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96 迫害する者への代償


 ~ハロルド視点~


 「あ、ありがとうこざいます!!」


 一人のおばあさんが私にお礼を言うと、周りにいた拘束されていた人達も一斉にお礼を言い出してくる。アスガルド城で魔王の力を手にした私は、近隣の村で人間に襲われていた魔族の村人達を助けた。


 「今、私達が解放してあげるから少しじっとしていてくれ…」


 「ハロルド様っ!増援が来ますっ!!」


 ティーンが走って掛けてくる。先程、ここの人達を助ける前に片付けた兵士の生き残りが仲間を呼びに行ったのだろう…。


 「死んでいなかったのか…」


 私は、背中に背負っている黒の聖剣を持ち、ティーンが指を差す方向へと高速で走り出す。村の入り口には20人くらいの兵士がやってきていた。


 「お、お前は何者だ!?魔族を助けてどうするんだ!?」


 「お前達もか?」


 「は?」


 兵士の一人が私の言葉を聞き、何を言われたのか分からない表情をする。


 「お前達もこうやって魔族だからと、ソロモン族を追害しようとするのか?何故に同じ人間なのに魔族を死に追いやろうとする!?」


 「あ、当たり前じゃないか!魔族は人間にとって脅威だからだろ!?生かせば、俺達が殺される!!平和の為にやって何が悪い!」


 兵士の一人が少し怒鳴りながらも返答してくる。


 「平和を脅かすのはお前達、人間じゃないか!」


 兵士の数人が、手に持っている武器を構え出す。それを見るなり大将と見える男が…。


 「や、やめろ!武器を降ろせ!!」


 「魔族を助けようとするやつも魔族だろ!!仲間の敵だっ!!」


 一人の若い兵士が武器を構えながら、私に突撃してくる。経験が少ないのかぎこちない動きをしながら、こちらに向かってくる。


 「うぉらああああああっ!!」


 若い兵士の持つ剣が、私をめがけて振り落としてくる。私は、剣を聖剣で振り払う。こいつは生かしておく価値すらない。


 「消えろ…」


 振り払った剣を引き、即座に若い兵士の脳天辺りに突き刺す。若い兵士の額からどくどくと赤い血が吹き出てきくると兵士は、そのまま前へと倒れこんだ。


 「よ!よくも仲間を!!」


 若い兵士が倒れたと同時に、数人の兵士が私を目掛けて武器を手に取り襲いかかってくる。更には後列にいる兵士は弓を素早くつがえ矢を一斉に放つ。無数の矢が私をめがけて飛んで来る。


 「そんな攻撃で!さぁ、ここで消えてなくなるがいいさ!!」


 私は、兵士の群れに目掛けて聖剣を持たない方の片手を手前へとだし、頭の中でイメージする。


 「ディストーションっ!!」


 飛んで来る矢の周りに空間の歪みが発生すると矢が次々と歪みにより矢がぐにゃりと複雑な形に変形して地面に落下していく。


 「な、なんと!?すべての矢を!?」


 更に、私は脳裏に浮かんだイメージを再現するかのように剣を構えながら、大きく横に振る。


 「私に歯向かう事を後悔するがいいっ!!次元斬っ!!」


 掛け声とともに意識を集中させる。黒の聖剣が本来の力を取り戻したかのように禍々しい赤黒いオーラを放つ。そして、軽く振り払うと、大きな赤黒い色をした衝撃波が空間を歪め、兵士達がいる方へと延びていく。空間の歪みが兵士の前を通りすぎオーラが彼らを飲み込んでいく…。


 「ぐっはあああああっ!ほ、骨が!!」


 「な、なんだこ…れっ…!い、痛い!痛い!痛っ…!グゲェっ!!」


 大きな奇声をあげながら、たくさんの兵士達の腕や足をねじ曲げていく…。運悪く、首も曲がってしまった兵士もいたりして、既に絶命している者までいる。


 「これで終わりだよ…。邪魔だから消えててくれないか?」


 私は、頭の中で一瞬閃いた技をイメージする。剣を背中に背負っている鞘に戻し、両手を空高くあげる。


 「インフェルノっ!!」


 両手から黒い色のした炎を放つ。残っていた兵士を次から次へと焼き尽くす。それはまさに地獄の業火のような感じだ…。兵士達の断末魔がこの村に響き渡る…。




………。

……。

…。




 「婆さん…、大丈夫か…?」


 「あ、あぁ…。大丈夫じゃよ…。それにしても今のは…?」


 「ああ!俺は知っているぞ!!あれは亡くなった魔王様のオーラみたいだったぞっ!昔、一度だけ、あの炎を見た事がある!」


 「それなら俺も知っている!アスガルドで兵士をやっていたから知っているぞ!!」


 解放した村人達が一斉に、私の所に集まる。感謝してくる者もいれば、私の咄嗟に思い付いたスキルを見て魔王様のスキルだと騒ぐ者もいる…。


 「も、もしや、あなた様は、魔王アスガルド様のご子息?!」


 「いや、アスガルド様は私の叔父になる。叔父の後を継ぎ、私がアスガルドの魔王となろうと思っている。皆の者、力を貸してくれないか?ここ一帯のソロモン族に害を与える者に復讐をするためもどうか!」


 一瞬、周りは静まり返る…。しかし、一人、また一人と…。


 「ああ!さっきの力を見せて貰った!これからは反撃のチャンスだ!!」


 「今まで虐げられてきた分、仕返しをしようじゃないか!」


 「魔王様…。新たなる魔王様…。私達を救ってください…」


 色々な人が、私を魔王と認めてくれる。しかし、まだ救済の道は始まったばかり…。復興させるまでは先が長い…。




………。

……。

…。




 あれから、また数日が過ぎる。私は今日も色々な魔族が捕まっている地域や襲われている地域へと赴き、そこでもまたソロモン族を救っていった…。次第に私を魔王と崇め、魔王復活という噂が直ぐに広がり始め人々に浸透していった…。そしてある日…。アスガルド城にて、私は大きな王座に座っている。本来ならばまだここに、アスガルド様が座っていたのだ…。そう考えると寂しくもある。あれだけ強く、そして色々な人間に対しても優しく、誰よりも人を愛していた方だったからだ…。落ち込んだ表情をさせているところに…。


 「ハロルド様?」


 ティーンが私の元へとやって来る。私がこうして完全に精神崩壊しなかったのも、この少女が居たからに違いない…。


 「あの時は、助けていただいてありがとうございました…。ずっと前を向いてお礼が言えなかったし…。今は凄く幸せです…」


 「気にする事はないよ。私もティーンが居たから、こうして自分が完全に壊れないで済んだ…」


 ティーンは、私の横に座る。そして、しばらく私の顔を見つめ…。お互いを確かめ会うように深い深い口づけをするのであった…。


 私は、この幸せを壊したくはない…。そのためにも、魔族を迫害する者を排除しなければならない。いつかあのルイスも、そして私を裏切った元恋人も含め必ず始末してやるつもりだ…。


 

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