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異世界クイズ  作者: 畑山
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決勝戦その二


「テンヒル・バーナーさん、フリット・デンバーさんからボールを一つ手に入れたことによって、所持しているボールの数が四つになります。フリット・デンバーさんは三つ、コニャック・ペローさん三つ、テンヒル・バーナーさん四つ、ローレット・レレンさん四つです。では次の問題です」

「第四問」

「海竜が起こしていると信じられていた」

 海、自然現象。

「アバドン沖で起きる海水の」

 押した。 

 ポン!

「三番、テンヒル・バーナーさん!」

 隆起現象は。

「海のたてがみ」

「正解です。海竜が起こしていると信じられていた。アバドン沖で起きる海水の隆起現象をなんという? 海のたてがみです」

 七月の終わりに、アバドン沖で線状に海が隆起する現象である。サナ海岸近くに住む、部族の伝承では、海底深くに住む巨大な海竜の息吹によって、起こると伝えられてきたが、実際は、産卵期のハネクラゲがアバドン沖に集まったことにより起こる現象である。

「さぁ、テンヒル・バーナーさん、連続でボールを獲得、誰のボールを奪いますか?」

 司会のセレ・ハリスが笑顔を浮かべながら言った。

 なんだろう。この人こんな人だっけ、なんかちょっと楽しそうにしている気がする。

「四番の、ローレット・レレンさん」

 他に四つボールを持っているのはローレット・レレンだけだ。

「では、ローレット・レレンさんのボールを一つ、取り出し、テンヒル・バーナーさんの元へ移してください」

 運営スタッフがボールを移した。

「これで、テンヒル・バーナーさんが所持しているボールは五つです。あと一つ、手に入れれば、テンヒル・バーナーさんの優勝となります。では、次の、問題です」

 空気が少し変わったような気がした。

 あと一問、俺が正解を出せば、この大会は終わる。それを阻止するためには、俺以外の解答者は俺より早くボタンを押さなければならない。他の解答者全員が俺の敵になるということだ。

「第五問」

 押せなければ終わり、ペナルティはボールを一つ失うだけ、俺以外の解答者は、誤答覚悟で押してくるだろう。

「魔力の浸潤を使った金属加工技術を」

 ポン!

「二番、コニャック・ペローさん!」

 コニャック・ペローはネコ族特有の黒目がちの目を泳がせていた。

「ま、魔力加工」

 答えた。

「残念、不正解です。続きがあったんですね。魔力の浸潤を使った金属加工技術を、魔力加工と、いいますが、魔石を混ぜ込む金属加工をなんと言うでしょうか。答えは、混合加工です。二番コニャック・ペローさんは不正解と言うことで、ボールを一つ没収させていただきます」

 運営スタッフがコニャック・ペローの筒からボールを一つ取り出し、読み手のエム・カルラさんの机の上にある透明な箱の中に入れた。

「コニャック・ペローさん、ボール一つ没収ということで、所持しているボールは二つになります。次の問題の正解者は、この透明な箱の中に入っているボールを手に入れることができます。次の問題に正解しても、正解者は、他の解答者からボールを奪うことはできません。では、次の問題です」

 コニャック・ペローのおかげで、次に俺以外の人間が正解を出しても、箱の中のボールが一つなくなるだけで、俺のボールは奪われずにすむ。とはいえ、俺が誤答した場合、俺のボールが一つ失われることになる。押しにくい面もある。

「第六問」

 隣の席にいるコニャック・ペローが、ぐるぐると悔しそうに、うなり声を上げている。さっきの誤答を悔いているのだろう。

「ことわざ、『野菜売り、石を捨てる』の」

 石、語源、ミスリルか。どうする。押すか。ちょっと、待つか。

「石は」

 押した。

 ポン!

「二番、コニャック・ペローさん!」

 くそ! 押し負けた。

「ミスリル!」

「正解です! ことわざ、『野菜売り、石を捨てる』の石は、何の石? ミスリルです。コニャック・ペローさん見事ボールを取り返しました」

 運営スタッフが透明な箱の中に入ったボールを一つ取り出し、コニャック・ペローの机の筒に入れた。その様子をコニャック・ペローは満足げな様子で見つめている。

 漬け物を漬けるための石を探していた野菜売りが、子供が拾ってきた高価なミスリルの石を軽くて使えないと捨ててしまった。物の価値は人によって変わるという意味の、ことわざである。ちなみに、その野菜売りが捨てた石をたまたま拾った男が、それを元手に商売をはじめ、大金持ちになったことから、『軽石が化ける』ということわざが生まれた。

「コニャック・ペローさん、ボールを一つ取り返したことにより、所持しているボールの数が三つになります。フリット・デンバーさん、三つ、ローレット・レレンさん、三つ、テンヒル・バーナーさん五つ、テンヒル・バーナーさんリーチです。ただし、次の問題からは、正解者が他の解答者のボールを奪うことができるようになります。では、次の問題です」

「第七問」

 状況はそんなに変わっていない。次の一問を答えれば良いだけだ。

「胸元に黄色い丸が二つ重なったようなマークがあることから」

 キンラク鳥。

 これ続きがあるよな。

「二重鳥という名前で呼ばれることがある」

 キンラク鳥だ。押すか。

「キンラク鳥ですが」

 おっと、押さなくて良かった。

「そのキンラク鳥を国旗に描いている南ペロニア大陸にある国はどこでしょう」

 わからん。

 残念ながら、じいさんは、この世界にある国旗をすべて覚えてはいない。世界の国名、国旗、首都、クイズ愛好家なら、知っていて当たり前の知識なのだが、テンヒルさんは、クイズ好きってわけでもないのだ。

 少し時間が経ったあと、フリット・デンバーがゆっくりとボタンを押した。

 ポン!

「一番、フリット・デンバーさん」

 フリット・デンバーは顔をしかめている。記憶を絞り出しているのだろう。

「タラダラ共和国、かな」

 フリット・デンバーは、自信なさげに答えた。

「正解です。胸元に黄色い丸が二つ重なったようなマークがあることから二重鳥という名前で呼ばれることがあるキンラク鳥ですが、そのキンラク鳥を国旗に描いている南ペロニア大陸にある国はどこでしょう。タラダラ共和国です」

「パパー」

 と観客席から母親らしき女性の膝の上に抱かれた小さな子供の声が聞こえた。

 フリット・デンバーはうれしそうに笑った。

「フリット・デンバーさん、ボール一つ獲得です。箱の中にはボールはありませんので、他の解答者からボールを奪わなければなりません。誰のボールを、奪いますか」

「テンヒル・バーナーさんのボールをいただきます」

 フリット・デンバーが言った。

 まぁ、そうなるだろうな。

「では、テンヒル・バーナーさんのボールをフリット・デンバーさんの元へ移動させます。これによって、フリット・デンバーさんはボールが四つ、テンヒル・バーナーさんはボールを一つ失い、所持しているボールは四つになります。では次の問題です」

「第八問」

 よし、取り返していこう。

「消費した魔力を光に変換した場合、得られる光量を計算する数式をフ」

 ポン!

 しまった。

「三番、テンヒル・バーナーさん」

 続きがまだあったか。慌ててしまった。

 フーリーの定理が答えだと思って押してしまった。何かの定理が答えだと思うけど、なんだろう。魔力を光に変換、置換、還元、出てこないな。魔法化学関係の知識はあまりない。闇はどうだ。光の反対で闇、なにかあるか。定理定理。

「テンヒル・バーナーさん?」

 司会のセレ・ハリスが言った。

 時間切れか。

「おー、すまん。あれだ。うん、ボレリーの定理?」

 これしか思いつかない。

 司会のセレ・ハリスが少しためる。

 どう?

「正解です! 消費した魔力を光に変換した場合、得られる光量を計算する数式をフーリーの定理といいますが、光を吸収する闇の魔力量を計算する数式は何? ボレリーの定理でした。三番、テンヒル・バーナーさん見事に問題を読み切りました。正解です」

 よし! あたった!

 拍手が起こる。観客席を見るとエレナがうれしそうに手を叩いている。

 ボタンを押してしまったときは焦ってしまったが、ぎりぎりでひねり出した。これでまたリーチだ。

「さぁ、テンヒル・バーナーさん、誰のボールを奪いますか」

 セレ・ハリスは実に愉快そうに聞いてくる。

「えー、フリット・デンバーさん」

 観客席を見ないようにして答えた。

「では、フリット・デンバーさんのボールを一つ取り出し、テンヒル・バーナーさんの元へ移動してください」

 運営スタッフがボールを移動させた。

「テンヒル・バーナーさん、ボールを五つ、所持していることになります。再びリーチです。では、次の問題です」

「第九問」

 ようし、次こそは決めるぞ。

「ペルニア湖周辺でとれる」

 魚かな。

「顔の保水や老廃物を取るために使われる泥を使った美容法を何という?」

 美容関係か。横を見る。誰もピンときていないようだ。

 時間が経つ。

「時間切れです。ペルニア湖周辺でとれる顔の保水や老廃物を取るために使われる泥を使った美容法を何という? パトリル泥パックです。エディ商会所有のホテルでも、ペルニア湖周辺でとれる泥パックを使ったパトリル泥パックを行っていますので、お泊まりの歳は是非ご利用ください」

 エディ商会クイズか。正解者がいないと、微妙な空気になっちゃうな。

「えー、正解者がいませんでしたので、ボールの数は変わりません。では、次の問題です」

「第十問」

 行くぞ。

「樹暦十五世紀頃、香草地帯と呼ばれ」

 この世界では、麻薬のことを、香草とあらわすことがある。

 ポン!

「四番、ローレット・レレンさん」

 問題の途中で、ボタンを押したローレット・レレンはしばらく、困った顔をした後、少し小さな声で答えた。

「デルダーク国」

 デルダーク国は、麻薬の栽培を主産業としていた国だ。ケルロック、パイロン、スレロリアの三カ国の連合軍に滅ぼされた。国自体はなくなったが、麻薬組織は依然としてあり、未だに麻薬が生産されている。

「正解です。樹暦十五世紀頃、香草地帯と呼ばれ、ケルロック、パイロン、スレロリアの三カ国によって、滅ぼされた国家ぐるみで麻薬の栽培を行っていた国の名前は何? デルダーク国でした」

 ローレット・レレンは、うれしそうに頬を緩めた。

 いいぞー! と観客席にいたベン・シャポルが叫んだ。ローレット・レレンは、すまし顔に戻った。

「ローレット・レレンさん正解ということで、ボールを一つ手に入れることができます。箱の中にボールはありませんので、他の解答者からボールを一つ手に入れることができます。誰のボールを手に入れますか」

 当然。

「テンヒル・バーナーさん」

 そうなる。

「テンヒル・バーナーさんのボールを一つ取り出し、ローレット・レレンさんの元へ移動してください。これにより、テンヒル・バーナーさんの所持しているボールは四つ、ローレット・レレンさんのボールも四つになります。では次の問題です」



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