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99 魔族の村


 「や、やっと次の村だぁ~」


 「ボク、歩き疲れたよ~!レイジぃ~おんぶ!」


 「ずるいのじゃあ!我がおんぶしてもらうのじゃ!」


 「ルイス兄さんの背中は…私のもの…です…」


 「じゃあ、お兄ちゃんの片腕は私ね!


 余計に疲れるから止めてくれ…。そんなこんなで俺達は、海岸線を歩き続けて数日間が経過した。そして、ようやくアスガルド領域の手前にある村にやってきた。そんなに規模が大きくなく、自然豊かなのどかな村だけど…。


 「何ていえばいいのか分からないが…」


 「うん…暗い村だね…」


 ヒナルは


 「村の人達が、何かに警戒して外に出ないのかな?」


 「…」


 スルトは、この村に来るまでの元気の良さとは裏腹に少し、落ち込んでいる様子にも見える。アスガルド領域だから、スルトも昔、ここに来た事があるのかもしれないな。気になって、俺はスルトに聞いてみた。


 「スルト?どうかした?何か不安とかあるのか?」


 「ううん…。なんでもないのじゃ…。気にする事はないのじゃ」


 スルトと出会ってからもう大分経つ。なんとなくスルトの性格が手に取るように分かるようにもなってきている為、何かに落ち込んでいるのが良く分かる気もした。


 「とりあえず、宿屋探してみようか?たまには違う場所で寝るのも新鮮でいいだろ?」


 「そうだねー!異空間ストレージだと、もう自宅にいる感覚で、正直飽きちゃった…」


 うん。全くその通りだ。何ヶ月も異空間ストレージの中にある家で寝泊まりしていれば、もはや別の家という感じだ。皆もぽろぽろと本音が出てくる。


 「分かる分かる!たまには、ボクも兄貴と違う場所で寝たいしさー!」


 「シューが言う寝たいって違う意味に聞こえるのは我だけなのじゃ?」


 「違うってー!!普通に添い寝したいだけだって!」


 それから、村の中にあるだろう宿屋を探し当てたから、ドアを軽く手の裏でトントンと2回叩きノックをする。しかし、待っても返答がないように聞こえる。もう一度、ノックをするが、やっぱり返答がない。


 「居ないのかな?」


 「やっぱり、何か変だぜ?この村。もぬけの殻みたいに静まりかえってボクは逆に気持ち悪いよ…」


 その時だった。宿屋から年配の男性の声が聞こえた。


 「どちらさんだ?人間なら早急に立ち去ってくれないか?」


 その言葉を聞いて、直ぐにスルトが口を開いた。


 「久しいのじゃ。ボルカノ!我の声が分かるか?」


 「そ、その声は!?まさか!!しかし!ありえませぬ!!」


 「ありえなくもないのじゃ。我は生きているのじゃ!オバケではないのじゃ!」


 やがて、スルトの声を聞いた年配の男性らしき人が宿屋のドアをゆっくりと開くと、静かにボルカノという少し強面の年配男性が姿を表した。


 「スルト様っ!やっぱりスルト様!!」


 「のじゃ!!ぶいぶい!」


 スルトは右手の指でピースサインを作り、ニコッとする。一方のボルカノは目に涙を浮かばせていた。スルトは魔王の娘。皆が王宮が滅んだと聞いて死んだと思っていたのだろう。俺達はボルカノさんに店の中のホールに案内される。宿内は宿泊客が居ないためか、すごくひっそりとしていた。

 とりあえず、俺とスルト以外のメンバーは泊まる支度をする為に一度、異空間ストレージに入って行く。俺とスルトは、ボルカノさんが出してくれた薬草茶を飲みながら話をする。


 「何があったのじゃ?昔は沢山人がいたはずじゃが?」


 「勇者のせいです…。して、スルト様はどうして人間族と一緒に?!」


 「やれやれ、また勇者なのじゃ?とんだ酷い男なのじゃ!のうレイジよ?」


 「なんで、俺を見ながら言うんだ?!」


 でも本当にそうだ。偽物の勇者ルイスは魔族を殺しまわっているそうだから村の人が警戒するのも無理はないか…。


 「まぁ、話は戻すのじゃ。まず、アスガルド王妃であるユミルは健在なのじゃ。現在はエルドアス王国近郊の村で我達と暮らしているのじゃ!」


 「ゆ、ユミル様が生きていらっしゃると?!では王様も!?」


 「我の父…。アスガルドは女神崇拝教のせいで死んだのじゃ…」


 「な、なんと…。口惜しや…。さぞかし無念であったろうに…。あんな優しくて強い王様が…」


 二人とも凄く落ち込んだように声のトーンが下がる…。俺を育ててくれた父さんは、こんなにも愛されている人物だったんか…。夢の中で一度だけ、威厳のある姿の父さんと会話をしたけど、やっぱり俺の中にある父さんは木こりのような風貌のイメージしかなかった。


 「我の母や我が生きているのは、このレイジどののおかげなのじゃ!」


 「むむっ?このヒューマン族にしか見えない青年がか?!」


 スルトは俺を指差すと、ボルカノさんは目をギラギラさせながら、俺の全身をじろじろと見てくる。


 「そんなに大層なヒューマンには見えないが…」


 「改めまして。俺はレイジっていいます。ユミル母さんとアスガルド王が、まだ俺が4歳くらいの時に森で迷っていた所を見つけてくれて、いく宛がない俺を育ててくれました。そして、今に至ります。俺の地位はエルドアス王国名誉騎士を頂いているので、ユミル母さんは貴族の地位の元、平和に暮らしてます」


 「ということは、なんだ?ユミル王妃とアスガルド王の義理の息子になるのか?!しかもエルドアス王国で貴族の地位だと!?エルドアスは魔族でもどんな種族でも平等と聞いた事があるが…」


 「そうなのじゃ!エルドアスは良い国なのじゃ!我も良くしてもらっているのじゃ!そして、我はこやつの姉なのじゃ!い、一応…」


 あれ?スルトが少し大人なったか?!そう思っていたら…。


 「ルイス…。何か今言いだそうとしたのじゃ?」


 「い、いえ、なんでもありません…」


 俺達の会話を聞いてからか、ボルカノさんの目付きが鋭い目から、凄く優しい目になっていく。


 「ハッハッハッ!これは愉快だっ!」

 

 「ボルカノよ。村の人はどこにいるのじゃ?昔はもっと活気があったのじゃ…」


 スルトの質問に、ボルカノはさっきまでの笑顔が消えて、深刻そうな表情を見せる。


 「さっきも言ったが、勇者がこのアスガルド領域にやってきた。それからセトリア王国が急に魔族狩りを始めた。その時、この村の住民がさらわれてしまった。後、セトリア王国に女神アテナもついたせいもある」


 「女神アテナじゃと。じゃあ女神が何か企んでいるのか…?!」


 「確証はないがな…。でもタイミング的に見れば女神や女神崇拝教がセトリア王国や国民に何かよからぬ噂でも言いふらし回ったのだろうなぁ」


 また、ここでも女神崇拝教か…。どちらにしろ、良いものではなさそうだ。


 「して、ボルカノは勇者について何か知っているのじゃ?」


 「現状、エルドアス王国に現れた魔族を打ち破った勇者がここに来た…と、までしか…。あれ?」


 「ふむ!ボルカノよ!何か今、分かった事があるか?」


 「ユミル王妃もスルト王女も健在な上、エルドアス王国から来た勇者…。なのにユミル王妃やスルト様の事は知っててもおかしくない…。はて?」


 「ちなみに魔王アスガルドは女神崇拝教のせいで魔物の姿に変えられたので、皆を守るため俺が父親をこの手で殺めました…。勿論、女神崇拝教の一人も始末しました…」


 「どういう事じゃ?エルドアスを救ったのは勇者じゃなかったのか?!」


 ボルカノさんは、頭が回らなくなってきたのか、頭に両手を抱えながら頭をふらふらと左右に揺らし始めた。


 「レイジ?一旦、変身を解くのじゃ…」


 「ああ…」


 俺は、変身を解く。本来の姿の俺に戻る。


 「ボルカノよ。まず、先に言う事があるのじゃ。我は嘘は嫌いなのじゃ、だからちゃんと聞いてほしい…」


 ボルカノは真剣な表情を見せながら、スルトの言葉に頷く。


 「俺が、正真正銘の勇者のルイスだ…」


 「はへ?そ、その顔は間違いない!あの時、村の住民を拐っていった勇者?!」


 案の定、ボルカノさんは変な高い声をだした。俺は今までの経緯、そしてアスガルドに何故来たかを細かく砕いて分かりやすく話をした。


 「つまりは…、本来の勇者は最近、この地に来たと?そして、アスガルド近郊に現れたのは偽物という事か?!」


 「そうなりますね…」


 「じゃあ、村の人を拐ったのは勇者の偽物か!?むむむ…、何という事を…」


 ボルカノさんは天井を見つめる…。しばらく無言が続くが…。


 「本物の勇者なら…いや……お主がアスガルド王とユミル王妃の息子として頼みを聞いて貰いたい…。私たちのこの村の住民を救ってほしい…!心からの頼みじゃ!」


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