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第193話 アレックス、今度はルイスをぶちギレさせる。


 宴の熱気も冷めやらぬ深夜。ルイス邸から少し離れた場所に建てられた、賓客用の離れ。

 その窓からは、漏れ出るような甘い吐息と、激しく軋むベッドの音が微かに響いていたことだろう。魔王ハロルドと愛人ティーンが、ここでの初めての宿泊に対して、観光気分で積もる話(物理)に花を咲かせているのは想像に難くない。

 旅行という名目の二人の夜だ。きっと向こうは、純愛と情熱が織りなす、ロマンチックな時間を過ごしているはずだ。 


 ――だが。


 本館にある、この屋敷の主――ルイス・ガーランドの寝室は、そんな生易しいものではなかった。

 そこは、愛と欲望と、マンドラゴラの成分が渦巻く、もはや「酒池肉林の最終決戦場」と化していた。

 キングサイズのベッドの上で、俺は四人の美女に埋もれていた。

 視界を埋め尽くすのは、乱れた浴衣から覗く白い肌、弾む果実、そして熱情に潤んだ瞳、瞳、瞳。


「……っく、お前ら……今日は一段と激しいな……!」


 俺の身体の上で、四人が入り乱れて波状攻撃を仕掛けてくる。

 最初に俺の腰を跨ぎ、その豊満な双丘をこれでもかと俺の顔に押し付けてきたのは、聖女クリステルだった。


「んっ、はぁっ……♡ 当然でしょぉ? 今日は特別な夜だもの……ルイスのイチモツも、いつにも増してギンギンじゃないのぉ♡」


 クリステルが妖艶な笑みを浮かべ、俺と繋がった部分をねっとりと締め付ける。彼女の慈愛に満ちた(そして性欲に満ちた)瞳が、俺を見下ろす。


「あぁん!ふふふ、マンドラゴラの料理は凄いでしょ?ルイス…♡」


 彼女は俺の耳元で、甘くとろけるような声で囁いた。


「私が丹精込めて『美味しくなーれ(精力絶倫になーれ)』って悲鳴を上げさせた甲斐があったわぁ♡ ほら、脈動が止まらないじゃない……貴方の精気、全部私が搾り取ってあげる…♡ 聖女の『ご奉仕』、たっぷりと味わってね?」


「ず、ずるいぞ!クリステル!! 独り占めは禁止だ! 次、ボクの番! 交代交代!」


 横から割り込んできたのは、元気印のボクっ娘獣人、シューだ。

 彼女はクリステルと体勢を入れ替えるようにして俺の上に跨ると、野生の本能丸出しで激しく腰を上下させ始めた。だが、俺も負けてはいない。勇者のスタミナと腰使いで、激しく突き上げる。


「ひゃうっ!? す、すっご!? 兄貴のナニ、さっきよりデカくなってない!? んあっ、はげしっ、激しいよぉっ! ちょ、まっ、ペース早すぎだってばぁ!ボクが兄貴に処女を上げた時もこうだったよね!!ひゃんっ!!」


 シューが白目を剥きかけながら絶叫する。


「うわああああっ!兄貴、腰ふらすぎぃぃいいい!ボク、壊れちゃうよぉおおおっ! んほォッ♡ そんな奥まで来たら、ボクのアタマ真っ白になっちゃうぅぅぅっ!! 弓引けなくなっちゃうよぉぉっ!」


 シューが快楽の荒波に揉まれているその横で、魔法で自身の感度を極限まで上げて待機していたエアロが、俺の無意識の手の動きに過剰反応した。

 俺の指先が、彼女の太ももの内側、一番デリケートな秘所を掠めたのだ。


「ひゃあぁっ!? あっ、やっ、そこは……! お兄様っ!! そこ、駄目ですぅ!一番敏感なんですぅ!!」


 エアロが身をよじり、涙目で懇願(という名の誘惑)をしてくる。


「わざとですね!? 私の弱点を知り尽くした愛撫……んくぅっ、ずるいですわぁっ~! そんなことされたら、私だって……んあっ、んあっ、魔法が暴走してしまいますぅぅっ♡ 風がっ、風が吹き荒れちゃいますぅ~っ!」


 エアロの身体からピンク色の風の魔力が溢れ出し、部屋のカーテンを揺らし、空気をさらに淫靡なものに変えていく。

 三人の幼馴染みによる連携攻撃。かつて俺を裏切った贖罪と、それを上書きするほどの愛が、物理的な快楽となって俺を襲う。


「ははっ、みんな最高だよ……! だが、俺もまだまだ負けてられないっ!」


 俺が腰を跳ね上げ、さらなる反撃に転じようとしたその時。

 それまで三人の攻防をじっと、暗い炎を宿した瞳で見つめていた、最強の刺客が動いた。


「……だめ」


 俺の視界が、一瞬にして艶やかな黒髪で覆われた。

 他の三人を強引にかき分け、俺の真上に陣取り、その双眸で俺を射抜いたのは、最愛の妹にしてパートナー、ヒナルだった。


「お兄ちゃんは……私のモノだよ? 他の女の匂いなんて……させない」


 普段の天使のような笑顔はそのままに、その瞳の奥には、底なしの独占欲と、兄への狂おしいほどの愛が渦巻いていた。

 彼女は俺のモノを自身の濡れそぼった秘所に迎え入れると、他の誰よりも深く、激しく、そして愛おしそうに腰を振った。


「んっ……ああっ、お兄ちゃんっ……! んくっ、深いっ、お兄ちゃんの全部が、私の中に入ってくるぅっ♡ あぁっ、すごい、すごいよお兄ちゃん……私、溶けちゃう……♡」


 ヒナルは荒い息を吐きながら、俺の首筋に甘噛みし、耳元で甘く危険な囁きを落とす。俺の限界が近いことを悟った彼女は、必死の形相でしがみついてきた。


「はぁ…はぁ…だめっ!お兄ちゃん……最初は私に出して!ううん…全部私に出して!クリステルさん達にはあげないよっ!」


 ヒナルの言葉に、他の三人も色めき立つ。


「ちょ、ヒナルちゃん!? それは抜け駆けよ! 私だってルイス様の子供が欲しいんですから!」


 クリステルが豊満な胸を揺らして抗議し、俺の左腕にしがみつく。


「そうだぞ! ボクだって兄貴の赤ちゃん欲しいもん! 兄貴の遺伝子最強なんだから!」

 シューも負けじと、後ろから俺の右腕にしがみつく。


「お兄様……私の中に、たーっぷりと愛の魔力を注いでください~……! お兄様に初を上げたあの夜……。あの日、妊娠したら駄目だといって中にいれてくれなかったのは、正直、怒っているんですよ!!だからあれからお兄様に中に出される度に風の魔法で子宮まで届けてますよ~っ♡」


 エアロも反対側から俺の首に吸い付く。

 だが、今のヒナルは止まらない。

 ヤンデレ全開の彼女は、他のヒロインたちを牽制しながら、俺の理性と体力を根こそぎ奪い去る勢いで攻め立てる。その動きは、まさに『聖女』の名を捨てた『雌』の動きだった。


「だーめ♡ お兄ちゃんの雄ミルクは私だもん! ね? お兄ちゃん……私の中で、いっぱいイって……? お兄ちゃんの赤ちゃんは、私が一番最初に産むの……絶対、絶対なんだからぁっ♡ 私のナカを、お兄ちゃんでいっぱいにしてぇぇぇっ♡♡♡」


「くっ、お前ら……! 同時に攻めるな……! 分かった、分かったから……全員、覚悟しろよッ!!」


 四方向からの甘い懇願と、極上の快楽の波状攻撃。

 英雄であり、魔王をも凌駕する最強の男ルイス・ガーランドも、この愛の重力の前には、ただただ幸福な悲鳴を上げることしかできなかった。

 ハロルドよ。お前の方も盛り上がっているかもしれないが、こちらの「戦場」は、どうやら朝まで休戦協定が結ばれることはなさそうだ――。

 勇者の部屋からは、この世で最も幸せで、最も騒がしい愛の交響曲シンフォニーが、夜明けまで鳴り響くのだった。だがしかし…。



………。

……。

…。




濃厚な愛欲の嵐が吹き荒れるルイスの寝室。  事後の余韻に浸り、ヒロインたちの甘い吐息が重なり合う神聖な空間に、そのドス黒い邪念は再び這い寄ってきた。  ガタガタ……。ピチャッ。  窓枠に引っかかった、薄汚れたブリキのゴミ箱の縁から、アレックスの霊体がだらしなく涎を垂らしながら身を乗り出す。


『 ハァ……ハァ……! 見エタ! 見エマシタゾ! ルイス殿ノ逞シイ背中ト、ヒナル殿ノ真っ赤ナ顔! クリステル殿ノ揺レル爆揺乳! コレハ歴史ニ残ル記録おかずデス! 僕ノ脳内ハードディスクガ熱暴走シチャウゥゥッ!!』


 アレックスは興奮のあまり、ゴミ箱を激しく打ち鳴らす。  そして、あろうことか「勇者」としての特権(自称)を掲げ、土足で寝室へと乱入した。


『 ヤァ皆サン! 勇者アレックス、満ヲ持シテ乱入デース! ルイス殿! 僕ニモソノ絶倫テクニック、伝授シテクダサーイ! 後デ僕ガクリステル殿タチヲ……』


 ピキッ。  室内の温度が、一瞬でマイナス百度まで急降下した。  ルイスの背中から立ち上る、黄金の闘気ならぬ「漆黒の殺気」。


「 ……おい。今、なんて言った? 発情猿」


 ルイスが、事後の心地よい疲れを完全に消し飛ばし、地獄の底から響くような声で振り返った。  同時に、ベッドにいた四人のヒロインたちの目が、カッと「捕食者」のそれに変わる。


「 ……ボク、今すっごく機嫌いいはずだったんだ」


 シューが、爆発しそうな怒りを押し殺した声で、自身の弓に魔力を充填する。


「 なのに、なんでテメェの汚ねぇ顔を見なきゃいけないんだよ!? テメェとの過去を思い出してヘドが出るぜ! この歩く生ゴミがぁぁッ!!」


 ドガッ!!  シューの至近距離からの属性矢が、アレックスの股間に突き刺さり爆発する。


『 ギニャァァァァッ!? ソコハ霊体デモ痛イィィッ!!』


「 あらあら~、まだ息があったんですか~っ。お兄様との愛の余韻を汚すなんて、万死に値しますね~っ。ゴミ箱はまた私たちの邪魔をするのですか~っ?」


 エアロが微笑みながら、風の刃でアレックスの全身を細切れにし始める。


「 一生、ゴミ箱の中で刻まれていてください~っ! 『真空千切りマシーン・エアロカスタム』です~っ!!」


『 アガッ、アバババババッ!! 魂ガ、魂ガ刻マレルゥゥッ!!』


「 神よ、この汚物に終わりのない苦痛を……。このゴミ箱が私戦にやってきた罪、私がこの手で叩き直してあげます」


 クリステルが、ベッドの隣にある重厚な大理石のテーブルを持ち上げた。


「 『聖女の慈愛(物理)』フルスイングですッ!! 粉々におなりなさいッ!!」


 ガァァァァァンッッッ!!!  大理石のテーブルがアレックスの頭部で粉砕される。


『 ブベラッ! 頭蓋骨ガ存在シナイハズナノニ、脳揺レガ止マラナイィィッ!!』


「 ……不潔。消えて。気持ち悪い。分子レベルまで分解してあげる」


 ヒナルが冷徹な事務口調で、超高密度の『浄化の光』を至近距離で浴びせる。


「 死んでるからって甘えないで。貴方の存在そのものが、お兄ちゃんに対する冒涜。……消去デリート!」


『 アツゥゥゥイッ! 溶ケル! 僕ノエロ本コレクションガ走馬灯ノ様ニィィッ!!』


 四人の猛攻に、半死半生ならぬ「半消滅」状態となったアレックスが、床に這いつくばる。  そこへ、ルイスがゆっくりと歩み寄り、アレックスの顔面をドカッと踏みつけた。


「 おい、ゴミ箱。……まだ喋れるか?」


 ルイスはアレックスの顔に体重をかけ、グリグリと踏みにじる。


「 テメェが俺から全てを奪って、幼馴染みを寝取って、ドブ泥をすするような思いをさせた時……俺がどんな気持ちだったか、少しは考えたことあんのか?」


『 ア、アイディババッ……(申し訳ございません……)』


「 あ? 聞こえねぇな。……テメェみたいな中身のないクズが、俺の女たちを覗き見して、あまつさえ『混ぜろ』だと? 寝言は地獄の業火に焼かれながら言え、この発情スカト口野郎がッ!!」


 ルイスは、踏みつけているアレックスの腹(ゴミ箱部分)に、容赦なく拳を叩き込む。


「 ほら、どうした!? 勇者なんだろ!? ジョブを奪ってまでなりたかった勇者様が、床で這いつくばって何してんだよ!? テメェの存在価値は、俺たちがストレス解消に殴るためのサンドバッグ以下だ! この卑劣な強姦魔の成れの果てがッ!!」


 ボカッ! ドカッ! グシャッ!!  ルイスの黄金の闘気を纏った一撃一撃が、アレックスの霊体をボロボロに破壊していく。


「 ヒナル! 回復だ! こいつが消える前に回復させろ! まだ殴り足りねぇんだよ!」


「 分かった、お兄ちゃん。……ハイ・ヒール。……さあ、また殴れるようになったよ」


『 ヒ、ヒィィィッ!? 地獄! ココハ地獄デース! 無限ループハヤメテーッ!』


「 うるせぇ! テメェに拒否権なんてねぇんだよ! 一生俺たちの靴の裏でも舐めてろ!」


 ルイスは仕上げに、アレックスを思い切り蹴り飛ばした。


「 ぶっ飛べ! そして二度と、その汚ねぇ面を俺たちの前に見せるなよ! このクソゴミ野郎がぁぁぁッ!!!」


 ドゴォォォォォォォォンッッッ!!!  本日三度目の星。アレックスは夜空の彼方へと、盛大な爆発と共に消えていった。


『 サ、サスガハルイス殿……。罵倒モ、暴行モ、全テガ超一流プロデェェェースッ……!!(恍惚)』


 まぁ、どうせ明日になればニコライとイチャコラしてんだろうがな…。



………。

……。

…。



 一方、庭園の片隅。  ニコライは、背中の上で山積みになった使用済みの皿と、兵士が忘れていった重い兜を乗せたまま、必死にプルプルと震える足を堪えていた。


( ……ア、アレックス殿……。君の断末魔は、私の勇気を奮い立たせてくれる……!)


 彼は完全に「無」の域に達していた。  どんなに重くても、どんなに熱くても、動けばあの「勇者と四聖女(?)による公開処刑」が待っている。


( 私はテーブル……。私は、エルドアス王国で最も高価で、最も重いものに耐えられる、金粉仕上げのサイドテーブルなのだ……!)


 ルイス邸の夜は、アレックスの魂の叫びと、ニコライの筋肉の悲鳴をBGMに、ようやく静寂へと向かうのであった。

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