第二のメアリー王国③
途端。
流れ込む泥水の勢いが弱まる。
そしてそれに伴い泥水が水位を下げ、少女たちのくるぶしあたりにまで水が引く。
同時に少女たちを束縛していた首輪、手枷と足枷が外れ、牢の鉄格子もまたクロードの力により開放される。
少女たちは驚き、数年ぶりに自由となった自らの身を恐る恐る動かす。
「うごく。これがうごかせるってことなんだ」
「いたくない。い、いたくない」
「……っ」
擦り切った笑顔。
それをたたえ、人として当たり前のことを当たり前にできる現実に涙を滴らせる少女たち。
その姿。
それにクロードは胸が苦しくなる。
そして。
「あの者たちを急ぎこの場から救出する!!」
難易度調整
対象……少女たちの救出
難易度……very easy→very very easy
更に難易度を調整し、完全に泥水を引かせるクロード。
そして、更に。
「あの少女たちの他にもまだ居るかもしれないッ、くまなくこの中を探そう!!」
難易度調整
対象……牢獄の捜索
難易度……hard→very easy
そう声を響かせ、クロードは躊躇いなく力を行使する。
全ての牢獄の鍵。
それが壊れ、開放される。
そしてその足を踏み出し、少女たちの元へと急ぐクロード。
「我らもクロード様に続くぞ!!」
「おぉ!!」
先陣を切る、クロード。
その背に鼓舞され、兵たちもまた少女たちの元へと駆け出していく。
そんなクロードとメアリー国の兵士たちの姿。
それに、少女たちは生まれてはじめて【わたしたちは救われる】という感情を抱く。
「いきれる。わたしたち、まだいきれるの?」
「うれしい。まだ、死ななくてもいいんだね」
「いきる。いきれる」
そうやって声を漏らす、少女たち。
その眼前に辿り着き、クロードは指で拭う。
一人の少女の頬をつたう涙。
それを、優しく拭う。
そして、クロードは言い切った。
「俺が。いや、俺たちメアリー王国が来たからにはもう大丈夫だ。この国は、俺たちが変える」
その言葉。
それに少女たちは瞳を潤ませた。
自らの心の奥から込み上げてくる思い。
それを堪えることなく、自らの思いに正直になり、「ありがとう、ございます」と小さく呟いて。
〜〜〜
「た、助けてくれ。このままでは我が国は」
「あ、あなた方はわたしたちの国を助けにきたのでしょ? な、なら……はやく支援物資を置いて、この国から去っていただけないかしら?」
「さ、最近。貴国は凄まじい勢いで繁栄していると聞く。な、なら。支援物資だけでなく金銭面でも支援をいただきたいものだ」
「そそそ。そうだ!! 最低でも向こう50年は我らの国を支援するのが筋!! 我らはあくまで被害国。いわれのない天災に遭遇したッ、かわいそうな国なのだからな!!」
臨時避難所。沈みゆく王都より離れた場所にそれはあった。
そのメアリー王国の設置した殺風景なテントの中。
そこに響く、ダークネス国の権力者の声。
ダークネス国の王。
その姿は、ここにはない。
権力者たちは皆、己の顔に汗を滲ませ焦燥の極致。
そんな者たちに、メアリーは言い放つ。
「なんと情けない奴らよ。このような未曾有の大災害が起こったとなれば……まず、心配すべきは民の命ではないのか?」
毅然と佇み、眼光を鋭くするメアリー。
しかし、権力者たちは動じない。
「なにをおっしゃるかと思えば。く、国があっての民。王があっての民。その国と王が無くなってしまえば彼ら等、道端に転がる石ころに同じ」
「そ、そうですわ。彼等の命よりまずはわたくしたちの命。わたくたちさえ生きていれば、それで良いのです」
「さ、さぁメアリー様。はやくこの条約にご署名を。さすれば、我が国は貴国からの支援を正式に--」
瞬間。
「王命を下す」
響く、メアリーの声。
「今すぐこの者たちを捕らえるのだ!! この者たちに国を治める資格などない!!」
「!?」
驚き、戸惑う権力者たち。
そして、メアリーの王命に従い側に控えていた兵たちは容赦なく権力者たちを捕らえていく。
メアリーと同じ思い。
それをその胸に抱き一切の躊躇いもなく。




