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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最悪の魔女はやることないから気に入った子を見繕っては敵(遊び相手)にする

 私は魔女だ。

 魔女である私は普通の人間には殺せない。消せない。滅ぼせない。


 何故なら、魔女だから。


 理由になってないと言われるかもしれないが、実際そうなのだ。



 聖なる力に秀でた者。

 そう、例えば神に愛されし聖女。


 魔の力の真髄を理解する者。

 そう、例えば知の化身のごとき大賢者。


 人々を守るため生まれた者。

 そう、例えば伝説の剣を使いこなせる勇者。



 これらの人物ならば、並の魔女なら滅ぼすこともできるだろう。苦戦は必至だけど。

 でも、私を滅ぼせるかと言われたら、それは難しいと言わざるをえないね。


 何故なら、私はとてつもない魔女だから。



「……だから諦めたら? これじゃ死なないよぉ?」


「うるっせえ!」


 私に馬乗りになり、ぼさぼさの茶髪を振り乱しながら、何度も何度もナイフを突き刺してくる血だらけの少年。


「一生懸命、頑張ったんだね。下位とはいえ、まさか悪魔まで倒しちゃうとは、お姉さんびっくりしちゃった。えらいえらい」


 上半身を起こして頭を撫でてあげようとしたら、ドンと手で突き飛ばされた。

 また背中が地面とこんにちわだ。


「なんでだ、なんで死なない! なんでなんだよぉ! 太陽の力が宿ってるのに、光の巫女が作ったものなのに!」


 半泣きになりながら、少年が、金色に光る刃をまた私の心臓辺りめがけてグサリ。


 すっかり返り血まみれになってるところに、胸から吹き出る血をまた浴びながら、喉にグサリ。


 額にもグサリ。頭蓋にも見事に刺さるんだから、切れ味すごいねそのナイフ。

 太陽の力とやらは……うん、微妙かな。すっごく微妙。気の毒になるくらい微妙。


「う、うわ、うわああぁ!」


 グサリ、グサリ、グサリ。


「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 グサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリグサリ。


 なんということでしょう。

 それでも私は死にません。


 むしろ、何度も何度も私めがけて刃物を突き立てる彼のほうが、なんだか狂気にとりつかれ、目も虚ろになってきてる。

 活発さを絵に描いたような生き生きとしていた顔は、悲しいことに、死相が浮かぶ一歩手前みたいな絶望の顔へと成り果てていた。



「もういい?」


 私の左目にナイフを突き刺したまま残し、心がぽっきり折れた少年を、魔法の鎖で縛り上げる。


「駄目だよ、ボク。こんなものじゃ、何百回刺してもくすぐったいだけだって」


 むくりと起き上がり、ナイフを引き抜き、


「ふーーーーーーーーっ」


 息を吹きかけた。


 すると、ナイフや少年の体を真っ赤に染めていた色が、みるみるうちに霧散していく。

 きれいになったナイフを、少年の懐にしまわれていた鞘に、納めてあげた。

 これでよし。


「次回はもっとちゃんとしたの用意したほうかいいよ」


「……殺せよ」


「えー、やだ」


「なんでだよ。父さんや母さん、町の人たちや、あの人を……………………パルナお姉ちゃんを、皆を燃やしておいて、何なんだよ……」


「いわゆるひとつの、正当防衛?」


「ふざけるな!」


 別にふざけてないんだけどね。


 私は、あてもなくフラフラしていた時に、たまたま町の外れにあった、持ち主のいない屋敷にひっそり住みついただけなのに。

 ホントだよ。

 人もさらったりしてないし、怪しい儀式もやってない。ただ気まぐれで寝床に選んだだけ。


 でも、都で才能が開花して聖騎士になったという、そのパルナって娘が町の連中に焚きつけられて討伐にきたから、返り討ちにしたんだよね。

 関わらなければそのうちどっかに消えたのにさ。どうして人間ってのは余計なちょっかいをかけないと気が済まないんだろう。


「私のこと、そんなに憎い?」


「当たり前だろうが! くそっ、離せ、離しやがれええっ!」


 さっきまで死にたがってたわりに元気なこと。


「でも、私は君のこと、かなり気に入ってるけどね。灰にしてやった連中のことなんか心底どうでもいいけど、君は特別かな。なんなら、私のこともお姉ちゃんって呼んでいいよ?」


 だからこそ、一人だけ燃やさなかったんだしね。


「ふ、ふざ、ふざけやがってこの外道! 鬼畜のメスブタがぁ!! 死ね、死ねっ、死ねえっ!! 呪ってやるぞ貴様ぁぁあ!!」


 あっ爆発した。


「わぁ怖い」


 怒りに沸騰してわめく彼の姿を見てると、こう、庇護欲が湧いてきてしまう。彼の深い悲しみを癒してあげたくなる。

 それはそうと殺し合いしたいのもまた確かだったりする。


「殺せとか弱音吐いた時にはちょいガッカリしたけど、また殺る気出してくれたから嬉しいな、ルオラくん」


「お前なんかが俺の名を呼ぶなああああぁ!!」


 これが本日一番の絶叫でした。





「さて、と」


 魔法の鎖に縛られたままのルオラを残し、私はローブの上から羽織るマントを翼に変化させ、悠々と飛んでいた。

 あの鎖はほっとけば数十分で消えるから、そのまま動けなくなるということはない。解放された頃には私は遠くに逃亡した後だ。


「次は誰の近くに行こうかな」


 様々な顔ぶれが次から次へと脳内に思い出されていく。

 ルイス、ゼド、アドルス、カームリア、パトリック、ゴラート……。

 どれもルオラに負けず劣らずのお気に入りだ。


 今度はどの子と楽しもうか。


 ……まあ、適当に気分で選んでしまえばいい。

 誰を選んだにしても、きっと満足させてもらえるはずだ。


「待っててね~」


 漆黒の翼をはためかせ、私は夕日の方角へと一人飛び立つのであった──

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