第六章 カジノ編③
-----日付を一旦第五章の日に戻す-----
異国の土地に来ていて誰も私に興味を抱かず、日本人である私は写真料金を搾取する為の詐欺師のカモでしかなく、言葉すらまともに通じない土地に一人で来てしまったという感覚が突如、面白おかしく感じてきた。
ストリップ通りをダウンタウン方面へと歩いている時だった。
信じられる者は自分しかいないという心細い感覚を吹き飛ばしたくなったのかもしれない。
急に上機嫌になる自分がいた。
横断歩道前の信号待ちで、歌を思いっきり、ありったけの声量で歌いたくなった。日本語の自分で作った、世界中で自分しか知らない曲をノリノリで大音量で歌いながら踊っていたら、歩道橋の信号が青に変わった。
歩くというよりその場に立っていたい衝動に身を任せていたら、
身長推定175センチ位で、丸々肉がついていて、髪の毛全部を細かくみつ編みに編んでそれを束ねてお団子にしている黒人女性が笑顔で寄ってきて
「ハーイ!楽しそうね、私も一緒にいいかしら!」
と言いながら、その黒人女性は両手の親指と人差し指を器用にパチンパチンと打楽器にしてリズムを取りながら私と一緒に踊り始めた。私は心の中では一瞬びっくりしたけれど、踊りと歌をやめなかった。
出会ったばかりの黒人女性と意気投合し、何の会話もないままに共に30分くらい踊り倒した。
流石に疲れたので、
「疲れた」
と黒人女性に言うと、笑顔で踊っていた彼女はお腹を抱えて笑った。その女性こそ、はじめて出来た私の異国の友達であった。
さて、話をプラネットハリウッドの第五章の最終カジノへと早送りする。
カジノのスロットと格闘している私に
「タバコを一本くれ」
と話かけてくる中東系アメリカ人の男がいた。
カジノへ来ているのに何をするでもなく、地べたに座り込んでスマホを弄っている人だった。
それはカジノ空間にいる人間ならおそらく誰しもが思うであろう、カジノをただの喫煙スペースとして使っている人だったのだろう。
一本くらいならいいかなと思い、一本差し出すと、1ドル札を手渡された。
一本約100円とは良い商売だなぁとか思い、
自分もタバコに火を付けると、タバコを吸い終わった彼は、また
「タバコを一本くれ」
と言ってきた。無限に吸う権利を彼は私から1ドルで買ったのか……
とか考えていたら、また1ドル札を手渡された。
ん?………もしかして日本製のタバコは、LARKと書いてあっても味が違って美味しいのではないか?的な勝手な仮設を立てたりしたが、昼間の黒人女性との出来事で疲れていたせいもあってか、彼に話かける気にはなれなかったので、カジノに売ってあるタバコのマルボロを買いに行った。
一本試しに吸ってみた。何と!!味が雑で喉が焼かれる気分になって全然美味しくない……日本でもマルボロを吸ったことがあるが、銘柄や会社が同じでもどうやらタバコは国によって味が違うらしいということをその中東系アメリカ人は私に教えてくれた………とか考えていると、スロット台に戻ってきた私を見付けた途端に
「タバコを一本くれ」
と言いながらどこかからともなく戻ってくる彼の姿があった。
私がそのカジノを離れるまで彼は私の近くでタバコの売買を持ち掛けてくるのだった。
カジノの中は昼間は閑散としているが、時間帯が夜になるとお祭りになる。
カードゲーム台の上にに美女が15センチ以上あるヒールをはいて、黄金のセパレートのビキニみたいな面積の小さな服を着用し、頭にはオウムの冠みたいな派手な帽子を身に纏い、
何台ものカードゲームが行われていない部分のカードゲーム台の上に乗って、カジノ内に鳴り響く音楽と共にダンスを踊るような面白い催し物が見られるのだった。
男性カジノプレイヤーの方を見ると肌の露出の激しい服を着ながら声をかける売春婦らしき職柄の女性も良く見かけた。
私はその売春婦らしき人を呼び止めて、一度は男性が夢に見るであろう、胸の谷間にチップを入れるといった卑猥な行為を行ってみたりした。ケチ臭く1ドル札2枚だったが……
続く




