「誰が魔王を殺したんですか?」
王城のとある一室。
俺の目の前には今、たくさんの勇者が並んでいる。
頑丈そうな鎧を身に纏った大男から、凜々しい顔つきの女勇者まで。その姿、年齢はバラバラだ。しかし背中に羽織った王家の紋章入りマントは、彼・彼女らが全員、国王に認められた正式な「勇者」であることを示している。
対する俺は、王城で働く人間であることを示すエンブレム以外、華やかさは微塵も無い。ただただ実用性だけを追い求めた、地味でシンプルな服装。それは俺が勇者でも何でもない、ただの召使いの男だから。
代々王家に仕えてきた由緒正しい使用人の家系、ベンサム家。その嫡男であるこの俺、ルゥ・ベンサムもやはり王家に絶対の忠誠を誓った使用人の一人だ。栗色の髪にエメラルドグリーンの瞳は母親譲り、何かにつけて苦労性なのは父親譲り。そんな俺にふさわしい格好がこれなのだから、仕方がない。召使いは召使いらしく、日陰者に徹しろということだ。
だが、今は服装の違いなんて気にしている場合ではない。俺は勇者全員に目を向け、覚悟を決めたようにゆっくりと口にする。
「もう一度聞きます」
そう前置きして尋ねるのは、一度どころかもう何度目になるかわからない質問。
「誰が魔王を殺したんですか?」
勇者たちは、それぞれ目を泳がせた。誰か名乗り出ろよ、いい加減この話をなんとか終わらせてくれよ。そんな台詞が聞こえてきそうな、無責任で投げやりな視線。しかしそれは行き場を失い、やがて沈黙と共に床へ落とされた。