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大切な仲間たち

作者: 奈月ねこ

ひだまり童話館 第31回企画「びりびりな話」参加作品です。

 ある場所に、動物が集められていました。

 動物は多種多様です。小さなリスから大きな狼まで、一部屋に押し込められていました。

 動物たちは森に住む仲間たちです。


「これ、どういうこと?」


 ヤギさんが言いました。


「わからない間にここにいたわ」


 と、うさぎさん。


「薬をばら撒かれて捕まったらしいな」


 と、豹さん。


 どうやら皆は自分たちが知らない間に、この部屋へ押し込められていたようです。


「これからどうなるの?」


 恐る恐る口を開いたのは、フクロウさん。

 皆不安でたまりません。

 その時、部屋の扉が開きました。身を寄せ合う動物たち。


「これだけいれば、高く売れるな」


 人間が二人で話しているのを、動物の皆は聞いていました。そして無情にも閉められる扉。また動物たちだけになりました。


「このままじゃ売られちゃう!」


 パニック気味のアライグマさん。

 皆で顔を見合わせました。これはきっと密猟です。人間たちは動物たちを売るつもりなのでしょう。アライグマさんの言う通り、このままでは他の人間に売られてしまいます。


「とにかく逃げないと!」


 亀さんは言いました。

 もちろん皆は頷きます。と、猿さんが見つけました。奥にもう一つ小さな部屋があり、そこに窓があったのです。猿さんは、ここから逃げたらどうかと言いました。確かに扉は鍵をかけられていますから、扉からの脱出は無理でしょう。皆で相談した結果、窓から逃げることにしました。

 でも、少し上の位置にある窓。小さな動物は届きません。皆は大きな動物を下にして、その上に登り、小さな動物たちをまずは外へ逃すことにしました。一番体が大きな狼さんを下にして、どんどん動物たちが登っていきます。窓には少し裂け目があり、外せそうでした。

 一番上に登ったリスさん。


「これなら外せそうだよ!」


 リスさんの言葉に皆は喜びました。さあ、脱出大作戦です。意外と力持ちなリスさん。窓の裂け目を大きくして、脱出しました。

 そうして最後に狼さんがジャンプをして、窓から脱出しました。無事に皆外へ出ることが出来たのです。

 安心していると、そこへ人間たちがやって来ました。


「どうして動物たちが外へ出てるんだ!?」


 人間に見つかってしまった動物たちは、一目散に森へ向かって走り出しました。亀さんは豹さんに乗って、リスさんはフクロウさんに乗って、皆で走りました。

 すると、逃げた先には鉄柵がありました。そこに触れたうさぎさん。


 びりびり!


「わっ!」


 うさぎさんは驚きました。その鉄柵には電流が走っていたのです。びっくりする動物たち。これでは森へ逃げられません。

 そんな動物たちに人間は近づいて来ました。その手には、猟銃が握られています。


「逃げられないぞ」


 と、人間の一人が言いました。

 その時です。猿さんが人間に体当たりしたのです。鉄柵に倒れ込む人間。


 びりびり!


「ぎゃあ!」


 人間は鉄柵に引っかかってしまいました。それを見たもう一人の人間が、焦って小屋にある電流のスイッチを解除しました。


「今だ!」


 猿さんの声を聞き、動物たちは一斉に鉄柵を飛び越えました。そして自分たちの住む森へと無事に帰ることに成功したのです。

 いつの間にかいなくなっていた動物たちを、森の仲間たちは心配していました。自力で密猟者から逃げてきた動物たち。森の仲間たちは、密猟者がまた来るのではないかと怯えました。そして森の奥へ、奥へと移動していったのです。

 人間の中には浅ましい者もいるようです。動物たちは、そんな人間に会わないように森の奥へ逃げたのです。


 そんな惨状を知った優しい人間たちがいました。その人間たちは、動物の保護活動をしている人たちです。密猟者に対して、猛烈に怒った人間たち。もちろん見逃すはずがありません。密猟者は捕まり、もう動物たちに手を出すことはないでしょう。


 それでも人間を信じることが出来なくなった動物たち。優しい人間たちは悲しくなりました。もう動物たちに会えないかもしれません。でも、同じ人間が犯した罪のせいです。人間たちは、動物たちに対して、その罪を防げなかったことに落ち込みました。だから、人間たちは考えました。動物たちが少しでも快適に暮らすことが出来ないかと。

 そして人間たちが出した案は、動物たちが寛いでくれる施設を作ることでした。

 どんな動物でも自由に出入り出来る小屋、そして寛げる温泉を作りました。小屋には、いつも動物たちが好きな食べ物を用意しました。

 それでも中々森の奥から出て来ない動物たち。それも仕方のないことです。人間が動物たちを追い詰めてしまったのですから。


 そして月日は流れ、何年も経ちました。動物たちが来なくても、人間が作った小屋へは、毎日動物たちのごはんは届けられていました。でも動物たちは現れません。


 そんなある日、人間はいつものように小屋へ動物たちのごはんを持って行きました。そうして見たのです。温泉を使ってくれている動物たちを。

 その話を聞いた人間たちは喜びました。何年も経って、ようやく動物たちが森の奥から出てきたのです。

 でも人間たちは、動物たちに近づくことはありませんでした。以前の密猟者のように、そんな人間から動物たちを守るためです。

 

 動物たちと人間たちの距離は遠いままです。でも、少しでも人間たちに近寄ってきてくれたなら嬉しいことです。動物たちと人間たちが共存し続けるなら、適度な距離を壊してはいけないのです。動物たちが人間たちを信用するのは、まだ難しいでしょう。だからこそ、人間たちは償い続けるのです。ずっと。

 いつか、動物たちと人間たちが寄り添うことが出来るように願いながら。


 何年も経って、動物たちも少しは人間たちに歩み寄ろうとしているのかもしれません。そんな未来を想像すると、温かい気持ちになります。


 ちなみに、温泉に来ていたのは、猿さんとカピバラさんでした。二人とも温泉好きです。これから他の動物たちも温泉に入りに来るかもしれませんね。




 人間たちは、いつかその夢が叶うことを願っていることでしょう。

 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 電気びりびりのお話でしたね! 人間もまた、動物の一部ではありますが、本当に動物たちとの距離感は難しいところですよね。 そして、地球はもともと人間のためにあるものではありませんが、今はまる…
[良い点] ある種の動物形妖精たちで、ペット用または労働用でさらおうとしているように見えました。 『密猟者』とあるので、人間側でも違法行為のようです。 森に収容所を作って電気罠を張り巡らせ、多くの動物…
[良い点] 手に汗握る冒頭、動物たちが力を合わせて未来を切り開く様子や、密猟者が自分たちのしかけた策に足元をすくわれる展開にはらはらどきどきでした。 でも、本当に大切なのは、そこから、いかに信頼を回復…
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