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異世界クイズ  作者: 畑山
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決勝戦その三、最終話


「第十一問」

 優勝するには二連続で正解を解答しなければならない。

「巨大な大山ウサギに乗って」

 大山ウサギは、人が騎乗できる、でかいウサギだ。かなり気性が荒く、落ちて死人が出ることもあるらしい。

「一週間かけて、エドリック山脈を越えるレースを」

 ポン!

「二番、コニャック・ペローさん」

「将軍レース」

「正解です。大山ウサギに乗って、一週間かけて、エドリック山脈を越えるレースをなんと言うでしょうか。答えは、将軍レースです」

 樹暦八世紀頃、タイフォンの将軍が大山ウサギに乗ってエドリック山脈を越え、ペルフールを攻めたという話から、作られたレースがあるとかなんとか、それかな。

「コニャック・ペローさん、ボールを一つ獲得するができます。箱の中にボールはありませんので、他の解答者からボールを奪うことになります。どなたからボールを奪いますか?」

 ボールを四つ持っているのは、俺とローレット・レレン。

「三番の、テンヒル・バーナー」

 コニャック・ペローは口を大きく開けネコ族の大きな牙を見せた。たぶん、笑っているのだろう。

 俺のボールを取ったということは、ローレット・レレンより俺の方が、強敵だと思っているのだろう。悪い気はしない。

「では、テンヒル・バーナーさんのボールを一つ、コニャック・ペローさんの元へ移動してください」

 運営スタッフがボールを移動させた。

「コニャック・ペローさんのボールは四つ、テンヒル・バーナーさんのボールは三つになりました。では次の問題です」

「第十二問」

 よし、行くぞ。

「昨年、世界三十八カ国によって締結された」

 国際社会問題。

「重力地雷禁止条約が結ばれた」

 場所、国か都市、どちらだ。

「都市は」

 ポン!

 押したが。

「一番、フリット・デンバーさん」

 押し負けた。

「マレーレ」

「正解です。昨年、世界三十八カ国によって締結された重力地雷禁止条約が結ばれた都市はどこ? マレーレです」

 重力地雷は大地の力を暴走させ、人を殺傷する兵器だ。戦争中、重力地雷にやられて死んでいく戦友を何度も見た。起爆すると、耳鳴りがして、周辺の空気がへこむ。殺傷範囲内にいた人間は、脳がつぶれ、眼球が飛び出し、尻の穴から内臓が吹き出す。知恵も力も勇気も関係ない。踏めば死ぬ。本当に悲惨な光景だった。

「フリット・デンバーさんボール一つ獲得できますが、誰のボールを取りますか」

 司会のセレ・ハリスの問いかけに、フリット・デンバーは少し悩む様子を見せた。

「テンヒル・バーナーさんのボールをいただきます」

 俺か。

「おっと、フリット・デンバーさん、ボールを四つ持っている解答者ではなく、ボールが三つのテンヒル・バーナーさんのボールを奪いました。それだけ、テンヒル・バーナーさんが強敵だということでしょう。テンヒル・バーナーさんボールを一つ失い、二つになります。フリット・デンバーさんは、ボールを一つ手に入れ、ボールの数は四つになります。コニャック・ペローさん四つ、ローレット・レレンさん四つ、では次の問題です」

 マジか。いや、戦略としては間違ってはいない。客観的に見ても、四人の中では、俺とテンヒルさんが一番強い。一番強い敵を潰せば、二番目に強い者が勝つことになる。

「第十三問」

 最低でも、これから四回、正解を積み上げていかなければならないのか。けっこうきついな。

「剥離魔素であるポリウラムを、魔素合金であるカペストラルに化合することによって起こる反応を何という?」

 全くわからない。

 ポン!

「四番、ローレット・レレンさん」

「赤銀反応」

「正解です。剥離魔素であるポリウラムを、魔素合金であるカペストラルに化合することによって起こる反応を何という? 赤銀反応です。ローレット・レレンさんボールを一つ獲得できます。どなたのボールを奪いますか」

 俺じゃないよな。いくらなんでも、俺二個しかないんだからな。

「一番のフリット・デンバーさん」

 よし、ざまぁみろだ。

「フリット・デンバーさんのボールが一つ、ローレット・レレンさんの元へ移動します。これにより、フリット・デンバーさんが所持しているボールは三つ、ローレット・レレンさんが所持しているボールは五つになります。ローレット・レレンさんリーチです。あと一問正解すると優勝ということになります。では、次の問題です」

「第十四問」

 次の問題で、誰かがローレット・レレンより早く押さなければならない。集中する。

「西ハリマークに伝わる」

 あれだ。砂漠地帯のややこしい名前の料理だ。

 押すか。 

「ウサギ肉と羊肉を使った」

 不正解を出すと、俺のボールは一つになってしまう。

 横を見る。

 コニャック・ペローは歯を食いしばり、毛深い指先から伸びた爪を小刻みに震わしている。フリット・デンバーは身をかがめ問題を注意深く聞いている。ローレット・レレンは落ち着いた表情でボタンに手を添えている。

 この問題で、ローレット・レレンが正解を出せば終わりだ。ローレット・レレンは押しは重めだが、押さないとは限らない。だが、俺が押して間違えたら俺のボールは一つになる。そうなると取り返すのはかなりきつい。

「伝統料理」

 ポン!

 押した。

「三番、テンヒル・バーナーさん」

 長い名前だ。これが問題の答えになっている可能性は高い。

 他にないよな。たとえば、西じゃなくて、東ハリマークの伝統料理とか、ないよな。

「カーレツバーグオトキシン」

 答えた。

 司会のセレ・ハリスが目を大きく広げ口を横一文字にした。

 これだよな。

 これだろ。長くて変な名前だから問題にしたんだろ。

 早く言ってくれ。

 どう? どう?

「ざんねーん! 不正解でーす! 西ハリマークに伝わるウサギ肉と羊肉を使った伝統料理、カーレツバーグオトキシンですが、それに使われる赤い香辛料は何? ペリゴンでした。テンヒル・バーナーさん不正解でーす」

 くそが! 異世界! おい、司会者! てめぇ、今けっこう引き延ばしただろ! 愉快そうな顔すんじゃねぇ! くそがー!

「テンヒル・バーナーさん不正解によりボールを一つ失います。テンヒル・バーナーさんのボールを箱の中へ移動してください。テンヒル・バーナーさんが所持しているボールは一つになります。箱の中にボールがあるため、次の問題の正解者は、他の解答者からボールを奪うことはできません。ローレット・レレンさん変わらずボール五つ、リーチのままです。それでは、次の問題です」

 くそ! ボールが一つになってしまった。

 あの場合ローレット・レレンに取られる可能性があった。だから押した。間違ってはいないけど、ここから、五つ集めるのは、さすがにきつい。ボールの数に余裕がある奴らが答えればよかったんだ。くそ!

「おじいちゃーん! がんばれー!」

 観客席から、エレナの声が聞こえた。

「エレナ」

 顔を赤らめ応援してくれている。ネコのテンヒルさんもエレナの膝の上で空中をかきかきしている。

 そうじゃな。負けてられん。孫が見ているのに、みっともないまねはできん。孫じゃないけど。

「第十五問」

 よし、やるぞ!

「ネックテッツにて、年間三千五百本の通過点をたたき出した」

 スポーツか。やばいな。じいさん、競技名すら知らないぞ。よりによってこんなときに。

「マトレラーラ東リーグ所属の選手は」

 ポン!

「二番、コニャック・ペローさん」

「プルン・ガウラ」

「正解です。ネックテッツにて、年間三千五百本の通過点をたたき出したマトレラーラ東リーグ所属の選手は誰? プルン・ガウラでした。コニャック・ペローさんボールを一つ獲得、箱の中にボールがあるため、他の解答者からボールは奪えません。コニャック・ペローさんの所持しているボールは五つになり、ローレット・レレンさんと同じく、リーチとなります。では次の問題です」

 リーチが二人か。押しの早いコニャック・ペローがリーチとなると、こちらも、お手つき覚悟で、とにかく早く押すしかない。

「第十六問」

 いくぞ。

「樹暦1780年にタルベ」

 ポン!

 押した。

「三番、テンヒル・バーナーさん!」

 司会のセレ・ハリスは驚いた表情を見せた。

「パリック島」

 パリック島は、アマダイルという名前の巨大な亀の魔物の死骸によってできた洋上の浮き島だ。タルベル国の港に徐々に近づいてきたため、サーナンド国の沖合に移送された。その後、テリント戦争時にデパル国軍の艦隊砲撃により沈んだ。

「正解です。樹暦1780年にタルベル国からサーナンド国に移送された浮き島の名前はなんでしょうか。パリック島です。テンヒル・バーナーさんボールを一つ獲得、箱の中にボールはありません。どなたのボールを奪いますか」

 五つボールを持っているのが、ローレット・レレンとコニャック・ペローだ。ローレット・レレンはボタンを押すのは遅いが知識は深い。コニャック・ペローは押しがかなり早い。どちらを選ぶか。

「四番のローレット・レレンさん」

 早押しなら、勝負になるが、知識のない問題は答えられない。ローレット・レレンの方が危ないと俺は考えた。

「ローレット・レレンさんのボールがテンヒル・バーナーさんの元へ移動します。これにより、ローレット・レレンさんのボールは四つに、テンヒル・バーナーさんのボールは二つになります。コニャック・ペローさんのボールは五つと変わらず、リーチです。では次の問題です」

「第十七問」

 箱にボールがない状態で、正解すれば相手のボールを奪うことができる。一つ正解すれば、二つ分の効果があるということだ。まだ可能性はある。

「樹暦前4000年頃に、洞窟」

 ポン!

 押した。

「三番、テンヒル・バーナーさん!」

 洞窟となると、現存する術式の中で最古の術式、カペロス洞窟の術式関係の話で間違いないだろう。ただ、答えが『カペロス洞窟の術式』では、問題として簡単すぎる。だとしたら、答えは発見者のターレック・モレイの可能性が高い。もう少し問題を聞いてから押したいところだが、問題をじっくり聞いてからの早押しとなると、コニャック・ペローの方が早い。このタイミングで押すしか選択肢はなかった。

「ターレック・モレイ」

 どうだ。

「正解です! 樹暦前4000年頃に、洞窟に書かれたカペロス洞窟の術式ですが、発見者は誰でしょう。ターレック・モレイでした。テンヒル・バーナーさん二連続で正解です。追い上げてきました。テンヒル・バーナーさんボールを一つ獲得となります。箱の中にボールはありません。誰のボールを奪いますか?」

「二番のコニャック・ペローさん」

「二番のコニャック・ペローさんのボールを一つ、テンヒル・バーナーさんの元へ移動してください。これにより、テンヒル・バーナーさんのボールは三つになります。コニャック・ペローさんはボールを一つ減らし四つになりました。では、次の問題です」

 よし! いけるぞ。追いついてきた。

 コニャック・ペローが横で歯をむきだし喉をぐるぐると鳴らしている。

「第十八問」

 リーチの人間は誰もいなくなった。

「神話にて、邪竜の生け贄で、体に鉄の鎖を巻かれ湖に沈められた」

 邪竜に名前はない。生け贄のカルヒ姫か、助けたヘルメルヒか。二択だな。

 ポン!

「二番、コニャック・ペローさん」

 コニャック・ペローは身を乗り出した。

「ヘルメルム」

 司会のセレ・ハリスは少しためた。

「正解です。神話にて、邪竜の生け贄で、体に鉄の鎖を巻かれ湖に沈められたカルヒ姫を助けた半獣の神は誰? 答えは、ヘルメルムでした」

 コニャック・ペローは息を鋭くはいた。

 コニャック・ペローがボタンを押した段階では、答えは完全に二択だった。五十パーセントの確率なら悪い勝負ではないだろうが、五十パーセントの確率なら俺は押さない。せめて六、七十パーセントは傾いてないと、押す気にはなれない。この辺は自己満足の世界だろう。

「コニャック・ペローさん正解ということで、ボールを一つ手に入れることができます。箱の中にボールはありません。誰のボールを奪いますか」

「三番、テンヒル・バーナー」

 コニャック・ペローは歯をむき出し笑った。

 くそ! また俺か。

「テンヒル・バーナーさんのボールを、コニャック・ペローさんの元へ移動してください。これにより、テンヒル・バーナーさんのボールは二つ、コニャック・ペローさんのボールは五つになります」

 これじゃあ、いつまで経ってもボールは増えない。

「おじいちゃーん! 負けないでー!」

 エレナの声が聞こえた。

 ありがとうよ。エレナ。

 俺は、追い詰められれば追い詰められるほど、孫のエレナに応援されるのだ。孫じゃないけど。

「一番、フリット・デンバーさん三つ、二番、コニャック・ペローさん五つ、三番、テンヒル・バーナーさん二つ、四番、ローレット・レレンさん四つ、コニャック・ペローさんリーチです。では、次の問題です」

「第十九問」

 よし来い!

「ことなる属性の魔力を反応させることによって生じる現象を」

 ポン!

「一番、フリット・デンバーさん」

「魔力反応」

「正解です。ことなる属性の魔力を反応させることによって生じる現象をなんというでしょうか。魔力反応です」

 前回優勝者のフリット・デンバーは、ひねりのない問題をうまく答えている。読み手のくせから問題の終わりを予測し、ボタンを押しているのかもしれない。

 残念ながら、この国の言葉をテンヒルさんの脳を通して理解している俺は、読み手の細かいニュアンスや言葉のくせまでは理解できない。

「箱の中にボールはありません。フリット・デンバーさんは他の解答者からボールを奪うことになります。誰のボールを奪いますか」

「コニャック・ペローさん」

 フリット・デンバーは言った。

「コニャック・ペローさんからボールを一つ取り、フリット・デンバーさんの元へ移動となります。これにより、フリット・デンバーさんのボールは四つ、コニャック・ペローさんのボールは四つになります。では、次の問題です」

「第二十問」

 リーチの人間は誰もいなくなった。

「洗浄魔法をぶつけ合うことによって汚れを取る洗濯機を」

 じいさん、この手の生活機械は、店員に勧められた物を買うようにしているようだから、知識はないな。

「共鳴式洗濯機といいますが、洗浄魔法を積み上げていく形で汚れを取る洗濯機をなんというでしょうか」

 誰もボタンを押さない。

 洗濯機に詳しい者はいないようだ。

「残念、時間切れです。洗浄魔法をぶつけ合うことによって汚れを取る洗濯機を、共鳴式洗濯機といいますが、洗浄魔法を積み上げていく形で汚れを取る洗濯機をなんというでしょうか。答えは、上下式洗濯機でした。エディ商会では、二十七もの洗浄式を積み上げた上下式洗濯機、ヨゴセリアを発売しております。二十七もの洗浄式によって衣類を上下に洗浄し、衣類を傷めず、ついた油汚れ泥汚れを浮かせるように取り除いていきます。ご興味のある方は、エディ商会家庭用魔法部門へお訪ねください」

 エディ商会は、洗濯機まで作っているのか。幅広いな。

「解答者は、いませんでしたので変わらず、では次の問題です」

「第二十一問」

 よし、いくぞ!

「国に残る紙に書かれた最古の詩集は」

 ポン!

「二番、コニャック・ペローさん」

 これはさすがに続きがあるんじゃないか。

「サルヴァージュの詩集」

「残念、不正解です。国に残る紙に書かれた最古の詩集は『サルヴァージュの詩集』ですが、紙に残る最古の小説は何でしょうか。笛太鼓でした。二番のコニャック・ペローさん不正解ということで、ボールを一つ取らせていただきます。所持しているボールは三つになります。ボールは箱の中に移動しますので、次の問題の正解者は、箱の中のボールを手に入れることができます。他の解答者からボールを奪うことはできません。では、次の問題です」

「第二十二問」

 よし、来い!

「移動する要塞同士の戦争を書いた」

 小説か。

「アボール・フェネティクス作の『大地のとどろき』ですが」

 タイトルぐらいしか知らないな。

「その中で主人公のデデ五七八の職業は何?」

 ポン!

「四番、ローレット・レレンさん」

「配管工」

「正解です。移動する要塞同士の戦争を書いたアボール・フェネティクス作の『大地のとどろき』ですが、その中で主人公のデデ五七八の職業は何? 配管工でした。四番、ローレット・レレンさん、ボールを一つ獲得、箱の中にボールが一つあるので、他の解答者から奪うことはできません。所持しているボールの数は、五つになります。リーチです。では次の問題です」

「第二十三問」

 ローレット・レレンより先の押さないと勝つのは難しくなる。

「槍の試合結果によって」

 ポン!

「四番、ローレット・レレンさん!」

 早い。これで、ローレット・レレンが正解を出せば優勝が決まる。

 何の問題だ。スポーツでもないし、試合結果によって、何が決まるんだ。歴史、そうか。

「血の区分け」

「正解です! 槍の試合結果によって、身分が決まる古代ヘップロスの制度は何? 血の区分けです。お見事! ローレット・レレンさん! ボール六つ獲得! 第二十七回、ラトス、モンド大会の優勝者は、ローレット・レレンさんです!」

 拍手が起こる。

「すげぇぞ! レレン!」

 観客席にいたローレット・レレンの友人、ベン・シャポルの野太い声が響いた。

 ローレット・レレンは照れたように笑った。 

 負けたー。

 最後の問題は見事だった。完全に負けた。ひょっとしたら、あの問題は、この世界では、よくある問題で、それをたまたま、ローレット・レレンが知っていたのかもしれない。

 敗因は、飛ばしすぎて、フリット・デンバーとコニャック・ペローに目の敵にされたことだろう。あの二人にボールを取られなければ、俺が優勝する可能性は高かったはずだ。

「おじいちゃーん! すごかったよー!」

 孫のエレナが黒猫のテンヒルさんを抱えながら手を振っている。

 でも、まぁ、楽しかったかな。

 異世界に来て、老人の体になって、孫までできて、最初はびっくりしたけど、孫に応援されながらクイズ大会に出るのは、楽しかった。

 あれ? 

 椅子から立ち上がろうとしたら体が動かなかった。 

 体も視線も動かない。すべてが止まって見えた。

 これ、あの時の、異世界に来る前の現象だ。

 そうか。魔法が解けたのだな。テンヒルさんの願いを叶えてしまったんだな。

 見えている物がずれていく。

 ずるりと、体がずれた。意識だけが落ちていく。そのまま下へ、落ちていく。

「ありがとよ」

 意識が移動していくなか、テンヒルさんの声が聞こえた。




 変わる。

「次の問題です」

 どうなった。ここはどこだ。問題?

「アマニタ・パンセリナ」

 誰かが問題を読んでいる。誰だっけ。

 ピン! 解答ランプがつく。

「五番、坂木さん」

 つい押してしまった。

「えっと、中島らも」

「正解です。アマニタ・パンセリナ、今夜、すべてのバーで、ガダラの豚、などの著作で知られる作家は誰? 中島らもでした」

 ぱらぱらと拍手が起こった。観客席にクイズ研究会の先輩や同級生がいる。手元にはクイズのボタンがある。

 戻ったのか。

 時間が経過していないのか、クイズ大会の途中、俺が異世界に行ったときの状況だった。

 頭を触った。

 ある。

 頭皮をしっかりと覆う髪の毛がある。手はハリがあってしみ一つない。目もよく見える。耳も良く聞こえた。

 戻ったんだ。十九歳に戻ったんだ。帰ってきたんだ。よかった。

 ああ、でも、もうエレナとは会えないのか。孫のエレナ、別の世界の人間で、もう、会えないとなると、無性に悲しくなる。

「それでは、次の問題です」

 そういや、クイズ大会の最中だったな、正直今はそんな気分じゃない。異世界から帰ってきたばかりだし、異世界でもクイズをたっぷりやってきたところだ。しばらくは、ゆっくりと、自分の身に何が起こったのか考えたい。

「国の重要文化財である、日光菩薩、月光」

 ピン!

 押した。




 了


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