第200話 レプリカの世界。作戦会議 後編
アレックス(発情猿)が放った「アメリカ出身」という衝撃の告白と、それに対するクリステルたちの氷のような蔑みの余緯が広間に漂う中、ルイスは黄金の天板(ニコライの背中)に広げられた地図を指先で叩いた。
「驚きはここまでだ。問題は、あの『レプリカの北海道』をどう攻略するかだ。……あそこには、人間(賊)の姿は一切なかった。代わりに、未知の数と性能を誇る魔導兵器が街中に配置されている」
その言葉に、これまで静かに戦況を分析していたミランダが、騎士団長としての峻烈なオーラを纏って身を乗り出した。
「ルイス君。相手が血の通わぬ機械であれば、話はより厄介だね。恐怖による瓦解もなければ、疲労による隙も生まれない。無機質な演算に基づいて、冷徹にこちらの急所を突いてくるだろう。通常の城塞攻略とは根本的にルールが異なるよ。遮蔽物となる『びる』の高さ、死角の多さ……。未知の兵器が網の目のように配置されているなら、正面突破は愚策だ」
「……確かに。路地裏からの狙撃や、頭上からの奇襲が当たり前の戦場になるッス」
リズが愛用の長槍を傍らに置き、真剣な眼差しで地図を覗き込む。
「でも、ルイス様。私、負けたくないッス。初期化されたこの体でも、あの偽物の街でルイス様の盾になって、槍を振るってみせるッス!」
「……ノエルも、お姉ちゃんと一緒に行くよぉ。怖いけど……ルイス様がくれたこの魔力で、精霊さんたちにお願いして、街の中に隠れてる鉄の塊たちを見つけ出してみせるっ……!」
震えながらも、ノエルが健気に杖を握りしめる。彼女の再契約した土の精霊が、地下深くやビルの壁面を伝う微かな機械振動を感知するセンサーの役割を果たすはずだ。
すると、広間の入り口付近で腕を組んでいたフィリシアが、静かに口を開いた。
「……兵力の分散と、急所の特定が基本でしょうね。ルイス様、あの街には『地下鉄』という網目のような通路が存在すると仰いました。ならば、地上と地下の両面から同時に圧力をかけ、制御システムを混乱させる必要があります」
フィリシアの冷静な指摘に、ルイスは頷き、各員の配属を読み上げ始めた。
「第一隊は地上陽動・正面突破班。ミランダ、リズ、リナ、ノエル、そしてスルト。お前たちはメインストリートから堂々と進軍し、魔導兵器のターゲットを正面に固定してくれ」
「我の拳に砕けぬ鉄などないのじゃ! その『びる』ごと粉砕してやるのじゃ!」
スルトが小さな拳を握り締め、不敵に笑う。
「第二隊は後方支援・迎撃砲台班。クリステル、エアロ、フレア、ケアル、ノエル、コタース。地上班の後方から、鉄の群れを殲滅しろ」
「承知いたしました、ルイス様。皆様の盾となり、傷一つ付けさせはいたしません」
クリステルが慈愛の笑みを浮かべるが、その瞳の奥にはアレックスへの蔑みの残火がまだ消えていない。
「……ん。お父さんの邪魔するゴミ、全部焼く……です」
フレアが杖を引きずりながら虚ろな瞳で呟き、ケアルが「もうっ、アンタはやりすぎないようにしなさいよ!」とツッコミを入れつつ、回復魔法の準備を始める。
「あらあら~っ。逃げる機械は、私の風で細切れにしてあげますね~っ」
エアロがふわりと浮き上がり、殲滅魔法の構築を始めた。
「第三隊は隠密・バイパス班。仁、ペルシア、チェルシー、そしてシュー。地下通路を通って敵の心臓部へ潜入し、動力源を断て。第四隊は遊撃・空中制圧班。クローディアとバハム。上空から敵の増援を遮断しろ」
「余のブレスで、偽りの夜景ごと塵にしてやろう」
バハムが傲岸に言い放つ。
「そして最終第五隊、中枢突入班。俺とヒナル、カーミラ、メロディ、ミランダ、フィリシア……そしてユミカだ。お前の知識で、街の『バグ』を暴くんだ」
「……分かったわ。ヒナルを、みんなを助けるためなら、私の知識、全部使って」
ユミカが覚悟を決めた表情で頷く。
「……いい返事だ。カナ、リサ。お前らはヴォルグの監視下で、後方への物資搬送だ。死にたくなければ、必死に働け」
「「ひ、はいぃぃぃっ!!」」
「待ってくださいルイス様ぁぁっ!! 私の役割は!? 私はどこで踏み台にぃぃっ!!」
ニコライが叫ぶ。
「お前は囮だ。金粉を撒き散らしながら敵の真ん中で踊れ。アレックス、お前は案山子としてニコライの頭の上に刺さってろ」
「ゼッタイヤダァァッ!! ニューヨークノ誇リガァァァッ!!」
「……黙れ、発情猿。……ん。……おにぃ、完璧。……作戦、開始……?」
メロディがルイスの頬に自分の頬を寄せ、眠たげながらも確かな闘志を宿した瞳で見上げる。ルイスは立ち上がり、全員の顔を見渡した。
「決まりだ。明日、共に偽物の北海道を更地にする。……明日直ぐに準備にかかるぞ!」
「「「おーっ!!!」」」
十八名のヒロインと仲間たちの咆哮が、屋敷を激しく揺らした。




