第1話『トイレの花子さん?』
学校の食堂
面と向かって座る2人。
透也「出るんだよ。」
孝介「何が。」
透也「気になって夜も眠れない。」
孝介「だから授業中よく寝てるのか。」
透也「気になってしょうがないんだよ」
孝介「なにが。」
透也「一番奥のところに、出るんだよ。」
孝介「だからどこで?」
透也「トイレ。」
孝介「トイレ?」
透也「そう、女子トイレ。開かずの女子トイレ。」
孝介「トイレの花子さんか?」
透也「そうかも知れない。」
孝介「んなこと言われても、男が女子トイレ入れまい。お前女子トイレ使ってるのか?」
透也「違う。この間、廊下を歩いていたら、声がするんだ。」
孝介「どんな?」
透也「助けて~、助けて~って。」
孝介「誰かが入ってるんじゃないの?」
透也「いや、あそこの女子トイレ、使用禁止だから誰もいないはず。」
孝介「くわしいな。で、だからどうしろと?」
透也「その、助けて~って、声が耳から離れなくなってなんかゾワゾワするんだよ~。」
孝介「んなこと言われてもな。まもなく夏休みだから、気にしなくていいんじゃね。」
透也「んなこと言わないで、助けてよ~。」
孝介「誰を?」
透也「僕を」
孝介「何言ってんだ?」
透也「いいから、来てよ~。いっしょに確認に行こう!」
孝介「はぁ~?」
陽も暮れた夕方の通路
孝介「ちょっ、帰ろうよ。」
透也「でも、気になるんだよ~。」
孝介「明日さあ、気になる番組の最終回なんだよ~。
今日早く帰って今一度全話見て復習したいのに~。」
透也「最終回も録画しておいて、後でまとめてみればいいじゃん。」
孝介「えー? ひっどいなー。そんなに気になるのか?」
透也「気になる。だって、明日終業式だろ? 明後日から夏休みじゃん。
今これを確認しないと、夏休みの間中気になって、夜も眠れないんだ。」
孝介「トイレの花子さんの事が?」
透也「うん。」
孝介「おれは最終回の方が気になるけどなー。」
女子トイレ
薄暗いトイレの入り口付近で固まる2人。
閉鎖中の表示がされている。
震えながら指を差す。
透也「一番奥のトイレから聞こえてくるの。」
孝介「ほんとかよ? ていうか全然聞こえてこないじゃないか。」
夕陽があたりを赤く照らす。
孝介「聞こえないよ。気のせいだよ。さあ帰ろう。」
透也「いや~、でも気になって仕方ない。なんか悲しそうな声なんだよな。」
孝介「いや、悲しいのはこっちだ。いいよ、早く帰ろう。」
透也「きっと一人で寂しんだろうな、花子さん。僕が、僕が助けてあげるよ、花子さん。」
孝介「じゃ、お疲れ。」
透也「なんで行っちゃうんだよ。」
孝介「いや、馬鹿馬鹿しいし、俺もやる事あるから。」
透也「ちょっと、待てよ。」
孝介「いやだよ。じゃ。」
透也「そんな! 行くなよ。」
孝介「いやだよ。ほんと、こっちが助けてほしいよ。」
声「助けて。」
孝介「いやだよ。」
声「お願い、助けて」
孝介「え?」
透也「え?」
2人は声のする方向を見る。
見ると一番奥のトイレがかすかに振動して、声が聞こえてくる。
声「助けて。」
孝介「え?」
透也「は、花子さん?」
孝介「ええ?」
声「助けて。助けてください。」
孝介「ぎゃああーっ!」
孝介、恐怖のあまりダッシュして逃げる。
透也「えええー! ちょっと待ってよー!」
透也も一人残った恐怖で逃げ出す。
誰もいなくなった女子トイレ付近。
悲しい声があたりに響く。
声「助けて。誰か、助けてください。」
夕陽を浴びた一番奥のトイレのドアが微妙に振動しながらノイズ混じりの声を呟き続ける。
声「助けて。邪悪で危険な物が迫ってくる……。」