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二ヶ月ほどたった今僕は雪希とほぼ毎日外に行くようになった。
「流石にボスも仕事をしてください」
そう七緒に言わせるほどに。
「そうはいっても六鳴が全部やってしまうから僕に仕事が残らないんだよ。」
僕はそう言って苦笑する。
「六鳴、あれだけ言ったのに...」
六鳴は僕の秘書で、七緒の実の妹だ。
「あ、姉様。」
「六鳴、あれほど言ったでしょ?ボスが仕事しなくなるから多少は残しときなさいって」
「私がいるからボスは仕事なんてしなくてもいいですもーん」
「じゃあ僕は雪希と外を見回って来るよ」
彼女たちは「あっ、ちょっとボス!」「行ってらっしゃいませー」などと各々の言葉で見送ってくれた。
◇●○◆
外出から帰ってきたあと、アジトの通路で突然「ねぇ、桃鬼」と雪希に話しかけられた。
「なんだ?雪希」
「桃鬼って私のこと、どう思ってる、、?」
「ふぇ?」
「いや、いいの。言いたくなかったら。」
「いや、なんていうか、気の許せる幼馴染、かな?」
「そっか。」
その声は、どこか切ない雰囲気を帯びていた。
◇●○◆
翌日の朝、僕は六鳴と話していた。
「ボス、奴らのアジトを特定できました。」
「どこだ?」
「林々モールの地下2階層です。」
「林々モール?!」
林々モールとは、僕らのアジトから出て5分もかからない場所にあるショッピングモールで、地上12階地下3階の計15階層になっている。何よりも、このアジトから近いということが重要だ。確かに僕達が攻めやすいということもあるが、それは相手にも言えること。優秀なメンバーの揃った僕達の組織だが、正面から戦ったら勝ち目はない。
「六鳴、こっちの位置はバレているのか?」
「わからない。というのが現状の答えですが、早めにアジトを移すのが得策でしょう。」
「だな。アナウンスをかける。」
そのとき、
『警告。侵入者を発見。戦闘員各位は配置についてください。繰り返します..』
アジト内にアナウンスが響き渡る。
「バレてたらしいな。」
「ですね。七緒には雪希さんの避難をやってもらいましょう。【虚空見聞】」
【虚空見聞】とは七緒と六鳴の姉妹が使える魔術で、お互いの感覚を共有することのできる能力だ。
『了解しましたボス。雪希さんのことは私に任せてください』
「頼んだよ。七緒。」
このようにお互いがお互いの体にアクセスすることもできるのだ。
「帰ってきました。では私達は敵の侵入を阻みましょうか。」
「だな。」
「桃鬼の首を取れ!取ったものは一生遊ばせてやる!本気で行きな!」
彼女は炎歌。敵の組織で火力制圧部隊の隊長をやっている。
「炎女。また私とボスのアジトを焼きに来たのですか?」
「おや?今日は片割れがいないのかい?自然属性の君じゃあちょっと分が悪いかもしれないよ?」
そう言って炎歌は笑う。確かに自然属性の六鳴は炎歌と相性が良くない。
「六鳴、俺がいこうか?」
「ボスは反対側の敵を掃討してください。」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫です。」
六鳴は正確に物事を伝えるやつだから恐らく大丈夫なのだろう。
「わかった。六鳴、任せたぞ。」
「ええ。」
「君一人で私に勝てるって認識でいいのかな?君の姉はここに居ないんだろう?」
炎歌は不敵に笑って見せる。
「まさか。」
圧倒的不利な相手。
しかし私には姉様がいる。
「私はいつ『私一人』と言いましたか?」
私はそう返した。
「【虚空見聞】」
私の中に姉様が入ってくる。しかし今回はそれだけではない。
「姉様、手伝ってくださいね?」
姉様の能力と意識をこの体に顕現させた。
そしてかつ、私の意識も確実にこの体に残っている。
「炎歌、私の妹をいじめてくれたらしいね。」
炎歌は呆然とした。六鳴の目が見るだけで心を癒やされるような緑色から、透き通ったような蒼に変わり、属性が自然から氷へと変化する。それはまるでいつしか戦い、炎歌が大敗した七緒のような雰囲気をまとっていた。
「なっ...七緒だと?」
「半分正解、半分間違いといったところだね。」
「私は七緒でありながら七緒ではない。」
「当たり前だ。変なハッタリで私を倒せると思うな六鳴!」
「しかしそれと同時に私は六鳴でありながら六鳴ではない。」
「二人が融合したというのか?」
炎歌は本能で悟った。こいつの相手をしてはならないと。
「おや?どこに逃げるんだい?」
七緒は可笑しそうに笑う。
「【七六式虚空庭園】」
六鳴がそう唱えた瞬間、辺りが氷河に包まれ、その氷河の中たくましく育った植物が炎歌を拘束する。
【自己生成区域】、魔術にはそのような物がある。任意の範囲を自らの定める法によって支配できる絶対的な魔術。桃鬼の【黎明】もこれに当たる。
「【回禄】」
炎歌も堪らずと言ったように【自己生成区域】を展開する
しかし炎歌が頭の中に浮かべた区域のイメージは霧散してしまった。
「悪いがここは私の区域だ。私以外の者が【自己生成区域】を作ることを禁止している。」
「ありえない!自己生成区域にはそこまでの効力は無いはずだ。」
その通り。普通は相手の【自己生成区域】を妨害などできない。
しかし今私は姉様との融合体だ。できないことは殆ど無い。
「そうかそうか。なら、仕方ないね。」
炎歌はそう言いながら腰に携えていた短刀を取り出した。
「君たちにこの私、炎歌が一つ教えてやろう。」
短刀を自身の首に当て
「私は必ず、君たちに勝つために帰ってくると」
そう言って炎歌は空へと旅立った。
◇●○◆
「七緒さん?!大丈夫ですか?」
雪希の護衛をしてくれると言っていた七緒が急に意識を失ったのだ。
「おや?君は、あの時殺した夫妻の子供かな?」
奇妙な格好をした男性が雪希の前に現れた。
はじめまして、moguinと申します。
一応処女作なのでという言い訳はありますが、それにしても難しいですね。
最後まで読んでいただき有難うございました。また次の話でお会いできることを祈っています。
それでは!




