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2.相談


 ソファの置かれた一室。テレビには夕方の情報番組が映し出され、暖色系の光がリビングルームを照らし出す。

 俺はソファに深々と座り込み、少し天井を見上げたあと、帰路の途中で買ってきたポテトチップスを頬張り、レモンティーでそれを胃に流し込んだ。学校空間から解放され、両親が家に帰宅するまでの束の間に許される至福の時間。広いリビングを俺1人で占拠している優越感、嫌いじゃない。

 俺はぼーっと明日の天気予報を眺めながら、バリボリ音を立ててポテチを食らう。さて、どこから考えたものやら。


 「あれー?帰ってたんだ」


 俺が考え事を後回しにしてまどろんでいるさなか、俺の支配下にあるリビング帝国に侵入者が現れた。

 彼女は着ていた上着をハンガーにかけると、半袖短パンの薄手で俺の隣に勢いよく腰掛けた。ソファが沈み込み、俺はみっともなくバランスを崩す。


 「……おかえり」


 「おいおい、なんだねその仏頂面は。こんな美人さんが隣にいるなんてなかなか貴重な体験なんだぞ、もっと喜びたまえ」


 「身内じゃなけりゃ、俺だって飛び跳ねて喜んだんだがな」


 今俺とソファで密着している美少女の名は須坂あやめ。端的に言って、俺の姉である。


 「今日は早く帰ってきたね」


 「ん、ああ、始業式だったからな、ちょっと早く学校が終わったんだよ」


 「ん?じゃなくて、いっつもアンタ本屋とかゲーセンとか寄って帰ってくるじゃない。だから早いなって思って、オタクだし」


 「おい最後の一言いるか?てか、もうオタク差別する時代なんてとうにすぎてるぞ陽キャさん」


 「別にオタクって悪い意味で言ったわけじゃないし、むしろそうやって過敏に反応して卑屈になってるところが、アンタにあんまり友達がいないことの原因なんじゃない?」


 「俺に友達がいないことを前提として話を進めるな、失敬な」


 「いるの?」


 「……友達の数で人の価値は決まらないんだよ」


 「やっぱいないんじゃんヤバい無理!」


 そう言って姉は大笑いしながら俺の背中をバシバシ叩いた。

 なーにが無理だ、なんでもかんでも無理という表現で済ませやがって最近の女は、言葉を大切にせず無理という表現一辺倒なそのスタンスが1番無理だわ。


 「雄太ってホントなんていうか不器用だよね、良いとこはあるんだけど、全部裏目に出る、みたいな」

 

 「それ良いとこある意味ねぇじゃねえか、てか、別に俺は良い人でありたいとか思ってないし優しいやつはただ利用されて搾取されるだけだから戦略的に冷酷になってるだけだし!」


 「あー、なんていうんだっけそういうの、思春期男子特有のやつ、あ、そう厨二病だ」


 「はっ倒すぞ」


 まぁ、見ての通りこの姉にはデリカシーとかそういうのがかけらもないのである。美人ではあるので男子からはモテるようなのだが、俺にはどーもこの姉がモテてる理由がイマイチ理解できない。およそ、俺と同じ遺伝子を引き継いでるとは思えないほどに明るいし、いろんなところが真反対である。

 実は血のつながりがないとかなんじゃないか?まぁ、仮にそうであれそこから2人の恋が始まるみたいなラブコメ展開はありえないだろう。だってデリカシーなさすぎるから、姉だから許してるだけで、他人だったらマジではっ倒してるし。


 「いい加減卒業しなそういうの、普通にしてたら友達も彼女もできるでしょアンタは、なんで拗らすかなぁ」


 「友達も彼女も別に必要ないな、俺にはアニメとゲームがあれば十分だ!そもそも、ここまで社会システムが成熟した現代で煩わしい人間関係をわざわざ結ぶほうが精神的な負荷があってだな」


 「あー長い!はぁ、我が弟ながらお姉ちゃん心配だよ……」


 姉は深いため息をつきながら目の前のテーブルにあるポテチに手を伸ばし、口元に持っていって頬張った。なんか自然に食ったけど俺が買ってきたやつだぞそれ。

 俺が怪訝な表情で姉を見つめると、それに気づいた彼女は首を傾げながら尋ねる。


 「食べていい?」


 「おい最初から食ってから聞くつもりだったろアンタ、確信犯だろ」


 「だって雄太食べていいか聞いたら大体ゴネるじゃん、結局最後はくれるしもう食べちゃってから聞いたほうが早いかなって」


 「俺の性格特性を理解して攻略すんのやめろ」


 こんな感じでこの姉とは無限に会話が続く、お互いあまりに知りすぎているからだろうか。まぁノーストレスでコミュニケーションが取れる数少ない相手として感謝してなくもないのだが、あまりに俺の性格を知りすぎているので隠し事を見透かされることもあり、状況いかんでは最大の敵になったりすることもあるのだ。


 「あ、そうそう、話戻るけどなんで今日はゲーセンとか寄らなかったわけ?」


 「ん、あー、今日はなんかそんな気分じゃなくてな」


 「え、なにそれ、学校でなんかあったん?」


 「どぅえ!い、いや、特になにも!?」


 速攻で図星をつかれた思わず狼狽してしまった。学校で告白されたなんてことがこの人にバレたらマズい。というか多分死ぬほど面倒くさいことになる。めっちゃイジられる絶対嫌だそれは。


 「え、なんか困ってるなら言ってよ?お姉ちゃん助けたげる」


 「いや、ホントにそういうんじゃないから、マジで心配ご無用めっちゃ大丈夫」


 「話すだけでスッキリすることもあるし!お姉ちゃんに言いたまえ聞いたげるから!」


 「いや、マジで大丈夫!」


 どうしたものか、本当にセンシティブな問題だと思われて心配かけるのは心苦しいが、でもマジでバレたくはない。この人は色恋沙汰大好き人間なのである。バレたら毎日茶化されることになるだろう、それだけは避けねばなるまい。


 「別に恥ずかしいことないって!ほら、お姉ちゃんに言ってみ?なにがあったの?」


 「なんでもない!」


 「怒ってる時の彼女みたいなこと言わない!あ、ごめん分からないこと言っちゃって……」


 「な!俺が交際経験がない前提で話すな!」


 「え、あるの!?」


 「……俺は恋愛に重きを置いてないから」


 でも女の子のなんでもないはなんでもなくないってことくらいは知ってるぞ、ネットで見たことあるし。


 「やっぱないじゃん無理しぬ」


 「バカにしやがって!その程度で人間が死んでたまるか!舐めるな人間の生命力!」


 姉はまた大笑いして俺の背中をバシバシ叩く、俺の背中は打楽器じゃねえぞ。

 それにしても、つくづくバカにし腐りやがってこの姉は、俺だってラブコメはラノベとか漫画とかで散々読んだわ。むしろ恋愛のインプット量は余人より多いくらいだ。アウトプットゼロだけど。


 「そろそろ彼女とか作ったほうが良いんじゃない?手伝ったげようか?」


 「要らん!てかそもそも俺は1人で充実してるんだ彼女など断じて必要ない!」


 「……強がらなくて、良いんだよ?」


 「おいこっちにそんな慈悲に満ちた眼差し向けんな憐れむな、というか強がりじゃねえしマジで彼女とか要らねえし必要ないから作ってないだけだし!」


 「ふーん、そうなんだ、へーすごーい」


 「心がこもってなさすぎる!アンタ自分の弟舐めすぎだぞ!俺はな今日な学校一の美少女に告白されてだな……あ」


 やってしまった。姉のあまりに俺を舐めすぎている不遜な態度に、つい男のプライドが出てしまった。俺だって意外と女の子からモテるんだぞ、と言いたいという矮小な欲望が、隠さねばならない事実を俺の口に語らせてしまった。

 途端、姉の口角がゆっくりと上がっていった。ニヤニヤとした顔が近づいてくる。


 「女の子から、告白、されたん?お姉ちゃんに話してみ?聞いたげる」


 4月5日、18時16分、男のプライドにより女の子に告白されたことを自白、恋愛大好き警察によって、自宅リビングにて現行犯逮捕。地獄の事情聴取開始。


 

 

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