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第194話 ギルドでの気になる依頼と、久しぶりの顔ぶれ


 あれから、数日が経過した。俺は一人、メルドアの街へとやってきた。相変わらずメルドアの街は今日も、穏やかな朝の光が差し込んでいた。


 俺は、馴染みの冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けた。  ギィィィ……。  朝から依頼を求める冒険者たちの熱気と、安酒と鉄錆の匂い。懐かしい空気だ。  かつて「無能」と蔑まれ、アレックスの荷物持ちとして床を這いずり回っていた頃、この場所は俺にとって針のむしろだった。だが、今は違う。


「――よう、ルイス! 久しぶりじゃねぇか!」


 ギルドの中央、大テーブルで酒を煽っていた大男が立ち上がった。  岩のような筋肉に、背中に背負った巨大な長剣。  かつて俺を「万年荷物持ち」と呼び捨てにしていた男、ガッシュだ。


「ガッシュか。相変わらず声がデカいな」


「ガハハ! そりゃ俺の数少ない取り柄だからな! ……ったく、見違えたぜ。今じゃエルドアスどころか、アスガルドを救った英雄様だっていうじゃねぇか」


 ガッシュは歩み寄ると、親愛の情を込めて俺の肩をバシバシと叩いた。  彼とは、俺が本来の「勇者」の力が回復しつつある時、メルドアを襲ったオーガを倒したあの日、過去の非礼を謝罪された仲だ。その時彼が「詫び」として差し出してきた、当時の彼にとって全財産に等しい『ミスリルソード』。  あの剣がなければ、今の俺はここにいなかったかもしれない。何度も窮地を救われた、ヒナルが緑骨団に拐われた時やデスフラッグ戦等……俺には、とっても思い出深い武器の一つだ。


「ルイスさん! お会いしたかったです!」


 ガッシュの影から、身軽な装備に弓を背負った好青年が顔を出した  ティムだ。彼は同じくメルドアがオーガの大群に襲われた際、オーガに左腕を引き裂かれるという凄惨な重傷を負った。  噴き出す鮮血と絶望の中、駆けつけた俺がオーガを一掃し、すぐさま回復魔法でその腕の傷を癒し、救ったのだ。


「ティムも元気そうだな。引き裂かれた腕の調子はどうだ?」


「おかげさまで、指先までしっかり動きます! あの時、ルイスさんに助けられなきゃ、僕は今頃片腕のまま野垂れ死んでいました。……本当に、僕の命の恩人です」


 ティムは左腕を力強く振って見せ、心からの感謝を瞳に宿した。


「よせよ。俺の方こそ、ガッシュのくれた剣には助けられてる。……今はもう、大事に手入れして飾ってあるぜ」


「……ケッ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」


 ガッシュは照れ隠しに顔を背けたが、その口元は緩みっぱなしだ。  三人は空いている席に腰を下ろすと、自然と会話が弾み始めた。


「で、どうなんだよルイス? 噂じゃ、アスガルドで魔族を滅ぼそうとした女神アーテーやセトリア軍だったっけ?その軍勢を、魔王と一緒にぶっ飛ばしたって聞いたが……マジなのか?」


「ああ、アーテーの野郎……いや、女神はとんでもねぇ化け物だったがな。魔王ハロルドと背中を預け合って、なんとか退けたよ」


「魔王と共闘して神を討つか……。格が違いすぎるぜ、お前。流石本物の勇者様だぜ……。偽物だったアレックスとは大違いだ!」


 ティムが呆れたように笑う。


「でも、メルドアの住民はみんな自慢してますよ。自分たちの街から、世界を救う『真の勇者』が出たんだって。アレックスとは違いますね」


「ああ。アイツは今も変わんないよ」


 俺は苦笑いをする。昨日も、カーミラ達と夜のハッスルしてたら、また覗きやがって。俺に恨みでもあるのか?やつは。


「え?アレックスって死んだんじゃなかったんか?」


「あー……、死んではいるけどな……。やつは今は幽霊で俺達のサンドバッグになってるよ」


「………はい?」


「あいつ、死にきれなくて成仏できなくてな?呪いのアイテムか知らないけど、幽体なのに飲み込んで呪われて、一生成仏できない体になっちまったんさ」


 ガッシュもティムも目を真ん丸にさせて驚く。


「おいおい……。んで、ルイスんとこの嫁達のサンドバッグになってるってわけか。これじゃー、どっちがサンドバッグかわかんねぇなあ……」


 かつて俺を「無能」と石を投げた者たちも、今は俺の活躍を酒の肴にして笑っている。  皮肉なものだが、悪い気はしない。これが、平和を勝ち取ったという実感だった。


「ところでよ?ルイス、お前……これからどうするんだ? もう冒険者ランクなんて関係ねぇレベルだろうが」


 ガッシュの問いに、ルイスは窓の外に広がる青空を見上げた。


「……そうだな。まずは溜まってる用事を片付けてからだ。……実は今日ギルドに来たのも、ちょっと気になる依頼ホシがあってな」


「ガハハ! ルイス、お前がギルドの依頼を受けるなんて、他の冒険者の仕事がなくなっちまうぜ!」


 ガッシュが豪快に笑い、ティムと三人で昔話に花を咲かせていた、その時だった。  ギルドの重厚な観音開きの扉が、勢いよく蹴り開けられた。


「ルイス様ぁぁぁ!! 来てましたのね!?」


「ちょっとカーミラ、ずるいよ! あたしが先に見つけるはずだったのに!」


「……ん。おにぃ……発見」


 現れたのは、ギルド内が瞬時に静まり返るほどの美貌と、圧倒的な威圧感を放つ三人娘だった。  金髪ロールの吸血鬼、爆乳の魔銃使い、そして巨大な大剣を背負った銀髪の幼女。  その姿を見た瞬間、ガッシュとティムの顔が引きつった。


「お、おい……嘘だろ? 今ギルドで最も『関わっちゃいけねぇ』と言われてる新人Aランクパーティ……『鮮血の薔薇ブラッディ・ローズ』の三人じゃねぇか!」


 ガッシュが椅子をガタつかせて立ち上がる。


「ええ……。新人なのに、誰も勝てなかったSランク級の依頼を昨日も一つ片付けてきたって噂の……。実力は完全にSランクのバケモノ連中ですよ……!」


 ティムが喉を鳴らして後ずさった。  そんな周囲の戦慄を余所に、三人は一直線にルイスの元へと駆け寄る。


「ルイス様ぁ! 起きたら隣にいらっしゃらないなんて、わたくし寂しくて死んでしまうかと思いましたわ!」


 吸血鬼の真祖、カーミラがルイスの左腕に抱きつき、その平坦な(しかし気高い)胸を押し当てる。


「あたしも! あたしもルイス君の匂いがないと元気出ないんだから! ねぇ、昨日の続き、今ここでしちゃう?ウズウズしちゃって!アレックスのくそったれに邪魔されたから…」


 魔銃使いリナが、溢れんばかりの爆乳をルイスの右腕にこれでもかと密着させ、耳元で妖艶に囁いた。


「……ん。おにぃ……。充電……必要。あのゴミ箱……むかつく」


 重力使いのメロディが、ルイスの膝の上にピョンと飛び乗り、コアラのようにしがみついて離れない。


「……は、はぁぁ!!??」


 ガッシュとティムの絶叫がハモった。


「お、おいルイス! なんだこの状況は! なんでこの『期待の超新星』たちが、なんでお前にデレデレなんだよ!?」


「ま、まさか、知り合い……なんですか?」


 ルイスは苦笑しながら、三人の頭を順番に撫でた。


「ああ。……紹介するよ。俺の――」


「「「ルイス様(君・おにぃ)の『嫁』ですわ(だよ・……ん)!!」」」


「ちょ!!お前達なぁ…」


 三人が同時に、誇らしげに言い放った。  ギルド全体に衝撃が走る。冒険者たちが飲んでいた酒を吹き出し、依頼板を見ていた者たちが腰を抜かした。


「よ、嫁ぇぇぇッ!? あの無愛想で凶暴なカーミラ様が!? 男をハチの巣にするのが趣味のリナ様が!? あの『歩く災害』メロディちゃんが!?」


 ガッシュが驚愕で顎を外さんばかりにしていると、カーミラが高飛車にフンと鼻を鳴らした。


「失礼な。わたくしたちがルイス様を愛するのは、必然なんですのよ。……キミたち、知っているかしら? わたくしが故郷を焼かれ、たった一人で絶望の淵にいた時……この手を取ってくれたのが、ルイス様だったんですのよ」


 カーミラの瞳に、かつての悲劇と、それを救った光への思慕が宿る。


「『君は、こんな場所で朽ちていいものじゃない。一緒にこないか?』。……そう言って、わたくしに生きる力を、戦う術を教えてくださった。ルイス様こそが、わたくしの世界の全てですわ」


「あたしもだよ!」


 リナが、いつもより真剣な、しかし情熱的な瞳で語り継ぐ。


「戦闘奴隷として捨てられて、自分の爆発魔法も制御できなくて、路地裏で死ぬのを待ってたあたしに、『君の力は、誰かを守るためのものだ』って笑いかけてくれたのがルイス君だった。……何万発も魔法銃の練習に付き合ってくれて、あたしの手を握り続けてくれた。……あたしの心も、身体も、全部ルイス君のものなんだよ!」


「……ん。私も」


 メロディが、ルイスの胸に顔を埋めながらポツリと言った。


「……呪われた子。……重力。……みんな、怖がった。……おにぃだけ、撫でてくれた。……重い大剣、くれた。……支えてくれた。……大好き」


 三人の言葉には、単なる恋愛感情を超えた、魂のレベルでの救済と献身が込められていた。  かつて「無能」と呼ばれ、泥をすすりながらも、ルイスは裏でこれほどの少女たちの運命を変え、救い続けていたのだ。


「……ルイス。お前って奴は……」


 ガッシュが、感極まったように目頭を熱くした。


「俺たちが『荷物持ち』なんてバカにしてたあの頃の自分の顔を殴ってやりたいぜ!というのか、お前は自分より辛い奴らを助けてたんだな。……本当、器が違いすぎるぜ……」


「ルイスさん……僕、もう一生あなたについていきます!」


 ティムもまた、自慢の恩人の凄さを再認識し、目を輝かせた。  ルイスは照れくさそうに頭を掻き、甘えてくる嫁たちを引き連れて、ギルドの奥へと歩き出す。


「というわけだ。つか、カーミラ達も、一緒に遺跡調査するか?」


「わたくし、ルイス様の前で最高のパフォーマンスを見せますわ!」


「あたしも、悪い奴らをハチの巣にしてあげる!」


「……ん。おにぃ……見てて。……くるくる、どーん」


 メロディが小さな手で、身の丈を超える黒鉄の大剣を軽々と回して見せると、その風圧だけでギルドの掲示板が激しく揺れた。


「……ま、待て待てルイス! 脳が追いつかねぇ!」


 ガッシュが頭を抱えながら、必死にルイスへと詰め寄る。


「このお嬢さんたちが惚れてるのは分かった。だがよ、お前と一緒に旅をしていたヒナルちゃんはどうした!? それに、アレックスに魅了チャームされて、お前が命がけで助け出したクリステル様やシュー、エアロ……あのウサ耳の可愛いコタースたちはどうしたんだよ!?」


 ティムも身を乗り出して尋ねる。


「まさか、彼女たちを差し置いて新しく……なんて言いませんよね?」


 ルイスは苦笑し、当然のように答えた。


「ああ。ヒナルもクリステルたちも、今は俺の屋敷で一緒に暮らしてるよ。みんな俺の大切な家族で――俺の女だ」


「「……はぁぁぁッ!!?」」


 二人の絶叫が再びギルドを震わせる。その衝撃が冷めやらぬうちに、リナがいたずらっぽく笑ってさらなる爆弾を投下した。


「あはは! ガッシュさんたち、驚きすぎだよ! ルイス君の嫁は、今ここにいる三人だけじゃないんだから。他にも数えきれないくらい、たーくさん嫁がいるんだよ?」


「リナ、余計なことを言うな……」


「隠したって無駄だよぉ。だって毎日、夜になるとあんなに激しく『愛の営み』をしてるじゃない! 最近なんて人数が増えすぎて、ベッドが軋む音が屋敷中に響いてるんだから!」


「ちょっ、リナ! なんてしたした(はしたない)ことを!」


 カーミラが頬を染めて抗議する。


「……ですが、間違いではありませんわね。……ただ、最近はあの『ゴミ箱の幽霊』のせいで、わたくしたちの至福の時間が邪魔されてばかりですわ。昨夜も覗きに来たので、わたくしの吸血魔法で干からびさせてやりましたわ!」


「……ん。アレックス……邪魔。……『ギ・グラビティ』で……ペシャンコ。……また、おにぃと、寝る。……邪魔する奴、許さない」


 メロディの周囲に、凄まじい重力波が渦巻く。ガッシュとティムは「あ、アレックス……その神経やばくねぇか…?よく死なねぇな……いや、死んでるのか……」と、別の意味で戦慄していた。


「……コホン。まあ、痴話喧嘩の話はこれくらいにして、仕事の話だ」


 ルイスは強引に話を戻し、ギルドのカウンターに置かれた古い羊皮紙をガッシュたちに見せた。


「今回受けるのは、北の果てにある『悠久の忘却遺跡』の調査だ」


 ガッシュが眉をひそめて依頼書を覗き込む。


「あの古代遺跡か? あそこは魔物のランクも高いし、トラップだらけで誰も寄り付かない場所のはずだが……」


「ああ。だが最近、あそこで『不思議なアイテム』が発見されたっていう報告があってな。噂じゃ、この世界の文明とは明らかに違う……俺たちの故郷(日本)から転移してきたような道具が見つかっているらしい」


 その言葉に、リサやカナたちの顔も真剣なものに変わる。


「それだけじゃない。ここ数日前に、俺達が壊滅させた『緑骨団』……あの連中に武器や物資を横流ししていた黒幕が、その遺跡を拠点に動いているっていう情報がある。異世界の技術を悪用して、また何か良からぬことを企んでいるのかもしれないんだ」


「なるほどな……。神を討ち、魔王を救ったお前の次なる標的は、その黒幕ってわけか」


 ガッシュが長剣の柄を握り、ニヤリと笑った。


「よし! 俺たちも微力ながら手伝わせろ! 英雄の戦いを、この目に焼き付けてやりてぇからな!」


「僕も、今の僕の弓がどこまで通用するか試したいです!」


「助かるよ。……よし、みんな! 準備はいいか?」


 ルイスの呼びかけに、三人の嫁たちが武器を構え、力強く頷く。  勇者一行は、古代の眠る遺跡へと、準備を始めるのであった…。

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