領土拡大①
ダークネス城の頂。そこで風に揺れるメアリー王国の国旗。
それを見上げ、クロードは満足げに頷く。
「中々良い眺めだな」
響く、クロードの呟き。
その呟き。
それに側に控えていた一人の兵は声をかけた。
「クロード様」
「どうした?」
「クロード様のお力。その、難易度調整と仰る力に制限はないのですか?」
「制限、か」
「はい。わたくしめが知る限り……強大な力にはそれ相応の対価。もしくは制限があると認識しておりますゆえ」
響く兵の声。
それに呼応し、他の兵たちも声を響かせていく。
「そうです、クロード様」
「かの召喚士。それは己の寿命と引き換えに悪魔なる者を召喚し、使役する。そして、剣聖と呼ばれる者。その者は剣術以外のことはなにひとつできぬという」
「他にもこの世界に存する強者と呼ばれる者たちは--」
そんな兵たちの心配声。
クロードはそれに、神妙な面持ちで応えた。
「対価と制限」
これまで力を奮ってきた己の姿。
それを思い返し、答えを出そうとするクロード。
しかし答えがでない。
「うーん。今のところ、これといったことは思いつかないな」
声を発し、クロードは頭を掻く。
「でも確かに。なにかしらの対価。あるいは制限があるかもしれないですね」
「えぇ。逆に一切なければそれはそれでも、構わないのですが」
「わたくたちといたしましても。そちらのほうが、安心できますので」
「心配していただきありがとうございます」
「いえいえ。当然のことをしたまでです」
会話を交わし、笑い合うクロードと兵たち。
っと、そこに。
「クロードッ、見つけたぞ!! お主めッ、たった一人で全てを丸く収めよって!!」
メアリーの興奮声。
そして、「クロード殿。流石でございます」そんなソリスの感服声が響く。
その二つの声に振り返る、クロード。
瞬間。
「褒美じゃッ、クロード!! 褒美は我の抱擁じゃ!!」
ぼいんっ
両手を広げ、メアリーはたわわな胸を揺らしクロードを熱っぽく見つめる。
「ほれッ、クロード!! はよこっちにくるのじゃ!! ちゅっ」
下手くそな投げキッスを披露した、メアリー。
その一国の王らしからぬ姿。
それに、ソリスは嘆いてしまう。
「メアリー様!!」
「なッ、なんじゃ!?」
ソリスの嘆き声。
それに野良猫のように身をびくつかせ、メアリーは振り返る。
「一国の王としてッ、節度をもっていただきたい!! どこで覚えたか知らない見様見真似の投げキッス!! うっうっ……わたくしめは悲しいですぞ!!」
「かッ、悲しいのは我のほうじゃ!! 少しばかり場を和ましてやろうとしてやったというのにッ、なんなのじゃ!! そそそ。そこまで言うのなら……ソリスッ、見本をみせてみるのじゃ!!」
「投げキッスの見本など--ッ」
「ならッ、我の勝ちじゃ!! ふんっ!!」
ふんぞりかえる、メアリー。
それに溜息をこぼし呆れる、ソリス。
いつもの口論。
いつもの光景。
そして、メアリーは締めとばかりに声を響かせた。
「そうじゃッ、クロードよ!! この第二のメアリー王国の王ッ、それになるのじゃ!! それが我の抱擁ッ、そして投げキッスの副賞じゃ!!」




