スズ①
「クロード様」
「はい」
「あの者の顔。あそこまで感情を押し殺した表情。それにわたくしは心あたりがあります」
「俺もあります。確かあれは」
「えぇ。あの裏工作が得意な」
スズの姿。
それを思い出し、クロードとソリスはそんな会話を交わしていた。
「わたくしはメアリー様のお側にて待機しておきます。クロード様は、その」
「スズの動向。それを伺っておきます」
〜〜〜
"「No.125。任務だ」"
"「メアリー王国への偵察。あの異常繁栄の原因を探ってこい」"
"「名を付与する」"
"「この任務中、お前はスズと名乗れ。わかったな?」"
"「うん、わかった」"
〜〜〜
目の前に置かれた水と、パン。そして果物。
それを見つめ、スズは己の任務を思い出していた。
「あれ? もしかして、パンはお嫌いでしたか?」
手をつけない、スズ。
その姿に、メイド姿の侍女は問いを投げかける。
「でしたら……あちらの棚にクッキーがあったような」
スズに背を向け、戸棚へと身体を向ける侍女。
スズはそれを見つめ--
「お腹減った」
と、何度も訓練された言葉を呟き、テーブルに置かれたフォークを手に取る。
そしてすっと、椅子から降り音を立てずに侍女の背後へと忍び寄ろうとした。
だが、そこに。
「難易度調整」
対象……スズの偵察任務
難易度……normal→very hard
そんなクロードの声が響き、場は一変する。
「おいッ、お前!! なにをしている!!
「フォークを手にッ、なにをしようとしていた!?」
「やはりお前は牢にぶち込んでおく!! 」
今まで入り口で待機していた衛兵たち。
その兵たちが雪崩れ込み、スズへと武器を向けていく。
「……」
カランとフォークを落とし、両手をあげるスズ。
そして。
「違う。違う。フォーク、いらない。だから、直そうと思った」
そう声を発し、スズは瞬きひとつさえしない。
それをしかし衛兵たちは信じない。
「やはりお前は牢にぶち込んでおく!!」
「メアリー様のご好意ッ、それを踏み躙ったことは大きい!!」
「観念しろ!!」
それに、スズは力無くフォークを拾い上げる。
そして、「失敗した。失敗した」そう淡々と呟き--
「任務失敗のけじめ。それを打つ」
吐き捨て、スズは己の首にフォークを突き立てようと腕を振り上げた。
だが、それもまた。
難易度調整
対象……スズの自害
難易度…… easy→very very hard
そのクロードの力により、スズは己の死を恐れその場に崩れ落ちる。
そして頭を抱え、「……っ」小刻みにその身を震わせたのであった。