プロローグ
「僕が素直に諦めていたなら、こんなことにはならなかっただろうね。」
彼誰の薄暗闇の中、少年は呟いた。
少年は迷っていた。
他人を、自身をも傷つけるこの旅を続けるかを。
少年は恨んでいたいた。
救いのないこの世界を。そして、彼らを救えなかった自分自身を。
少年は恐れていた。
これから更に膨れ上がるであろう犠牲を。
しかし、一度始めたからにはもう引けない。
これまでに奪った命を、奪われた命を取り戻すために少年はさらなる屍を超えることを決意し、
「ただ、後悔はしていない。」
年に似合わない表情でそう言った後、そっとその場を後にした。
○◆◇●
「お兄さん!お兄さん!」
町中で少女に話しかけられた。
歳は10歳に見えるが、中にいるのは女子高生だ。
「雪希、別に少女に寄生したからって少女みたいな話し方をしなくてもいいんだぞ?」
「雰囲気が大事だと思うからさ」
そういって雪希は笑う。
雪希、彼女は僕が旅を始めたときに手伝ってくれた人であり、この旅の最初の被害者。
肉体は失ったものの、魂だけは助かったため、生きている人に寄生して生きている。しかし雪希に寄生された人間は、寿命が大幅に減少してしまう。僕はこれ以上犠牲を増やしたくないなんて言いながら、雪希の死を受け入れたくないために罪もない一人の少女の命を見捨てている。
所詮僕に正義の味方など無理なのだ。
『桃鬼、自身を責めないで。私の力不足でこうなったんだもん。』
「いや、俺の力不足だ。」
日が昇り、多くの人が出歩く街並みのなかから、僕たちはまた旅路に戻った。




