになれないんだから!」
「その、マトモにならないといけないってのも腑に落ちないんだが。法律における公序良俗の話ならまだしも、そんな定義も曖昧なマトモって概念を押し付けられても……」
「ダメなの!絶対ダメ!アンタのそばには、絶対に……」
「喧嘩してるの?」
俺が安曇野の圧に引き攣った表情を浮かべていると、安曇野弟が屈託のない面持ちで首を傾げて俺たちを見上げていた。
「な、なんでもないわよりっくん!ちょっとこのバカを叱ってあげてただけだからね!」
「は、はは……」
安曇野が慌てた様子で弁解するので、俺も高校生のくだらない言い争いを幼児に見せるのは憚られて、慣れない愛想笑いを浮かべた。
「さ!りっくん!お肉コーナーだよお肉コーナー!りっくんお肉好きでしょ?」
「わー!お肉お肉!」
安曇野は話題を逸らすためか、弟が喜びそうな肉のコーナーに小走りで駆け寄って手招きした。弟も嬉しそうに安曇野に駆け寄っていく。
「ハンバーグはどれ?」
「ん?りっくんハンバーグ食べたいの?」
「うん!僕ハンバーグ好き!」
「えー?じゃあ今日はハンバーグにしよっか!」
「良いの!?やったぜ!」
「けど、野菜もちゃんと食べなきゃダメよ!お姉ちゃんと約束!」
「うん!約束!」
俺の目の前で指切りをするその姉弟を見て、えもいわれぬ微笑ましさを感じた。うーん、歳の離れた弟の面倒を見る姉って、かなり魅力的ですなぁ。
そんなことを考えていると、安曇野弟がこちらに駆け寄ってきて、俺の袖口を引っ張って笑った。
「今日ハンバーグだって!お姉ちゃんのハンバーグすっごく美味しいんだよ!」
「そうか、良かったな」
「うん!」
俺が屈んでそう答えていると、安曇野はハンバーグ用であろうひき肉を俺の持っているカゴに入れながらしたり顔を浮かべた。
「どう?家族って良いでしょ?」
「はぁ」
そんな良いシーンだけ切り取って得意げにされましても。生存者バイアスここに極まれり、一生の愛を誓い合った夫婦の泥沼離婚調停とかも見ないとフェアじゃないだろうに。
「さ!りっくん、今度は野菜よ野菜!」
「えー、僕野菜いらない」
「好き嫌いダメって言ったでしょ?ハンバーグ作ってあげないよ?」
「えー、じゃあ野菜買う」
手を繋いで微笑ましく歩く姉と弟の後ろ姿を追いながら、俺は荷物持ちとしてヨロヨロと進む。
ふと、隣に姉が来て、俺の二の腕を膝でつついた。
「案外様になってんじゃん、荷物持ち」
「1ミリも嬉しくないぞソレ」
「けどほら、男は女の子の荷物持ってナンボだから」
「そうですか……」
あんまり力持ちじゃないんだけどなぁ俺。比較的不得手な力仕事を性別によってやらされていることに難儀さを感じつつ、とはいえ不思議と嫌ではなかった。
女の子の荷物を持つことでカッコいいと思われたいという俗物的な業が、とはいえ俺の中にもまだ残っているのかもしれない。




