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30 エルフの女性救出!

-ルイス視点-


「ぎょええええええええええっ!!? いない! いないよぉぉっ!! ウチのヒナルちゃんが神隠しにあったよぉぉぉっ!!」


「またかあ~~~っ!! ぬかったのじゃぁぁっ!! 見張りをしていた我の目が節穴じゃった!! 敵襲じゃあぁぁっ!」


 翌朝。爽やかな小鳥の囀りを、デスメタルのシャウトか怪獣の咆哮のようにかき消す、二人の少女のけたたましい悲鳴がテントの向こうから聞こえた。  俺はビクッと心臓を跳ね上がらせて飛び起きる。敵か!? 緑骨団の残党か!?  緊迫した空気の中、視線を落とすと、隣には昨夜からずっと、俺と寄り添うようにして寝ているヒナルがいた。彼女はスヤスヤと無防備な天使のような寝息を立てながら、俺の右腕を抱き枕のようにギュッと抱き抱え、その顔を幸せそうに俺の胸に埋めている。  ……いや、緊迫感ゼロかよ。  普通に、ヒナルさんの成長途中の柔らかいお胸の感触が、俺の腕にダイレクトに密着して伝わってきて、朝から色々と男としての理性が限界なんですけどね……。


 俺は真っ赤になった顔を誤魔化しながら、そっとヒナルの肩を揺すって起こし、テントの入り口のジッパーを開けて外の様子を見た。  すると、そこには。寝癖で髪を芸術的にボサボサにしたコタースと、魔族の角を丸出しにしたスルトが、血相を変えて青ざめた表情で俺たちのテントの前に立っていた。


「ルイス~っ! 大変だよ~っ! 大事件だよ~っ! またヒナルが~っ、悪いおじさんに誘拐されちゃったよ~っ!?」


「いないのじゃ! いないのじゃ! 緑骨団の残党の仕業なのじゃ! のじゃのじゃ! 早く身代金を工面するのじゃ!」


 ……なんだ。そういうことか。二人とも、完全に昨日の夜の誘拐事件のトラウマになっているらしい。どんだけ仲間想いなんだ。


「落ち着け二人とも。事件性はない。ヒナルなら、ほら。俺の隣で寝てるぞ?」


「……へ~っ?」


「……のじゃあ!?」


 二人は一瞬、きょとんとした間抜けな表情でこちらをみて……。  次の瞬間、さらに顔を赤くして、今度は別の意味で騒ぎだした。


「い、いないのじゃ! 我の貞操の危機だと思っていたのに、違う意味でいないのじゃ!」


「ヒナルは~っ、またいなくなって~っ、ルイスの布団に忍び込んだ、泥棒猫さんだったの~っ?! ズルイ、ズルイよ~っ! 未遂だ! 逮捕だ~っ!」


「いや、だから、そういうことじゃなくて……昨日の夜、ちょっと話し込んでて、そのまま俺のテントで寝てるってだけだから! 何もしてないから! 清廉潔白だから!」


「そういう事じゃないの~っ! 問題はそこなの~っ! なんでヒナルだけ、ルイスと大人の階段を登ってるの~っ! 一抜けはずるいよ~っ!」


「我のご主人様は朴念仁なのじゃ~……。これだからモヤシ男は! 我という、魔族一の美少女がいながら! 夜の営みの順序がおかしいのじゃ!」


 二人に昨夜の経緯(あくまで会話だけ)を話して納得してもらうも、何か不満だったらしく、朝からうるさく騒いでいる。  俺の背後でむにゃむにゃと寝言を言っていたヒナルが起き出し、眠そうな目でこちらに来る。


「ふわぁ~…… コタースちゃん、スルトちゃん、おはよー。朝から元気だねぇ……。むにゃむにゃ、お兄さんの匂い、落ち着く……」


「のわっ! 勝者の余裕みたいな顔をするな! 天然のタラシめ! いつの間にルイスの所にいったのじゃ! ルイスの体は、契約上は我のものなのじゃー!! 所有権の侵害じゃ!」


「抜け駆けは~っ……絶対にダメだよ~!! 今度の夜は、ウチだからね~っ! 夜這いしちゃうからね~っ! ウサギの繁殖期なめんなよ~っ!」


 な、何言ってるんだ、こいつら……。俺の貞操が別の意味で危ない。繁殖期ってなんだよ。


 その横で、涼しい顔をして朝食の味噌汁の火の管理をしているジェイさんこと仁さんが……。


「いやぁ、昨日はお楽しみ中だと思ったでござるから、あえて野暮な声はかけず、起こさなかったでござる! 若いっていいでござるな! ルイス君も隅に置けないでござる! 気にするなでござる! ははは!」


 と、ニヤニヤしながらそう言ってきた。  助けてくださいよ! 仁さん~っ! あんたまでからかわないでくれ! 人生の大先輩として止めてくれよ!


………。

……。

…。 


 野宿した後の後片付けをして、俺たちは再び仁さんの操る小さな馬車で、魔境であるクレンセントの森の街道を奥へと進んでいく。  天気がよく、上を見上げれば、鬱蒼と茂る巨大な木々の葉っぱの隙間から、ちらつかせる底抜けに青い空と、ギラギラ光る眩しい太陽の光が差し込み、森に神秘的なコントラストを描き出している。  色々な鳥の美しい囀り……、森の奥深くから聞こえる小川の流れる綺麗なせせらぎの音……。虫の音……等、様々な大自然の音が交差して、魔境ということを忘れさせるほど、旅を気持ちよくさせる……。


「ヒィィッ……! 出たのじゃ! あそこの木の陰に、のっぺらぼうの白いお化けがいたのじゃ! 魔族の天敵じゃあ!」


「ぎゃぁぁぁっ! どこ!? どこ!? ウチ、お化け無理ぃっ!」


「あれはただの白いキノコだよ。二人とも怖がりすぎ」


 コタースとスルトが抱き合ってガクガク震え、ヒナルが冷静にツッコミを入れている。平和だ。  だが、森の奥へと更に進んでいくと、その平和な空気を切り裂くような、激しい戦闘音と、女性の甲高い怒声が聞こえてきた。


「くそっ!! 下がれ、この虫ケラ化け物がぁっ!!」


 金属と何かが激しくぶつかり合う音。ただ事ではない。


「ルイスどの! あちらからただならぬ殺気と、魔獣の咆哮が!」


「えぇ! 急ぎましょう! 女の子がピンチかもしれない!」


「むっ、ルイスのハーレム探知機が反応したのじゃ!」


「スルト、違うから!」


 俺と仁さんは馬車を止め、ヒナル達を安全な場所で待機させ、声のする方へと全速力で向かった。  視界が開けた広場。  そこにいたのは、背中まで届く美しい長いゴールド色をしたロングヘアーで、森の動きやすさを重視した、露出が高くスタイルの良さが際立つ黄緑色をした軽装の鎧を装着し、その女性の身長よりも遥かに長く大きく、先端の装飾がハデにみえる魔槍を構えた女性が、血まみれになって巨大なモンスターと戦っている光景だった……。


 女性は俺達の気配に気付くと、焦燥の表情で叫んだ。


「何をしている! そこのモヤシと荷物持ち! 素人は早くここから逃げろ! こいつは並の冒険者じゃ太刀打ちできない、A級指定の魔物、『デスフラッグ』だぞ! アタシみたいに強くないと一瞬でミンチだぞ!」


 そのモンスターは、一般的な動物のような生命体ではなく、かなり大きく、三メートルくらいはある。  全身が光を反射しない漆黒の甲殻で覆われ、頭みたいな部分がカマキリのように鋭く飛び出している。そして、蜘蛛のように生えた六本の巨大な足は、まるで生きた巨大な鎌、あるいはギロチンの刃物のような形をしており、それが関節のない蛇のようにぐねぐねと不気味に動いている。  純粋な殺戮生物。  そのぐねぐねした複数の刃の足が、一瞬で鋭い突起状になるとともに、女性の急所を的確に貫こうと、音速を超える連続攻撃を仕掛けてくる。


 ガキンッ! キィィィンッ!! ギギギギィッ!!


「ぐっ……!! くそっ、重い……! 昨日のお酒が残ってて力が出ない……っ!」


 度重なる戦闘で疲労し、酒のせいで油断した女性が、なんとか魔槍の柄で致命傷は受け流すも、その圧倒的な衝撃と質量に耐えきれず、無様に尻餅をついてしまう。  絶体絶命の危機。


「ああっ……! バカ、見ているな! だから、早く逃げろ! お前達まで巻き添えで殺されるぞ! アタシのことは気にするな! 遺言はエルフの里に……ぎゃぁぁっ!」


 エルフの女性の悲壮な警告も虚しく、デスフラッグは獲物を確実に仕留めるため、六本の刃を一つに束ね、巨大な一本の槍として次の必殺の攻撃体制に入る。


「……仁さん、合わせます!」


「心得たでござる! 朝のウォーミングアップには丁度いいでござるな!」


 俺は剣を抜き、走り出しながら、自分と仁さんに光の強化魔法をかける。


「『身体強化付与ブースト』!!」


 俺たちの身体が黄金のオーラに包まれ、身体能力が極限まで跳ね上がる。  そして、突進するデスフラッグの足元目掛けて、魔法陣を展開する。


「『アースバインド(大地の呪縛)』!!」


 ゴゴゴゴッ!!  地面から、魔力で編まれた太い土の鎖が何本も無数に飛び出し、デスフラッグの六本の足に向かっていき、複雑に絡みついてその巨体の動きを一瞬だけ止める……。


「ギィィィィッ!!?」


 突起状の攻撃のタイミングが、ほんの少し遅れた。その隙を見逃さない。  俺は女性の目の前に立ちはだかり、敵の必殺の刺突攻撃を、ミスリルソードの刀身で斜めに受け流す高度な技術パリィで弾き飛ばす。


 ガァァァァァァァァンッ!!


 火花が散り、激しい衝撃波が周囲の木々を揺らす。


「えっ!? ちょっと! お前、剣士か!? なんでそんな細腕で防げるんだ!?」


「危ないから……口を開けてないで、下がっててください!」


 俺が背中越しに言うと、女性は信じられないモノを見るような、きょとんとした表情で……


「あ……あぁっ……! わ、分かった……!」


 その間も、拘束を千切ったデスフラッグから、怒り狂った猛攻が雨あられと何度も来るが……。  俺は全て、極限の動体視力とミスリルソードで完璧に受け流す。敵の攻撃は岩を砕くほど重く、防ぐたびに甲高い金属の重たい音が森に鳴り響く……。  油断したら、俺の身体ごと吹き飛ばされそうだ……。だが、今はヒナルから貰った無尽蔵の魔力がある。これなら、何時間でも防げる!


 女性が安全な森の木陰へと隠れた瞬間を見計らって……。  反撃の狼煙を上げる。


「仁さん! 今です! やっちゃってください!」


「承知ッ!! 忍法・害虫駆除の術!」


 仁さんは俺の合図と共に直ぐ様、木々を音もなく駆け上がり、重力を無視したような大ジャンプをして、敵の死角である真上へと上がる。


「奥義! 『忍法!火遁かとん八岐大蛇やまたのおろち』でござる!!」


 ドォォォォォンッ!!  上空から、特大の火遁の術を放つ……。仁さんの体から莫大な炎が吹き出し、それが八つの巨大な炎の蛇の形に分かれ、デスフラッグの全身に向かって延びていく……。  その瞬間、仁さんは炎に紛れて急降下し、敵の最も硬い背中の甲殻の隙間に、二本の忍刀を深々と突き刺す。  八方向から伸びる炎の蛇が、デスフラッグに直撃する瞬間。仁さんは二本の忍刀を回転させて内部を切り裂きながら、爆風を利用して地面へと着地し、アクロバティックにその場を離脱する。


「ギ……ギャァァァァァァァッ!!?」


 炎の爆発と内部破壊。  俺と仁さん……、初めての共闘とは思えない、阿吽の呼吸の中々のコンビネーションだ。


 デスフラッグが、炎の持続ダメージと致命的な斬撃でよろめき、その巨体を晒した瞬間を見計らって……。俺はミスリルソードに全魔力を集束させる。


「消し飛べ!! 『セイントバースト』っっ!!!」


 カッ!!  ミスリルソードの切っ先から、真昼の太陽のような真っ白い極太の閃光が解き放たれて、空間と地面を激しく揺らしながらも、敵の中心に直撃し、飲み込む……。  漆黒のデスフラッグの体を、細胞レベルで光へと分解し、粉砕していく……。  デスフラッグは内部で光の連鎖爆発を起こし……断末魔の悲鳴を上げる暇もなく、黒い煤だけを残して、跡形もなく木っ端微塵に消え去った。


「……ふぅ。お疲れ様でした、仁さん」


「ははは! 良い汗をかいたでござるな、ルイス君。朝のラジオ体操代わりには丁度よかったでござる」


 俺と仁さんが剣を納め、笑顔でハイタッチを交わす。  その様子を後ろで見ていた女性は……。  膝をついたまま、美しい顔を信じられないくらい大きく口を開け、視点がさだまっていないように見えた。  ぽかーん、というか、きょとーんと、間抜けなアホ面で、完全に固まっている。  よく見ると、黄金の髪の間から、長く尖った耳が見える。あぁ……、やはり、森の民、エルフの女性か……。


 暫くして、放心状態から解放された彼女だが……。


「……お、おい! 嘘だろ!? 今のはなんなんだ!? 幻覚か!? あれはA級指定の魔物、デスフラッグだぞ!! 軍隊が総動員で戦うレベルの、最強最悪の化け物なんだぞ!! なんで、二人だけであんないとも容易く、無傷で倒せるんだよ!! お前たち、一体何者だ!? 神の使いか!?」


 エルフの女性は、興奮して顔を真っ赤にして、熱くなりながらものすごい早口でまくし立てて喋りだす。プライドが高そうなのに、今は完全にパニック状態だ。


「いや、ただの冒険者と……」


「ただの荷物運び(ポーター)ですよ。余裕でしたが……」


「うむ! 朝飯前、余裕でござる……」


 俺たちがキメ顔でサラッとそう言うと。


「……えっ。えええええええっ!? ぽ、ポーター!?」


「ひ、ひぇええええええええええっ!? 余裕ってなんだ!? アタシの苦労は!? 意味がわからん!! 世の中間違ってる!!」


 エルフの女性の、プライドも何もない、悲痛な叫び声に似た絶叫が、クレンセントの森の深部中にこだました……。  そのあまりに常識外れな光景と、エルフの顔芸に、一瞬、森の鳥の囀りすらもドン引きして、ぴたりと止まったのだった!

………。

……。

…。




 誤字報告ありがとうございます。非常に助かります( ;∀;)

また見ていて気になった場合は報告宜しくお願いします!

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