105 集落とドラゴン
アスガルド城に来て二日目。ちょうど今は、昼時。ヒナルとクローディアとエアロ、そしてスルトの4人と一緒にアスガルド近郊に来ていた。どこか満足そうな顔をしたクローディアが俺達の先頭になって歩く。
「無理言って本当にすいません…」
「いやいや、良いって。気にするなよ?それくらい協力するよ!」
「そうそう!クローディアの為だもん!」
「ふっふっふっ!可愛い従姉妹の頼みなのじゃ!どんと任せるのじゃっ!」
「はいっ!お兄様が好きな未来のもう一人のライバルさんの手伝いくらいどうってことないですっ!!」
俺達は、クローディアの"とある事の手伝い"の為に近郊にいるモンスターを捕らえる手伝いをしていた。クローディアのスキル…。それは動物をテイムするスキルだ。レベルが上がれば、もしかしたらモンスターもテイムできるかもしれないという戦女神アテナからの助言だった。
「でも本当にやるつもりか?もしかしたら明後日になれば偽物がセトリア軍と崇拝教と一緒に攻めてくるかもしれない…。揉め事が終わった後からでも…」
「ううん…。少しでも兄ちゃんやアスガルドを守れる力になりたいし…。それにルイスさんの力になれれば…」
クローディアはうつむき、ニコニコとしているが少し悲しげな表情を俺達に見せてくる。
「はい…。クローディアちゃんの気持ちは凄くわかりますっ…。私もお兄様の力になりたいって今も凄く思っています…。だから、私は応援してたいですっ!」
「そうだね!私達は友達であるし同じ人を好きになった者同士!だから協力したい!お兄ちゃん?いいよね?!」
「うむっ!我も協力するのじゃ!」
「お前達がそう言うなら、俺はそれにしっかり答えるよ…」
クローディアの俺が好きだという告白は真剣そのものだった。彼女の為にも蔑ろにもしたくはない…。それにクローディアの熱意が表情を見ればひしひしと伝わってくる。
「たしか~、魔族の話によれば、ここ最近、アスガルド近郊にレッドドラゴンが出現して、集落を襲ってて被害が出ているとか…。もしかするとクローディアはそれを?」
「はい!実は、黒猫のクロちゃんをテイムしてから、身体能力が上がった感じするんですよ!高くジャンプしたり高い所から着地するのが平気になったというか…。だから、ドラゴンでもテイムできるのか…と、テイムしたら能力をコピーできるか試してみたくて…」
そういえば港町で、ケット・シー族のチェルシー姉妹を救出した時に、クローディアは俺達のペットのクロをテイムして命令を出していたんだっけ…。テイムした対象の能力をコピーしたのか?
本当であれば、アスガルドに戻り魔法学園で適正検査を受ければ直ぐにスキルや特性が分かるんだが…、時間もあまりないからな…。勝利して、平和になったら受けさせてあげたい…。
それから、暫く情報を頼りに、森の中を道なりにまっすぐ歩いて行くと集落付近までやってきた。後、少しで村の入り口に差し掛かろうとしてきた時。聞き慣れた声が聞こえたから、俺達はその声の方向へと振り向いた。
「あぁ、ルイス達ではないか?こんな所でどうしたのだ?」
俺達が歩く方向の横の茂みから、ハロルドさんとその部下がやってきた。
「ハロルドさん!実は…」
ハロルドさんに、ここら辺一帯にドラゴンが現れて住民を襲っている事を伝えた。そしてクローディアのスキルの件も伝える。
「ルイス達もそうだったのか。実は、私達も集落の人からドラゴンの事を聞きつけてきたんだ。これからの戦いに備え、障害になったら嫌だからね…」
「なら、俺達と一緒に探しませんか?」
「兄ちゃん?私もいいよね?」
クローディアは、自分が断られたら嫌だというように少し不安そうな表情でハロルドさんに聞く。
「ああ、問題ないよ?何せ、私とルイスがいるんだからさ?それにルイスの恋人達もいるじゃないか?」
「何かあったらクローディアは守るよ!だから安心して!」
「我もいるから安心するのじゃっ!母上から受け継いだ力もあるからのっ!」
「はいっ!安心してくださいっ!これでも攻撃魔法には自信ありますっ!それにお兄様の能力で更に強化されているから、クローディアちゃんも守りますよっ!」
ヒナル達3人も任せろと言わんばかりにハロルドさんに想いをぶつけて言う。ハロルドさんは、そんなクローディアの友達or恋のライバルを見るなり、微笑みながら優しい表情を見せる。
「それじゃあ、村に入って情報を聞き出そうか…」
………。
……。
…。
「おおっ!!ハロルド様!!あの時は、助けて頂きありがとうございましたっ!」
村に入り、一人の青年がハロルドに頭を下げている。なんでも、つい先日、女神崇拝教に捕まりそうになっていた所を助けたそうだ。
「ところで、後ろの方々はハロルド様のお仲間でしょうか?はて?あれ?そこのチビッ子ちゃんはどこかで…」
魔族の青年は俺達を見ると、物珍しそうに見てそう言う。それから直ぐにスルトを見るなり…。
「まっ!まさかスルト王女様っ!?」
「のじゃっ!!」
スルトは、ついこないだもどこかで見せたようなドヤ顔を魔族の青年にお披露目する。青年はかなり焦っていた…。ちなみに、今の俺は魔族に変装していたから普通の魔族として付き添っている形だ。
「スルト様は生きていらっしゃったのですね!?王様や王妃様は?」
「我の父上は女神崇拝教により殺されてしまったのじゃ…。でも母上は今、エルドアス王国近郊でちゃんといきておるのじゃっ!」
青年は少し、目に涙を浮かべていた…。
「でも良かったです!スルト様も生きていたのは良かった…。ずっと心配していましたよ!?」
「うむっ!ありがとうなのじゃ!」
意外とスルトって、魔族の人達から愛されているんだなぁ~…。
「んっ?ルイスよ?どうしたのじゃ?」
「ううん。何でもないよ?」
スルトは不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込む。俺は、そんなスルトの意外な一面をみれて心が和む。
「ハロルド様?それはそうと、今日はどのような事で?」
「そうそう…。最近、ここら一帯でドラゴンを見たという話を聞いたが、何か情報はあるか?」
「はい…。毎日のように決まって、薄暗くなった時間帯に東の山から大きなドラゴンが攻めてきて、外にいる人を襲いかかってきます。幸い、まだ死んだ人はいないのが幸いですが…」
青年が話をしていると、異空間ストレージが光出して、俺達の目の前に小さい幼女の姿が現れる。その少女、バハムートのバハムはにこにこしながら青年の方を向いて…。
「ほうほう。ドラゴンがのう…。余の出番という訳か…」
「えっ?だ、誰ですか?」
「ルイス?この幼子もルイスの仲間なのか?」
そういえば、ハロルドさんに会わすのは初めてだったか?最近、異空間ストレージの家の中でお菓子を食べては寝るの繰り返しで、ぐーたら生活を満喫していた感じだったからなぁ…。
「ふむ。世は先代魔王アスガルドやユミル王妃の友人であり二人に仕えていた守護竜の娘であるぞ。しかし、アスガルド同様、夢境に囚われておったがな…。教団に化物にされてしまったアスガルドをルイスが打ち倒した後、アスガルドが死んだ時に解放されたのだ…」
「り、竜神!?聞いた事があるぞっ!!」
「うむ。今は、ルイスに仕える守護竜であるぞ」
バハムートのバハムは、無表情だが威厳のある風に見せつけてくる。普通に見た目は幼女だが…。まぁ、生活はあれだけど…。
「ルイス。人の顔をじろじろと何を見ておる?」
「いや、普段食っちゃ寝してるから、おもしろくてさ~」
「ふんっ!世を馬鹿にするでないっ!」
バハムは、顔を真っ赤にして、ぷぃっと横を向く。
「しかし、人を無差別に襲う竜なんぞ、世は聞いた事がない…。何かしらの理由があるのかもしれぬ…」
「そ、そうなの?!てっきり魔物とかと同じだと思っていた!」
「竜と魔物を一緒にするでない…。知識は人と同じくらいあるからのう…。ただ、世とは違い、人の言葉を話せる竜はあまりいないのだ…」
「じゃあ、そのドラゴンを見るまで、何で人を無差別に襲うようになったか原因が分からないって事かぁ…」
バハムの話を聞く限り、理由もなく人を無差別に襲う事はないという…。もしかしたら、またドラゴンも誰かに操られている可能性もあるという事か…?
「先ずは夕方近くになるまで待ってみようか?ハロルドさんもそれでいいです?」
「ああ!アスガルドの防衛準備は順調だし、問題はないぞ」
………。
……。
…。
俺達は、異空間ストレージの中に入る。そこで夕方までの間、休憩する事にした…。ハロルドさんも、異空間ストレージの中に入ると目を丸くさせながら驚いていた。そりゃそうだ…。ここを初めて見た人は先ずは目を丸くさせてびっくりするからなぁ…。
「凄いなぁ…。こんな便利なアイテムがあるとは…」
「兄ちゃん?まだまだ驚いたらダメだよー」
クローディアはヒナルと一緒にお昼ご飯の用意をする。昨日、ミランダやフィリシアが作ってくれた作り置きだ。たくさん、肉の角煮が入った濃茶色のとろっとした液体のようスープみたいなのが添えられている。
「クローディア?これは?」
「兄ちゃんも食べたらびっくりするよ?なんでも、ルイスさんとヒナルちゃんの故郷の食事らしいよ~っ!」
「そうなのか?」
「ん~…、実は俺達には深い理由がありまして…」
なんでも、このビーフシチューの元はとある迷人がレシピを考えてくれて、固形状の素が市場で販売している。それを知ったヒナルは、作り方を知っていたからか全員に手料理を振る舞った事からビーフシチューが流行りだした。
ビーフシチューという食べ物が作られた場所こそ、俺が居たとされる地球とい呼ばれた異世界。そこから俺達はやって来た迷い人だった事をハロルドさんに話す。実の妹であるヒナルとも、偶然にもたまたまお互い出会えたという事も伝えた。
「ルイスやヒナルが迷い人だったとはな…。たしかに、その昔、アスガルドに居た魔術師が異世界から召喚させる事に成功したと言われていたらしくてな?ただ、今の権限は全て女神崇拝教に管理されてしまっているがな…」
「やっぱりそうなんですね…。たしか、そこからの話は、女神が暇潰しだけのために人間を争わせたり、あらゆる種族の中で一番魔力の高いソロモン族を追害しようとした…。なんていうか、酷すぎる話です…」
「うむ!奴らは人間ではない…。奴らこそ魔族なのじゃ…」
「私も許せない…。スルトやクローディアだって、見た目は違ったりするけど同じ人間。同じ料理をこうしてお互い笑いながら食べるし、それに泣きたい時は涙も流すし…、それに、お互い同じ人を好きにだってなる…。それのどこが違うのかな…」
ヒナルはテーブルに置いていた自分の拳をぷるぷると小刻みに震えさせる。今の言葉を強く思っているのか、拳に相当な力が入っているのが分かる…。
そんな時だった。鞄の中に入れてあった共鳴石が静かな振動をお越す。誰かからの連絡なのだろうか?俺は鞄から共鳴石を取り出し、テーブルの上に置いた。
『あら?ルイスいるの?いたら返事してくれる?』
あれ?誰だろうか?でもよく聞き慣れた声だ…。共鳴石を伝い、頭の中で聞き慣れた声が聞こえてくる。
『母さんね?たまには、貴方達の声を聞かないと物凄く寂しいんだから…!まっ、まさか他の女の子達とスケベな事してるわけじゃないだろうね?もしかするとスルトもスケベ中?』
「ああっ!母さん!何言ってるんだよ!そんな事してないぞ?」
「おおおっ!母上!!残念なのじゃが…。スルトはのう…」
『やっぱりルイスが遂に手を出したのね?!』
「ち、違うわーーっ!!」
俺達の様子を見て、笑いこらえていたハロルドさんが口を開く。
「その声はユミルおばさんですね?」
『あら?貴方は?ルイスのお友達かしら?』
「まぁ…、そんな所です…。ちなみに、私はハロルドですよ?お久しぶりです…」
『あぁ…お久しぶり…って…。ええっ!?ハロルド君って?あのハロルド君?レッドリオさんとアスミダさんのお子さんの?!』
「はいっ!そうです!昔はお世話なりました…。ユミルおばさんはお元気でしたか!?」
『ええっ!?なんか声が逞しくなっちゃって~!!うん。ルイスのお陰で元気なのよ~…。国を崩壊させられた時はどうなるかと思ったけど…。それにしても、驚いた~ぁ…。恋人はもう居るの?それと、レッドリオさんやアスミダさんは元気?』
確かに、母さんの声が一瞬だけ変な声になっていた…。それから暫く、ハロルドさんは俺の母さんに、これまでハロルドさんの周りで起きた出来事を包み隠さず、母さんに話す…。
『えええっ!!!ハロルド…。貴方も辛い目にあったのね…。それとレッドリオさん夫妻は残念でしたね…。顔を出せなく…本当に御免なさいね…』
「いいですよ…。追われる立場の身だから仕方ありませんよ…」
『本当に御免なさいね…。それと、クローディアちゃん?貴方はまだ産まれていなかったから私の事はあまり知らないと思うけど…。おばさんの事は話に聞いているからしら?改めて宜しくね。貴方の叔母のユミルですよ…』
「こちらこそ宜しくですっ!叔母さんの事は少しだけしか話聞いた事がありませんでした。あっ!!ルイスさんとスルトちゃんとは仲良くやってますよ!」
『まぁ!ありがたいわぁ!!特にルイスに友達が増えて良かったわ…。それにしても、そのルイスの偽物…。全然、話を聞く限り、私の子供だと思えないわねぇ…。ハロルドも大変だったわね…』
「まぁ…。でも私を慕ってくれる人も沢山いたので…。なんとか心折れずにここまでこれました…」
『ハロルド?安心してよ~?私達のルイスはそんな子じゃないから。この子は、昔から困っている人が居たらほっておけないお人好しな子なんだから!』
「か、母さんっ!?それは酷い!」
『ふふふっ…、まぁ、そんなんだからハロルドの目の前にいる私の子はそんな酷い人じゃないから安心してよ?』
「ありがとうございます…。未だにまだ実感が沸きませんが、私が知っているルイスとは全く違うのがよく分かります…」
ハロルドさんは、母さんに涙を浮かばせながら話をしていた。そんな光景を見て、俺は少し肩の荷が軽くなったような気もした…。
………。
……。
…。
それから母さんとの念話が終わって暫くしてからの事…。異空間ストレージの外、魔族の集落が何やら騒がしくなってきた…。うん…。多分、ドラゴンが姿を見せたのだろう…。
「では、ルイス…」
「ああっ!任せてください!」
俺とハロルドさんはお互い目を合わし、あいづちをうつと、戦いの準備を始めた…。ヒナルやスルト、エアロも準備をしだす…。
「私達もやろっか!回復とか援護は任せて!」
「魔王のジョブを持つ我もやるのじゃっ!」
「攻撃魔法なら任せてくださいっ!!」
そしてやる気に満ち溢れているクローディアは軽く頬を両手でぱんっと叩き熱意に満ちた表情を見せる。
「ルイスさんっ!兄ちゃん!私も頑張るよっ!!」




