成長③
「繁栄は嬉しいのじゃが……こうも疲れるとは思ってもみなかったのじゃ。父上と母上。はやく帰ってきてほしいものじゃな」
幼き日に王位を継承し、ソリスと共に国を治めてきたメアリー。父と母は他国の圧力により、失脚。そして国々は幼いメアリーに無理矢理王位を継承させ、数多の国による傀儡国家に仕立て上げようと目論んでいた。
父と母はどうなったのか。
それを知るのは、ソリスただ一人。
しかしソリスはソレを墓場まで持っていく覚悟を固めている。
「いつか帰ってこられます。それまで、メアリー様」
「うむ。我はがんばるのじゃ。立派な国を創り、父上と母上に誇ってやるのじゃ」
ソリスの言葉。
それにメアリーは己を奮い立たせ、前を向く。
その二人の姿。
それを見つめ、クロードもまたメアリーを支えることを改めて誓ったのであった。
っと、そこに。
「メアリー様ッ、スパイをひっとらえました!!」
「我が城内をコソコソと這い回り我が国の情報を探っていた模様!!」
「おいッ、その場にひざまづけ!!」
怒声。
それが響き、一人の年端もいかない少女が衛兵たちに囲まれ現れる。
銀髪に赤目。
しかし、その顔に生気はない。
みすぼらしい布切れの服を身につけ、足は裸足。
「……」
その場に正座をし、メアリーとクロード。そしてソリスに視線を巡らせる少女。
そして、声を発した。
「お腹、減った」
その言葉。
それに、衛兵たちは叫ぶ。
「スパイの分際でなにを言っている!!」
「ははん。さては貧民のフリをしてメアリー様に取り入ろうとしているな?」
「その手には乗らんぞッ、スパイめが!!」
「お腹減った。お腹減った。わたしは、スズ。ここにくれば、食べ物があると聞いた」
「まだ言うか!!」
「メアリー様ッ、この者を牢に--」
しかし、その衛兵たちをメアリーは遮る。
「スズと申したか?」
「……」
こくりと頷く、スズ。
「腹が減っておるのか?」
二度三度と頷く、スズ。
「うむ、ソリスよ」
「はい」
「その者に食料を」
「かしこまりました」
それを衛兵たちは遮ろうとした。
「メアリー様ッ、この者は食料庫ではなく城の記録庫にて拘束いたしました!!」
「もし本当に食料目当てならッ、食料庫に」
「話は腹が膨れてからでも良いであろう。今のそやつにこの城から逃げ出す力はない。手を拘束され……そちたちにより囲まれておる状況ではな」
メアリーの言葉。
それに衛兵たちは従う。
そして、衛兵たちに連れられ玉座の間より去っていくスズ。
その間際。
「……」
スズは己の無機質な眼差しをもって、クロードを静かに仰ぎ見たのであった。