決勝戦
決勝戦進出の残り一枠を巡り、ベン・シャポル、マリー・ペテル、トーリル・マクゴネル、ローレット・レレンの四名が争い、エルフのローレット・レレンが勝った。決勝戦進出は、フリット・デンバー、コニャック・ペロー、俺、ローレット・レレンに決まった。
「創業以来百七十年、地域の皆様に愛され、ホテル、観光、日用品まで、幅広く展開してきたエディ商会によるイベント、ラトス、モンド大会、その二十七回目の優勝者を決める決勝戦が始まります」
司会のセレ・ハリスが力強く話すと、笛の音と小さな太鼓を叩く音が舞台のわきから聞こえた。観客席からぱらぱらと拍手が鳴った。観客席は八割ほど埋まっている。
「決勝戦に進出したメンバーを紹介したいと思います。一番、フリット・デンバーさん」
拍手が起こる。観客席から、息子さんだろうか、パパー、という子供の声が聞こえた。
前回優勝者のフリット・デンバーは少し恥ずかしそうにしながら、運営スタッフに案内され解答者席に座った。
四つの解答者席が用意されており、端から順に、一、二、三、四と番号が振られている。司会のセレ・ハリスに紹介されながら、それぞれ解答者席に座った。一番の椅子にフリット・デンバー、二番はネコ族のコニャック・ペロー、三番は俺で、四番はエルフのローレット・レレンが座った。
「決勝戦のルールを説明したいと思います。決勝戦は早押しモンドです。正解を出した解答者は、このボールを一つ手に入れることができます。決勝戦では、このボールを六つ、一番最初に集めた方が第二十七回目の優勝者になります」
司会のセレ・ハリスはピンク色のゴムボールを手にした。それぞれの解答者席には透明な筒があった。
「解答者は、最初に、それぞれ三つのボールを持っています」
ピンク色のゴムボールを持った運営スタッフが、それぞれの席にある透明な筒に三つずつゴムボールを入れていった。
「問題を正解した解答者は、ボールを一つ手に入れることができますが、この箱の中にボールがある場合は、この箱の中のボールからしか手に入れることはできません。最初は二つ、ボールが入っています」
透明な箱の中には二つのボールがあった。
「問題を間違えた解答者は、ペナルティとしてボールを一つ取らせてもらいます。そのボールはこの箱の中に納めさせていただきます。解答者の方のボールがゼロ以下になることはありません。それ以降の不正解を出した場合は、二問解答権を失います」
今までのルールとは違い、不正解だとボールを一つ取られるだけだ。所持しているボールがなくなれば、それ以降は今までのルール通り、二問解答権を失うということになる。
「この箱の中のボールがない場合は、正解者は、他の解答者からボールを一つ奪うことができます。他の解答者からボールを奪い、あるいは、箱の中のボールを手に入れ、ボールを六つ、一番最初に、集めた方が、エディ商会主催、第二十七回、ラトス、モンド大会優勝者となります」
元々あるボールが三つ、解答者四名で、合計十二、それに、最初から箱の中に入っている二つのボールを加え、合計十四のボールを奪い合い、先に六つ集めた者が優勝するというルールだ。
「それでは決勝戦、始まります」
「第一問」
読み手は引き続きエム・カルラさん。
「樹暦1356年頃、サンベルムの森周辺に」
サンベルムか。
「人馬の姿であらわれ」
人馬は、子供をさらう、下半身が馬で、上半身が人間の、ケンタウロスをまがまがしくしたような姿の架空の魔物だ。カリキュット人馬事件だろうか。
ポン!
おっ、早いな。
「一番、フリット・デンバーさん」
「ペリカオット神父」
「正解です。樹暦1356年頃、サンベルムの森周辺に、人馬の姿であらわれ、混乱を招いた罪で捕らえられた人物は誰? ペリカオット神父です。フリット・デンバーさん一問正解と言うことで、ボールを一つ手に入れることができます」
運営スタッフが箱の中に入っているピンク色のゴムボールを一つ取り出し、フリット・デンバーの机の上に置かれている透明な筒に入れた。箱の中のボールはあと一つ残っている。
地元の神父であるペリカオット神父が、馬の皮と荷車を使い、人馬に仮装し、霧深い森の中を練り歩いたことから起こった騒動である。騒ぎが広がり、サンベルム騎士団が乗り出すことになった。
霧深い森の中でたたずむ、人馬に騎士が矢を放ったが、効かず、人馬は、からからと笑いながら森の奥に去っていた、なんてことがあったそうだが、実際のところ、神父が引いている馬の皮をかぶせた荷車にあたり、慌てて逃げていく神父の荷車の車輪の音が、笑い声のように、からから鳴っただけの話だ。
最終的には、森で暮らす猟師が変な格好をした神父が森にいたと証言し、捕まった。ペリカオット神父は、森に子供達が入らないように怖がらせたかったと言ったそうだ。その後、カリキュットで裁判が行われたが、ただのいたずらだと言うことで、注意を受け、放免になった。その話を、劇作家、トリーチュ・ワローが、カリキュット人馬事件として劇にし有名になった。
「フリット・デンバーさん、ボールを一つ手に入れたことにより、ボールの数は四つ、あと二つ手に入れれば優勝です。では、次の問題です」
「第二問」
この問題で正解が出れば、箱の中のボールはなくなる。
「薬の原料として乱獲され」
生物関係か。
「絶滅の危惧に追い込まれた生物を保護するために」
指が動きそうになったが止めた。
「作られた組織を、薬材自然保護機構といいますが」
危ない。押していたらお手つきだった。
「その初代総長は誰でしょうか?」
知らないな。
ポン!
「四番、ローレット・レレンさん」
「ケビン・マッケンヤー三世」
「正解です。薬の原料として乱獲され絶滅の危惧に追い込まれた生物を保護するために作られた組織を、薬材自然保護機構といいますが、その初代総長は誰でしょう? ケビン・マッケンヤー三世でした。ローレット・レレンさん、ボールを一つ獲得、ボールの数は四つになります」
運営スタッフが箱の中のピンク色のゴムボールを取り出し、ローレット・レレンの机の上に置かれている透明な筒に入れた。これで、箱の中のボールはなくなる。
「箱の中のボールがなくなりましたので、正解者は他の解答者のボールを奪えるようになります。正解なさった方には、私がこう聞きます。誰のボールを奪いますかと、そしたら答えてください。○○さんのボールを奪いますと、スタッフが、名前を言われた方のボールを取り出し、正解者の筒の中に入れます。そうやって、六つ集めてください。不正解を出した解答者は、ペナルティとして、ボールを一つ取らせていただきます。そのボールは箱の中に納めます。箱の中にボールがある場合は、他の解答者からボールを奪えませんので、お気をつけください。では、次の問題をどうぞ!」
「第三問」
ボールを奪う人間の名前を言わなければならないのか、ちょっといやだな。
「手の爪に塗る」
ポン!
「三番、テンヒル・バーナーさん!」
しまった。ベタ問すぎて、つい押してしまった。
手の爪に塗るのはマニキュア、では、足の爪に塗るのは? という系統の問題だと思うのだが、異世界で、このベタ問があるのだろうか。早まったかなぁ。でもまぁ、押しちゃったし、仕方ないか。
「スリパリパ?」
答えた。
「正解です。手の爪に塗る化粧品をパニッサといいますが、足の爪に塗る化粧品をなんと言うでしょうか。答えは、スリパリパです」
観客席から拍手が起こる。
黒猫のテンヒルさんを抱えたエレナが、おじいちゃーん! といいながら、右手を振っている。
「では、テンヒル・バーナーさん、ボールを一つ獲得する、前に、やらなければいけないことがあります。箱の中にはボールはありません。そのため他の解答者からボールを奪う必要があります。では、テンヒル・バーナーさん、誰のボールを奪いますか?」
司会のセレ・ハリスが言った。
おう、妙な圧力を感じる。横を見ると他の解答者が目をそらした。
現在ボールを四つ持っているのが、フリット・デンバーとローレット・レレンの二人、俺とコニャック・ペローは共に三つだ。当然四つ持っているフリット・デンバーとローレット・レレンから奪うのが順当だろう。
問題は、どちらから奪うかだ。前回優勝者であるフリット・デンバーは押しが、かなり強い。ローレット・レレンはエルフと言うこともあり、持っている知識は多岐にわたって深い。押しは弱いものの、決勝戦となると問題の質も上がる。どちらも手ごわいが、これは早押しクイズだ。やはり、前回優勝者であるフリット・デンバーからボールをいただくのが妥当だろう。
「じゃあ、一番のフリット・デンバーさん」
「よろしいのですね」
「あ、はい」
なんだろう。変な罪悪感を感じる。
「では、一番のフリット・デンバーさんのボールを一つ取り出し、三番のテンヒル・バーナーさんに移動してください」
運営スタッフがフリット・デンバーの机に置かれている筒からピンク色のボールを取り出し、俺の机の筒の中に入れた。
パパ、という悲鳴のような小さな声が聞こえた。
観客席を見ると、フリット・デンバーの息子さんだろうか。悲しそうな顔をしていた。




