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1 追放された理由…。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 「お前はクビだ。……ただの足手まといなんだよ、無能」


 冷徹に響いた勇者の声が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。 薄暗いギルドの片隅で、俺は軋む木椅子に深く沈み込み、ため息とともに肺に残っていた絶望の残滓を吐き出した。


「……災難でしたね、ルイスさん」


 カウンター越しに同情の眼差しを向けてくるのは、ハイエルフの受付嬢サラだ。彼女の尖った長い耳が、心なしか悲しげに垂れ下がっている。


「はは、まあな。……でも、生きて帰れただけでも良しとするよ」 それは半分本音で、半分強がりだった。


 二年間、魔王討伐のために人生を捧げてきた勇者パーティーからの追放劇。それも、大量のホブゴブリンが押し寄せるダンジョンの最深部で『置き去り』にされるという、処刑に近い宣告だった。


「ひどすぎます。いくらなんでも、あんな……」


「仕方ないさ。俺には、戦う力がないから」


 俺は自分の両手を見つめる。 この世界では、誰もが神からジョブとスキルを与えられる。俺のジョブ適正は『星6』という規格外の数値を示しているのに、何のジョブなのかも分からず、スキルは一切使えない。心の中に堅牢な鍵のかかった扉があるような、もどかしい欠落感だけを抱えて生きてきた。


 それでも、俺には信じられる絆があった。 異世界から召喚された『迷人』にして唯一無二の勇者、アレックス。そして、彼と共に旅をする俺の幼馴染たち――双子のシューとエアロ、そして俺にとって姉であり、最愛の女性でもあるクリステル。


『魔王を倒したら……私とルイス、二人で一緒に暮らしましょう』


 出発の夜、月明かりの下でクリステルが頬を染めて言ってくれた言葉。それが、スキルなしと嘲笑される俺の、唯一の誇りであり、生きる理由だった。追放される時、彼女たちは俯いて震えていた。きっと、勇者の絶対的な権限に逆らえなかっただけなのだ。


「……ルイスさん」 サラが何かを言い淀むように目を伏せたが、俺はその不自然さに気づかないふりをして、ギルドを後にした。


 外に出ると、空はすでに死んだ血のような赤紫色に染まっていた。 鳥のさえずりは消え、代わりに夜の訪れを告げる冷たい風が頬を刺す。


(少し遠回りになるが……裏道から帰るか。今は誰の目にも触れたくない)


 未知の魔物が増えている近年の森は危険だが、今の俺はただ静かな場所で、クリステルとの約束だけを抱きしめていたかった。


だが、森の奥へと進むにつれ、生暖かい湿気と共に、奇妙な音が耳に届き始めた。


「んっ……あぁっ……!」


「もっと……勇者様……もっとぉ……!」


それは、魔物の声ではなかった。 快楽と熱情に溶け切った、女たちの嬌声。


 俺の足が、ピタリと止まる。心臓が警鐘を鳴らす。引き返せ、と本能が叫んでいる。だが、その声の主たちに、聞き覚えがありすぎた。


 薄暗い木立の隙間を抜け、少し開けた場所。 夕闇と月光が交じり合うその空間で、俺は「それ」を見てしまった。


「ああっ、クリステル……君は最高だ……!」


「はいっ、アレックス様……! ああっ、私……もうルイスなんて、どうでもいいですわ……!」


 視界が、ぐにゃりと歪んだ。 勇者アレックス。彼が、俺の婚約者であるクリステルを、獣のように蹂躙していた。 それだけではない。その傍らには、双子のシューとエアロも下着すら身に着けず、熱っぽい瞳で自分たちの順番を待ち望んでいた。


「あはは! 姉さん、大胆すぎ! でもルイスの兄貴、ホント邪魔だったもんねー」


「そうそう! スキルも使えない無能だし、勇者様と比べたらゴミみたいな男だったよねぇ」


クスクスと、愛らしかった双子の声が、呪詛のように俺の鼓膜を汚していく。 追放の際に見せた彼女たちの涙は、演技だったのか。 俺を死地に置き去りにすることに、彼女たちは最初から、喜んで賛成していたのだ。


――何が、一緒に暮らそう、だ。


 嘘だ。全部、嘘だった。 神聖なる聖女のジョブを持つクリステルが、娼婦のような顔で勇者の名を呼び、俺を嘲笑っている。


『バキッ』


絶望に足が震え、枯れ枝を踏み抜いた。 乾いた音が、森の静寂に響き渡る。


「……ん? 誰だ。僕と彼女たちの聖なる営みを邪魔するゴミは」


アレックスが、冷え切った碧眼をこちらに向けた。


「きゃっ……勇者様、もしかしてルイスだったりして?」


「あはは! のぞきとかキモすぎ! ストーカーじゃん!」


 彼女たちの嘲笑が、刃となって俺の心臓をズタズタに切り裂く。 もはや、そこに愛した幼馴染たちの面影はなかった。勇者の力と魅力に溺れ、堕落しきった肉人形があるだけだった。


「……あ、あぁ……」


 声にならない呻きを上げながら、俺は後ずさり、足元の暗闇――かつて猟師が掘った深い落とし穴へと、自ら身を投げた。


 泥と腐葉土の匂い。圧倒的な暗闇。 頭上から聞こえる彼女たちの下劣な笑い声と、再び始まった淫靡な水音が、穴の底まで降り注いでくる。


 裏切られた。すべてを失った。 俺の愛した世界は、この泥底よりも遥かに汚泥にまみれていたのだ。


(ああ……)


暗闇の底で、俺の何かが、完全に死んだ。 そして、その絶望の底で――俺の中に眠っていた『鍵のかかった扉』に、ピシリとひびが入る音がした。

 

 

はじめましての投稿です。いかんせん、僕は小説自体初めてになります…。。。

お手柔らかに宜しくお願い致します!

次の更新は未定ですが、早かれ遅かれ投稿させていただきます!


2024/3/22

訂正。


シューのジョブに誤りありました。戦士から魔術師に変えました。

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